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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
310/428

魔法使いとの遭遇

「よし、追うぞ」


 俺は男性を見てそう告げるとクロエは「ええ」と賛同、どこへ行くのか尾行することにした。現在使用している魔法なら、俺達が下手を打たない限りバレることはない。

 男性は周囲を警戒しながら歩を進めている。彼自身何かしら狙われているわけではないというのに――


「もしかすると関係者なのかもしれないわね」


 ふいにクロエが言及。俺は「なるほど」と呟き、


「勇者バルナの実験について、一枚噛んでいるかもしれないってわけか」

「ええ。だからこそ得体の知れない人物が来たことで警戒している……とかかしら」

「もしそうなら、早い段階でルウレと遭遇することになる……か?」


 望ましい展開としては、先ほどの男性をとっ捕まえてルウレに知られることなくすみかなどを把握することだが……思考している間に男性の目の前に一軒の店が現われる。先ほど語っていた酒場か。


「セディ、建物の中に入るのは……?」

「姿を消していても扉を開けるのは誤魔化せないが、大丈夫だろ」


 クロエと会話をしていると、男性が酒場の中へ。そして俺は――窓から中の様子を窺う。

 昼間であるし、そう人が多いわけじゃない。そして店員を含め入口などを気にしている様子もない。

 うん、これなら――そう思いながら俺はクロエと共に店の入口へと近づき、扉を開ける。ただし全開にするのではなく、人がどうにか入れるくらいに開ける。


 店員は気付いたようだが――閉まりきっていない扉が風で開いたとでも感じたか、一人近づいて閉めようとする。

 その間に俺とクロエは入店。足音は目立つので、ここからは慎重にいかないと……ちなみに出る場合は同じようにすればいい。少しばかり店員に怪しまれるだろうけど、こっちの存在は見えていないので問題はない。


「結構強引ねえ」


 クロエが俺の行動にそんな評価を下す。こっちは「どうかな」と適度に応じながら、忍び足で男性の近くへ。

 カウンターに座り、男性は酒を注文していた。誰かと飲むようなことではなく、完全に一人。他にも客はいるが話し掛けてくるような人もいないのだが――


「少し、待ってみましょうか」


 クロエの提言に俺は頷く。それで少しすると、


「……何か、困ったことでもあるのか?」


 店主らしき人物がグラスを拭きながら男性へと問い掛けた。


「あまり見ない顔つきだが」

「あ、ああ。そう大した話じゃない。少しばかり、面倒事になるかもしれないって思っただけさ」


 気心のしれた相手なのか、あっさりと白状する。それに店主は、


「仕事絡みか?」

「そんなところだ」

「内容を詳しく聞くつもりはないが、その様子だと後ろ暗いことのようだな」

「まあ、ちょっとな」


 店主はそれ以上語らず奥へと引っ込む……ふむ、この酒場はややダーティな感じであり、悪人も受け入れるって雰囲気だろうか。

 ここへ酒を飲みに来たのだろうか、それとも――そんな風に思いながら少し待っていると、店の扉が突然開いた。


 反射的に首を向ける。すると黒いローブを着た男性が現われた。


「……ああ、来たか」


 男性が声を上げる。これはまさか――


「どうやら、お出ましのようね」


 クロエが呟く。俺は小さく首肯し、入店した人物へ視線を注ぐ。


 酒を飲む男性と同様中肉中背だが、顔つきがはっきりしておりどこか真面目そうな印象を受ける。髪色も黒かつ、太い眉で口を固く結んだ様は、どこかお堅い騎士という雰囲気にも感じ取れるくらい、潔癖的な印象をこちらに与えてくる。

 つまり、俺が想像していた人相とはずいぶんと違う……と、彼はカウンターに座る男性の隣に座った。


「今日は飲んでいるのか、ダナー」

「ああ、ちょっとな……ルウレ、そっちにも関わりがある」


 ダナーと呼ばれた男性――そしてルウレ。こんなにも早く会えるとは。


「どうした?」

「お前のことを訊いてくる剣士と今日出会った……そいつはお前の魔法使いとしての手腕に興味を持ち会いに来たとか抜かしやがった」

「男か? 女か? 格好は?」

「男女二人組だ。装備は――」


 簡潔に要点を話していく……たぶんだけど、二人は日常的にここで落ち合うのが習慣となっていて、今日もこうして話をしに来たというわけか。

 そしてダナーから内容を聞いたルウレは口元に手を当て、


「言葉をそのまま受け取るなら、私の功績を見聞きして話をしたくなったというわけだが」

「いやいや、俺はそう思わねえぞ。俺達のやって来た何かをつかんで、問いただしにきたんじゃねえか?」

「それなら騎士や兵士が来るだろう。なぜ冒険者が話し掛けてくる?」

「油断させるため、とかじゃねえか?」

「そもそもこの国の役人が私を捕まえる気なら、冒険者を使うようなやり方はせず、直接私の家へ訪ねてくればいいだけだ。住所だって知っているからな」

「あ、ああ……確かにそうだな」

「だが、ダナーの人相からすると、どうやら城の関係者ではない……そして」


 ルウレは少し間を置いて、


「私達の研究について、情報がどこからか漏れる、といった要素は基本排除している。それを問いただしに、というのも疑問だ」


 ――話を聞く限り、ダナーというのはルウレの協力者という立ち位置みたいだな。

 しかもその役割は相棒か、それに近い存在。見た目とは裏腹に魔法的な技量を持っているのかもしれない。


 で、ルウレの話し方を含め、ずいぶんと冷静に考察する。ダナーが動揺を見せているわけだが、ルウレはそれに対し問題はないと言いたいのだろう。口調からしても、やっぱりフリーの魔法使い、というよりは城勤めしているような人間に思えてくる。


 ……まあ、よくよく考えると勇者ラダンだって粗暴で考え無しに大いなる真実を伝えようとはしないか。理知的で真実を聞いても冷静に受け止める……そういう人物に話すのがベストというわけか。


「町中ならば騒動になることもないだろう。もし会うことになったら適当に応じておけばいいさ」

「そ、そうか……」

「それより例の件だ。どうなった?」


 話が変わる。ん、何かやっているのか?


「進捗状況を教えてくれ」

「現在は、完成度五割といったところだ。前にも言ったがここから時間が掛かる。モノになるまであと数ヶ月は必要だ」

「そのくらいならば問題ないさ」

「そっちはどうなんだ?」

「私か? こちらも順調だが、一つ面倒なことがあった」


 と、ルウレは肩をすくめ、


「どうやら仕込んでいた勇者が、死んでしまったらしい」

「勇者が? それってもしや――」

「そうだ、勇者バルナ……栄えある私達の実験体第一号だが、魔物に討たれたらしい」


 実験体――そう語るルウレの表情は、残念そうな表情と共に、明らかに狂気を滲ませていた。


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