聞き込み
フェデン王国への道のりについては、街道も整備されている上に戦争などで封鎖されていることなどなく、障害もなく進むことができた。
道中で魔物などにも遭遇すること皆無で、そのまま俺達は首都まで到着し――夜だったので一泊し、翌日ギルドでルウレについて調べることにする。
「といっても、情報提供してくれるのか?」
「馬鹿正直にギルド側に直接訊いても駄目でしょう。まずはルウレについて認知されているのかを調べることにしましょう」
クロエの提言により俺は「そうだな」と頷き、まずは情報収集を始めた。
彼女の名前を出せば、場合によっては詳細を聞ける可能性もあるが……まずなぜ知りたいのかという理由を尋ねてくる。で、仮にクロエが「渡したい物がある」とか理由を述べてもここで預かるかルウレを呼び出すか、という形にするだろう。ルウレが来ればそれはそれでいいけれど、可能性は極めて低い。勇者バルナに対し色々と魔法を仕込んだ相手だし容易に顔を出すとは思えない。
よって、まずはルウレの評判などについて調べることに。もっとも、引きこもっているのならまったく情報が出ずとっかかりがないなんて可能性もゼロではなかったのだが、
「ああ、アイツか」
二人目の傭兵から、話を聞くことができた。
「一応、ギルドに出入りはしているよ。時折組んで仕事をしたこともあるが……地味で取り立てて特徴があるようなヤツじゃないな」
「実力は? 仕事を請け負って組むくらいに活動しているなら、それなりに評判なのか?」
「目を見張るほどじゃないが、仕事は難なくこなすくらいには技量を持っている……あんたら、ルウレに何かされたのか?」
「俺達じゃないけど、知り合いがちょっと」
誤魔化すように告げると、傭兵は嘆息し、
「アイツにはちょっとした噂もあるからなあ……」
「噂?」
「元々宮廷に勤めていたとかじゃなく、完全にフリーの魔法使いなんだが……それこそ人には言えないような汚れ仕事を受けているなんて話がある。本当かどうかなんて確かめる気もないが……仕事以外は自分のすみかにこもっているようなタイプだし、魔法について研究もしているようだから、なんだか怪しいってことで噂が立ったのかもしれない」
「ため息をついたってことは、何かしら根拠があるのかしら?」
クロエが問い掛けると傭兵は肩をすくめ、
「俺だって直接見たわけじゃないが、この首都で仕事もしないで裏路地を歩いているとか、そういう光景を見た人間はいるみたいだからな……もっともそれだけで確定とまではいかないか。汚れ仕事ならギルドを通さないはずだし、結局真実なのかどうかはわからんな」
「そう……彼、魔法の研究面とかで何か功績はあるのかしら?」
「あー、いくらか国へ技術を提供したとかいう話もあるな。フリーの魔法使いとしてはあまり例がないらしいし、もしかすると成り上がりたかったのかもしれないぞ」
成り上がり、か……理由は不明だが、国とコネクションを持っておいた方が有用、ということで国側と接している可能性はあるか。
「へえ、そうなの……確認だけど、彼が住んでいる場所とかは知らないわよね?」
「そこまでは知らないな。ああでも、ヤツと多く仕事をしている人間ならいるし、そいつが知っているかもしれない」
「それは誰?」
傭兵が指を差す。そこに依頼が張り出された掲示板の前に立っている男性が一人。
「わかったわ、ありがとう」
礼を述べると彼は「いいぜ」と答えて立ち去る……さて、どうするか。
「あの人、シアナの関係者とかじゃないよな?」
「さすがにそういう雰囲気ではないわね。多く仕事をしている、だから古なじみかしら」
俺達はその人物へ近寄っていく……と、彼は気付き振り向いた。
黒髪で中肉中背の中年剣士、というのが俺の感想。二人の視線を受けてか男性は眉をひそめ、
「あんたら、俺に何か用か?」
「ルウレ=マードックという人物について、少しお伺いしたいのですが」
こちらがまず穏やかに尋ねる……と、
「あ、ああ。彼か……俺がよく仕事を共にしているから、話が回ってきたのか?」
――少しだけ、目が泳いだのを俺は見逃さなかった。
ふむ、場合によってはルウレのことを探る人間がいるということで下手するとルウレに逃げられる可能性もありそうだが……まあ、ここは立ち回り次第だな。
「そういうことですね。実は彼の噂を聞きつけて、是非話を聞きたいと思いまして」
「噂……?」
「魔法使いとしての手腕など、色々と」
――含みがあるようにも、先ほどの傭兵が語っていたような国へ技術を提供したという意味合いにも聞こえる俺の言葉。相手はどう感じたのかというと、
「……そう、か。手腕か」
どこかしどろもどろ。どう応じるべきなのか、という迷う雰囲気がありありと感じられる。彼の頭の中には後ろ暗いことだって含まれていると断定していいだろう。
これはどうやら当たりを引いたみたいだな……とはいえ早急に首根っこを捕まえてどうにか、というのは無茶なので、
「国へ提供した技術についてなど、少し興味を抱いたので……それであなたが彼を知っているとのことで尋ねたのですが」
さらに告げると彼は「そうか」と答え、
「知り合いとしては、噂を聞いてここに来たというのは少し誇らしいが……基本、アイツは他者に技術を教えたがらないし、詳細を答えてくれるかどうかはわからないぞ?」
「わかっていますよ。その、彼に会える場所とか、知りませんか?」
「確定というわけじゃないが、よくたむろしている酒場ならある」
「教えてもらっても?」
「ああ、構わんよ」
そこから俺は彼に店名を聞く。そこで俺とクロエは話を切り上げることにして、ギルドを去った。
「……さて」
「セディ、わかってるわよね?」
「ああもちろん。あの様子だと、ルウレの仕事についても何か知っていそうだし、もし深く関わっているのなら、聞き込みをしている人間が来たってことですぐに動き始めるはずだ」
そこで俺達は路地に一度隠れ、
「誘え――妖精の箱庭」
姿をくらます魔法を行使。俺とクロエは手を繋ぎ魔法を共有。ギルドの様子を窺うことにする。
果たして――じっと見据えていると、ギルドから先ほどの男性が現われ、周囲を見回しながらどこかへ向かおうとしていた。