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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
31/428

女王陛下

 レナと合流し少しして、城前のある幅の広い階段を上がった。そして正面に見える澄み切った蒼の城は、近づいてもその尊厳さを失わず、逆に入ることに畏怖を感じさせるほどとなる。


 さらに城門前にはかなりの人数兵士や騎士がおり、厳戒態勢という雰囲気。


「なんだか厳重ですね」


 シアナが感想を漏らすと、俺は肩をすくめながら答えた。


「ここでは普通だよ。厳戒態勢という状況は、これより人数が倍に増えるらしい」

「三倍です」


 レナから訂正が来た。そうか、三倍か。


「重苦しさは相変わらずのようで」


 彼女は言うと、苦笑を見せた。レナによるとこれらの警備は「重苦しい」と感じるようだ。


「で、レナ。あれ、簡単に入れるのか?」


 見た所城門前には兵士が険しい顔で立っている。以前訪れた時もそうだったが、前は魔族の幹部討伐を依頼され、招待に近い形だったため容易だった。

 けれど今回は、約束の一つも取り付けていない。


「大丈夫ですよ」


 対するレナは楽観的に答え、ずんずん進んでいく。これには俺も事の推移を見守るしかなく、沈黙しつつ城門前に赴いた。


「どうも」


 門番の兵士へレナが声を掛ける。彼らは俺達を一瞥すると――即座に敬礼した。


「おかえりなさいませ、レナ様」


 どうやら顔パスらしい。


「女王陛下は?」

「いらっしゃいますが……少々お待ちください」


 兵士の一人が告げると、近くにいた別の兵士に声を掛け、その人物が城門の横へと走る。多分通用口みたいなものがあって、そこから中に入り連絡するのだろう。


「では、待っている間に」


 と、レナは突如俺達に振り向く。


「事情の方をお聞きしてもよろしいですか?」

「……ああ」


 やむなく俺は同意する。その件を引き延ばしにしても怪しまれるだろうから、仕方ない。

 一応シアナから伝えられた後理屈がつくよう考えたので、それを話すことにする。


「まず、大元の話から……俺は魔族の計略により、単身魔王城に乗り込む羽目になった」

「単身……!?」


 驚愕するレナ。反応としては至極当然。


「そうだ……で、無我夢中で戦っていた時強大な魔族が現れ……」


 と、そこで眉間に手をやり思い出すのが辛そうな態度を示す。


「……そこから記憶が飛んで、気付いたらこの世界に戻っていた」

「その、魔族とは?」


 恐る恐るといった様子で尋ねるレナ。俺は彼女を一瞥した後、


「魔王、だったのかもしれない」


 そう答えた。

 再度驚くレナに、今度はシアナを見ながら話す。


「で、仲間と合流しようと行動していた時、彼女……シアナと出会った」

「はい」


 合わせるように応じるシアナ。その眼は「続けてください」と意思表示していた。


「ここからは彼女の個人的な話になるから詳細は省かせてもらうけど……俺は彼女の頼みを聞き入れ旅をすることになった。同時に、お世話になった人達へ挨拶をしたい考えて、現在はここにいる」

「そうなのですか……それで、仲間の方々とは」

「まだ連絡がついていない。というか、自分がどこにいるのかわかったのもつい最近でね。これから居所を調べるつもりだったんだ。今回ガラファに来たのは、その意味合いもある。俺を探して、ここに来ているかもしれないから」

「なるほど、わかりました」


 レナは納得の表情。良かった、とりあえず大丈夫そうだ。


「もし私がお見かけしたら、話をするべきでしょうね」

「そうだな……と、念の為訊くけど、仲間達の詳細は知らないよな?」

「はい」


 頷くレナ。うん、現状仲間達がここにいる可能性は低そうだ。


「早く合流できると良いですね」

「そうだな」


 返答すると、レナは穏やかに笑う。


「心配していますよ、きっと。カレンさんは言わずもがなですが、フィンさんやミリーさんだって、血眼になっているかもしれません」

「再会した時、蹴り飛ばされるのは覚悟しないといけないな」


 言うと、レナはクスクスと笑った。

 もしこの状況下で再開すれば、仲間――特にミリーから鉄拳制裁が待っているだろう。最初リーデスと魔界に赴いた時蹴り飛ばされたのだ。今回はそれ以上の結果が待っているに違いない。


