彼らの居場所
ルウレの言動からして、勇者バルナは半ばハメられたと解釈していいかもしれない……彼は自らの手記にルウレから教えられたものが秘術だと言っていた。けれど当のルウレからしてみれば、近づいてきた勇者に対し実験を施すことができると考えた――
「おいおい、それは大丈夫なのか?」
対するルウレの相棒、ダナーは心配そうに返答する。
「そこから俺達に辿り着くことは……」
「報告書を見る限り、それはない」
断言するルウレ。情報自体は既に回ってきているか。
ともあれ、その報告書通りならそうした見解を持つのは当然だ。なぜなら――
「勇者と共に魔族討伐に赴いた際、魔物に討たれたらしいからな……勇者として多大な力を持っていたが、それだけ……私の魔法がバレているわけではない」
ギルドを通じて報告された内容は、きちんと改ざん済みである。
これは女王アスリの力もあり、真実について語らないよう箝口令を敷いたのもある。ジクレイト王国の騎士団から漏れることはないし、バルナが率いていた戦士団についても、調査が終わるまでは口外しないようにと言い含めてある。勇者ロウを含め、バルナに対し信頼を得ていた者達ばかりだし、あの結末が魔族によるものではないか――そうした推測を行ったジクレイト王国の言葉に対し、そうだと信用しいずれ真実がわかるまで口を閉ざすというのは当然の成り行きだった。
なおかつ、ルウレは使い魔などを用いて勇者バルナの動向を探っていたわけではなかった様子。それをしていれば、そもそもこんな所で酒を飲んでいるようなことはしないか。
「そこについては心配するな。作業についてはそのまま続けてくれ」
「あ、ああ。わかったよ。けどルウレ、肝心の冒険者達については――」
「さっきも言ったが適当にあしらうことにする。心配するな」
「わかったよ……それじゃあ俺は行くからな」
「ああ。ここには顔を出すから何かあったら連絡を」
「おう」
ダナーはカウンターにお金を置き、足早に去る。そしてルウレは一言、
「あいつの心配癖だけはどうにもなれないな……まあいい」
そしてルウレは一人酒を飲み始める……これ以上は有益な情報が出そうにないな。
「セディ、どうする?」
クロエが訊いてくる……ここで二者択一に迫られる。
このままルウレを待って彼の住む場所を確かめるか、それともダナーを追って何をしているのかを確認するか……あるいは彼の住まいを見つけるか。早く追わないとダナーを見失う。どうすべきか――
「……よし、クロエ。ダナーを追うぞ」
「わかった」
クロエは了承。内心彼女も同じように思っていたのかもしれない。
とりあえず、両者が何をやっているかもそうだが、居所について確認した方がいい。ルウレについてはこの店を見張っていればいずれチャンスはあるだろうけど、ダナーは様子からしてギルドなどに来なくなるかもしれない。閉じこもってしまうと面倒だし、まずはダナーの方からだ。
俺達は店を出る――扉を開ける瞬間、周囲を確認し入口に視線を向けていないことを確かめて。
そして外へ出ると、ダナーの姿がやや遠くではあったが捉えることができた。
「よし、間に合うな」
「少し急ぎましょう。この距離だと人混みに入ってしまうと見失う」
「そうだな」
「ちなみに魔力は大丈夫?」
「問題はない。このまま丸一日くらいは維持できるぞ」
「さすがね」
クロエは笑いながら応じる。そうして俺達は歩みを進めた――
ダナーについて追跡を行い、結果としてすみかを見つけることができたので、俺達は宿へと戻る。カレン達については町について見て回っていたのだが、
「物々しい雰囲気などもありませんでしたね」
「そっか。少なくとも俺達が動いてトラブルになる可能性は低そうだな」
「はい。兄さん達はどうでしたか?」
「収穫としては――」
ダナーとルウレについて説明。それに対しミリーが口を開いた。
「初日で大当たりを引くとは、さすがね」
「どうも。さて、明日一日酒場を張り込みしてルウレの住まいを見つけることができれば、どのようにも動くことができる……どうする?」
「ダナーという人物が何をやっているのかが気になるな」
フィンの指摘。俺は「そうだな」と同意し、
「口ぶりからすると、現在はルウレが何かをやっているのではなく、ダナーが何か作業をしているという雰囲気だ。両者の関係が完全に把握できたわけではないけど、研究に対し重要な地位にいるのは間違いない」
「ならダナーの家に押し入って、どんな研究内容なのかを確認する、か?」
フィンの言葉に俺は一考し、
「……その方法もあるが、とりあえずルウレの住まいを見つけてからどうするかは決めよう。ダナーとは独立して何かやっている可能性も否定はできないし」
「そうだな。しかし両者とも都の中に拠点があるのか?」
「そういう雰囲気だな」
「勇者バルナに施した魔法を考えると、見つかったら即処断されそうな雰囲気だがなあ……逃げられるよう辺境に拠点を作ってもよさそうなのに」
「それに対しては、可能性が二つある」
と、突然ミリーが話し始める。
「一つはルウレ達は見つからない絶対の自信を持っている」
「そうかあ? 仮にそうだとしても心配性であるダナーとかいう人間にしてみれば、戦々恐々じゃないのか?」
「ならもう一つの可能性かしら」
「それは?」
聞き返すフィンに対しミリーは、
「ズバリ、国側もグルである……ただ言動からして城の人間全てではないだろうけど、ルウレのやっていることをもみ消すくらい権力のある人がバックについているのかも」
――沈黙が生じる。ミリーが話し始めた時点でそういう推測をしたのだと俺も理解はできたのだが、あんまり考えたくはないな。
ただ筋は通る話だ――この国の王様が大いなる真実を知っているかどうかは確認していないのでわからないが、知らないのなら最悪王様主導で、知っているなら重臣の誰かが暴走して凶悪な実験に片足つっこんでいる構図になる。
けれど都に居を構えて実験しているというのなら、可能性はある……そんな風に思っていると、
「場合によっては、城を調べる必要性があるのかもしれませんね……ただ、国絡みとなれば大いなる真実についてどうなのか、という疑問は生じますが」
――真実がなんなのかを知らなければ、状況は混迷を極めている形か。さて、どう動くべきか……思案し始めた時、今度はシアナが口を開いた。