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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
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実験内容

 カレンが見せた物は、透明な筒状の容器……ガラスのような物で構築されており、その中――中心に魔力が宿っていた。


「どんな物なのかわかるか?」

「中心部の光を観察してみてください」


 カレンの言葉により俺はじっと光を見据える。そこで一つ気付いた。


「……なるほど、な」

「どんな物なの?」


 質問はクロエから。彼女だけは魔法的な知識が疎いからな。


「そうだな、簡単に言うと……魔力を圧縮させる技術、かな」

「圧縮?」

「魔力というのは質量がないため、どれだけ厚みを増しても問題はない……が、その代わり圧縮させる行為そのものが結構大変だったりする」

「その大変な技術について研究していると」

「そんな単純な話なら、いいんだけどな」


 ダナーに視線を送ると彼は青ざめたまま……こちらがどういうものなのか悟っているので、どうしようもないと考えているようだ。


「問題は、圧縮して何に使うかだよな?」

「そうね。例えば魔力強化に活用するとかなら、瞬間的に能力を大きく向上させる……とか、そういう発想ができるわよね」

「正解だ。それが健全な技術だが……こいつは違うみたいだ」

「疑問なんだけど、なぜわかるの?」

「魔力の質……かな」


 俺は言いながらダナーに視線を送った。


「もしこれを破壊したらどうなる?」

「や、やめろ……」

「訊くまでもないか。おそらく周囲に魔力が拡散して、暴走……魔力に飲み込まれれば、最悪人間は破裂、かな?」


 圧縮された魔力には、例えるなら火炎魔法のような爆発的な何かが封じ込められているのが俺にもわかる。単なる身体強化ならばそういう気配を見せない……まあカレンやディクスとかはそれを論理的に説明できると思うが、俺はあくまで感覚的なものだ。


 勇者として魔法などを体得し、戦いを経験したことで得られた感覚……ここでカレンが補足する。


「おそらくですが、他者に付与する系統の魔力ですね」

「他者に?」

「兄さんが仰ったことで大筋合っています。人間を飲み込むと内側に浸食し、暴走する……例えるなら、勇者バルナが変化したようなことができるわけです」

「――おそらく、勇者バルナに施した魔法の、簡易版といったところだろう」


 続いて口を開いたのは、ディクス。


「勇者バルナに対しては、それこそ魔法陣などを形成し、大掛かりな処置を施した。しかしそれを小型化することで、誰にでも容易に魔法を付与することができるようになった」

「なるほど……仮に魔法を誰にも気付かれないように仕込むことだってできるわけだ」

「正解だ」


 俺はふと、なぜそんなことをルウレがやるのか疑問を抱く――仮に国と絡んでいるのならば、これを利用して例えば敵の都市に攻撃――言わばテロだろうか。そうした攻撃も可能と言えば可能になる。そういった戦術を国側が使うかどうかはわからないし非道ではあるが、効果的な戦法とも言える。

 しかしダナーの様子から国と手を結んでいるわけではなさそう……果たしてその理由は何なのか?


「加え、もう一つある」


 ディクスがさらに容器を差し出す。それにも魔力が圧縮されているが、


「こちらは単純に攻撃魔法、かな?」

「そうだな。ただ魔力総量から考えて、一度容器が壊れ暴走したなら、この家の周辺は跡形もなく消し飛ぶかもしれないな」

「……そんな実験をこんな町中でやるとは正気の沙汰じゃない、と思うところだが……」


 俺は二つの容器を一瞥し、


「まだ未完成。つまり容器を破壊しても魔力がしぼむだけで発動には至らない、か?」

「それが答えだな。だからこその実験だろう」


 ディクスは返答しながらダナーに目を移した。


「これが完成すれば、それこそ強力な軍事兵器になる……ただ封じ込める魔法によっては、発動させた人間も巻き込まれることになるな」

「それを防ぐための実験を含まれている?」

「そうかもしれない……さて、問題はこの実験を公にすることで、果たして彼らがお縄につくのかどうか」


 ……微妙なところではある。下手すると「その技術を買った」と言われかねないものだが、


「しかし例えばこの圧縮魔法によって、多数の人間を一度に操る……それこそ、城にいる人間全てがその対象に入るかもしれないと言えば、非常に危険だと判断されるだろう」


 ――ここはたぶん、王様と話を付けているんだろうな。で、ダナーについては体が震えだした。見つかったら相当ヤバいことになると認識している。

 もしかするとこの国で禁忌とされるような技術を用いているのかもしれない。そういうことならダナーの怯えも納得できる。


「……ひとまず悪巧みをしている証拠は手に入ったけど、どうする?」


 俺の問い掛け。ここからルウレの所へ向かうのは既定路線ではあるのだが、


「結論を出す前に、確認だ」


 ディクスはダナーへ問い掛ける。


「なぜこんな馬鹿げた実験をやっている?」

「お、俺はアイツに協力しているだけだ……!」


 そういう弁明が返ってくる。ふむ、相棒に罪をなすりつけているという風にも思えるが、


「本当だ、信じてくれ! この魔法がヤバいことは俺も良くわかっている! だがアイツは俺に押しつけたんだよ!」

「なぜお前に協力を求めた?」

「他の実験のために、常に観察ができない……後は、容器に入る魔力と現在やっている実験の魔力が反発しあうと」


 どこまで本当かわからないが……ダナーに押しつけてもし暴走しても問題ないようにした、なんて可能性もあるな。


「俺がやっているのは、実験を維持するために資材を買っていることくらいだ!」

「それはルウレから金をもらってか?」

「そ、そうだ」

「だがお前は勇者バルナの実験を知っていた……いや、立ち会っていたと言ってもいいかもしれない。そうである以上、共犯なのは間違いないな?」

「そ、それは……」


 言葉を濁す。当然ながら自白はしないだろうけど、言い訳もさすがに苦しいか。

 たぶん実験内容については彼も論理的に説明できるくらいの知識は保有しているだろう……ただ尋問しても彼の口からは喋らないかもしれないな。


「どうする?」


 俺はディクスへ訊く。さすがにこの状況をルウレが察知しているとは思わないが、ここでルウレの所へ行かなければ逃げられてしまうかもしれない。


「……ともあれ、この実験だけではまだ弱いかもしれない」


 やがてディクスは口を開いた。


「それに、現状は状況証拠だけで、彼らが施した魔法が勇者バルナを異形の存在に変えたとは断言できない。そういった証拠になるものは、おそらく主導したルウレの所にあるだろう」

「そうだな。彼らがやっている内容についてはわかった。なら――」

「そうだ」


 俺の言葉を遮るように、ディクスは告げる。


「ルウレに家に踏み込み、証拠を見つける……それでこの事件は終わりになる、だな」


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