 ――思うと同時に、また泣かしているのだろうと半ば確信する。


 魔王に弟子入りすると表明した直後から、仲間のことは気になっていた。けれど出会うわけにも、話すわけにもいかず、今回も見つからないよう行動している。


「……レナ」


 だから俺は、レナに頼み事をした。


「俺はシアナの件で旅を続けるつもりだけど……もしここに仲間が来たら、健在だと伝えておいてくれ」

「無論です」


 レナは了承した。俺は「頼む」とだけ告げると、城門を見上げた。

 まだ時間は掛かるのか……そんな風に思っていると、服の裾を引っ張る感触が。


「ん?」


 首をやると、なんだか好奇心を滲ませたシアナの顔。


「……ミリーさんって?」


 まさかの発言。あ、そうか。ミリーやフィンのことを話していなかったか。


「えっと、カレンのことは以前話したと思うけど、ミリーとフィンは他の仲間だよ」


 簡潔に解説をしたのだが、シアナはそれ以上のことを聞きたい様子で、じっと俺に目を向ける。


「……えっと」

「話していないのですか?」


 横からレナが割って入る。俺は「まあ、そうだ」と答えつつ、とりあえず正直に話す。


「フィンは旅の途中出会った仲間で、ミリーは小さい頃からの幼馴染だ」

「幼馴染……ですか」


 心なしか顔が険しくなった気がするのだが……大丈夫だよな?


「ああ、なんというかお調子者で、いっつも俺のことをからかっていたよ。例えると……」


 と、リーデスのことを口にしかけて慌てて止める。レナがいる手前別の人物――というか魔族を引き合いに出すのはまずいかもしれない。

 けれどつっかえた俺の言葉でシアナは理解したのか「なるほど」と小さく頷いた。


「そういう方なんですね」

「ああ、そうだ」


 主語の無い会話だったが、シアナは得心がいったのか、それ以上の追及はしなかった。

 後は待つだけ――そう思い静観の構えを取った時、街の方向から何やらざわつく人の声が聞こえた。


「ん?」


 レナも気付いたようで振り返る。合わせて俺も向き直ると、馬に乗る騎士や徒歩で進む兵士の一団が目に入った。

 総勢三十名程。注目すべきは兵士を含め着ている鎧や兜など装備全てが白銀。異様に目立つその一団に、レナは小さく呟いた。


「聖騎士団……?」

「聖騎士?」


 俺が聞き返すと、レナはこくりと首肯し、


「ジクレイトにはいくつか騎士団があるのですが、その中でトップに位置する騎士団です。本来は城の防衛などを主としており、外には出ないはずなのですが」


 そう返答した。


 通常とは異なる状況らしいが――大いなる事実を知る幹部と、関係あるのだろうか。

 騎士団は一度階段下で止まる。騎士は馬を降り、兵士達は騎士達の乗っていた馬の手綱を引いて横へと移動し、姿が見えなくなる。


 俺は反射的に彼らの邪魔にならないよう移動する。遅れてシアナとレナも動き、騎士達は階段を上がり始めた。


「レナ、何かの偵察とか?」


 逐一騎士団に目をやりながら尋ねると、彼女は浮かない顔をした。


「あの人達が動いている以上、何かしら厄介な事態になっているかと」


 深刻な内容なのか――考えていると、先頭の騎士が階段を上り切り、俺達に気付き視線を送った。

 見た目二十代半ばの、若い男性。兜を脇に抱えつつ歩く姿は、長身と金髪からかなり様になっている。


「……レナ?」


 やがて彼の黒い眼が、レナを見つけ声を上げる。


「久しぶり、ロシェ」


 応じる彼女。すると彼はこちらに近寄り、俺とレナを交互に見ながら口を開いた。


「戻って来ていたのか……それで、あなたは確か――」

「セディ=フェリウスです」


 皆まで言わせず答えると、彼は俺に対し慇懃に礼を示した。


「ロシェ=バークスと申します。この度はレナがずいぶんとご迷惑をおかけして――」

「ちょっと、ロシェ」


 すかさずレナが割り込む。


「や、やめてよ。そんないきなり」

「色々事情はあれど、勇者の同行者として活動していたのだ。挨拶くらいはすべきだろう」


 ――両者のやり取りを見て、友人くらいの間柄なのだろうと半ば察した。


「ほら、セディさんも困っている様子だし……」


 小声で話すレナに、ロシェは首を俺に向ける。


「すいません、唐突に」

「いえ……今日は街の警備か何かですか?」


 俺は話の流れから騎士について言及すると、ロシェはやや苦い顔をした。


「本来私達は城の守護を勤める身なのですが、今回は勅命により外に」

「勅命、ですか」


 幹部ガージェンのことが頭に浮かぶ。横を一瞬だけ見ると、シアナも同じ見解らしく何やら思案している様子だった。


「もしかして、女王の謁見に?」


 こちらの考えを他所に、ロシェは話を進める。俺は「はい」と答えつつ、


「もしよろしければ、何かご協力しましょうか?」


 と言った。


 幹部に関する問題で動いているとしたら、こう申し出ることで女王と話ができるとっかかりが生まれるかもしれない――レナの再会したことと相まって、可能性は増やしておいた方がいい。


「いえ、あなたのお手を煩わせるわけにはいきません」


 けれどロシェは断った。ある種当然の反応なので、ここは無理に押し通したりはせず、


「そうですか。もし困ったことがあれば言ってください」


 と、返すに留めた。


 そこからロシェはレナと二三会話をして、待機していた他の面々と共に城へ向かう。

 城は迎え入れるように門を開き、騎士団は一糸乱れず奥へと突き進んでいく。


 全員が入城すると門が閉まる。そうした一連の光景を見て、俺は呟いた。


「たぶん、報告に行くんだろうな」

「でしょうね」


 答えたのはシアナ。これは時間がかかりそうだな、と思った所で通用口に消えた兵士が外に現れた。彼は周囲を見回し俺達を発見。近寄ってくる。


「すいません」


 小走りで駆けてくる兵士に、俺は「はい」と軽く応じる。


「謁見の準備が整ったのですが……」

「先に聖騎士の皆さんが入っていきましたよ?」

「騎士団は一度別所で着替えを済ませるはずなので、謁見は皆様が先となります」

「そうですか。では行きます」


 答えると兵士は小さく頭を下げ、またも小走りで俺達から離れて行った。

 そして移動再開。左隣にレナが立ち、右隣にシアナが来た時門が開き、俺達は入城した。直後目に入ったのは、外装の雰囲気と遜色ない内装。


 高い天井には一定間隔に魔法の光が灯されたシャンデリア。壁は複雑な紋様の彫られた大理石。床は赤い絨毯が敷かれ、一歩進むごとに気持ちいいくらいの感触が跳ね返ってくる。


 俺はなんとなく緊張し始めた。フォシン王国で戦勝報告をする時もそうだったが、こういう場所は全く慣れていない。しかも今から女王に会う上、計画を成功させなくてはいけない。問題は山積みであるため、緊張の度合いも普段の五割増しだ。


 そして、正面に玉座へ繋がる純白の大扉が見える。それには天使が何体も彫られており見る者を圧倒させ、同時に得も言われぬ感動さえ与えてくる。

 そういえば、前の時も同じような感想を抱いた気が――シアナを見ると口を開けつつ、呆然と彫刻に注目していた。


「シアナ」


 小声で呼び掛ける。彼女はすぐさま我に返り「大丈夫です」と答えた。

 そこでいよいよ扉の前に立ち、ゆっくりと開かれる――中は、廊下同様照明が灯り、非常に明るい。


 直線状に赤い絨毯が突き進み、奥には五段の階段。その奥に目的の相手である女王その人がいた。


「お待ちしていました」


 にっこりと、女王が告げる。声が反響し、鼓膜を震わせた。

 そこで俺は、ふと以前謁見した記憶を呼び起こし、容姿は変わっていないと確信する。


 年齢は俺と同年代か少し上。銀の王冠を被り、壁面に準ずる白い法衣を着ている。装飾品の類はあまり見受けられないが、右手に持つ青い杖がアクセントと言えばアクセントかもしれない。

 そして目を見張るのが、城の外壁にすら溶け込むのではないのかという、スカイブルーの髪。さらにはキリッとした顔立ちと黒い瞳が俺達を射抜き、それでいて柔和な表情を向けている――玉座全体がまるで巨大な絵画のように見えて、ため息が漏れそうになる。


「どうぞ、お入りください」


 女王はさらに語る。俺達三人はその声に従うよう広間に入る。背後で扉が閉まり、不思議な静寂が玉座を包んだ。

 俺は視線を玉座周囲に転じる。女王の他に、傍に控える白銀の鎧を着た男性が一人だけ。黒い縮れ毛を持つその人物以外、誰もいない。以前依頼の時は赤い絨毯の両脇に大臣や騎士が控えていたのだが、唐突なこともあり今回はいないようだ。


 けれどこの広間がまとう空気は一切変わっていない。それは女王がいるためで――俺は緊張を悟られないよう、しっかりとした足取りで歩を進める。

 階段下で止まり、膝をつこうとしたのだが、


「堅苦しい挨拶はなしにしましょう。今回は、客人……もとより、友人が会いに来たということですから」


 友人――レナのことかと思ったが、女王の視線は俺に注がれている。


「友人、ですか」

「はい」


 こちらの言葉に、女王は頷いて見せた。口上から多少なりとも、評価してもらっているのだと認識する。


「今回は、何かしら報告に?」


 女王が問う。俺は小さく首を振りつつ答えを返す。


「多少ながらありますが……それよりも、女王に会いたいと思いまして」

「そうですか」


 嬉しそうに女王は言う。脇に控える騎士が少し顔をしかめるが――すぐさま表情を収める。


「それで、どのような報告に?」

「はい」


 頷くと、俺は魔王城の一件を話した。説明する間女王は相槌を打ちつつ……終えた時には驚いた、表情を見せた。


「記憶が、ないということですか」

「はい……体に何かされたという可能性も否定できないのですが……診てもらった所、異常はないと」

「なるほど」


 女王は俺を見据える。もし魔王から何かをされていたら……そういう危惧かもしれないが――

 いや、待て。女王は大いなる真実を知っている。もしかすると記憶を消し、こちらの世界に戻した――そんな風に解釈しているかもしれない。


「わかりました。ご報告、ありがとうございます」

「はい……魔王討伐の僅かな助力となれば」

「はい」


 応じる女王。額面だけを見れば魔王討伐に助言をしにきた勇者という構図なのだが――


「ここに滞在はするのですか?」


 女王はさらに訊く。俺は「はい」と答えつつ、


「これから宿を探すところです」


 そう言った。


 これは一種の賭けだ。宿を探す……加えて女王は俺を友人だと言った。ならばここから考えられることは、


「いえ、できれば城でお休みになってください。長旅の疲れを癒すには、最適でしょう」


 賭けに勝利する言葉が、女王が告げられる。


「……はい、ありがとうございます」


 俺は小さく頭を下げ、了承する。とりあえず、城に入るという目的だけは達せられたようだった。

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