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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編

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勇者の残滓

「――まず、大変申し訳なかったのだけれど、私達は勇者バルナの生家を調べさせてもらった」


 ギルド長に対し、クロエはそう切り出す。


「親族にバルナのことを伝える必要もあったからここを訪れた意味合いもあるのだけれど……私達はバルナと接触した人などが謀略に関わっている可能性が高いと踏んで、調べることにしたの」

「ふむ、順序としては間違っていないと思います。そこで気になる名を?」

「そう。名前しかわからないのだけれど……ルウレ、という人物はギルド名簿に存在しているかしら?」

「――少々お待ちください」


 ギルド長は席を立ち、部屋を出る。名簿を取りに行ったのだろう。

 ここまではひとまず順調だが……数分でギルド長は戻ってくると、名簿を確認し始めた。


「……ルウレ……ですね……ええ、ありました。名はルウレ=マードック。この国から西に存在するフェデン王国所属の魔法使いですね」


 核心的な情報に違いなかった。


「隣国所属の人物であるため、これ以上の詳細はわかりません。どこにいるのかを含め、現地に行く必要があると思います」

「わかったわ、ありがとう」


 クロエの言葉にギルド長は「いえ」と返事をして、


「真実を教えてくれとは言いませんが……どうか、勇者バルナが安らかに眠れるように、お願い致します」


 最後の言葉に俺達は全員頷き、ギルドを出ることとなった。


「ルウレ=マードック……」


 歩きながら名前を反芻するミリーは、空を仰ぎながら呟く。


「勇者バルナの最期を考えると、ルウレという人物は何か恨みでもあったのかしら」

「どうだろうな。例えば魔法使いとして実験体にできる、とか野蛮な考えの持ち主だったら、彼のことなんて気にせず処置を施すんじゃないか?」

「かもしれないわね……ともあれ情報をゲットできたのは良かったわ。明日出発するってことでいい?」

「そうだな」


 方針は決定……さて、俺は今後のことを予想する。


 ここですんなり情報を得てフェデン王国へ向かう……エーレ達は彼の動きを捕捉しているみたいだから、たぶんフェデン王国内で彼と遭遇することになるだろう。

 そこからどうなるかは想像できないけど、まあエーレが語っていた大いなる真実がわかる場所へ誘われるのだろう。そして最終的にエーレと仲間達が対面する……少しずつ、その時は近づいている。


 俺達はバルナの生家へ戻り、成果を報告。結果翌朝出立することで全会一致し、その日はバルナの家の掃除などをすることになった。


「この家、とても良いので買い手がつけばいいですね」


 ふいにロウがそう告げる。俺も「そうだな」と同意し、


「バルナのことはいずれギルドから正式な報告書が来て、町の人に知れ渡ることになる……その時、町の人々が判断するさ」

「この町にとって、勇者バルナの存在は大きかったでしょうし……残すかもしれませんね」


 ロウは物憂げな表情で語り出す。


「昨日、買い物の最中に勇者バルナについて聞き込みをしてみたんです。そうしたら勇者バルナのことを皆さん、誇らしげに語るんです。大陸西部では活躍していたのは間違いなく、皆さんそれをしっかりと憶えているみたいで」

「この町で生まれた勇者なんだ。それは至極当然だし、だからこそ……真相究明をしないといけないよな」

 俺の指摘にロウは小さく頷いた。


 ――そういえばふと思い出す。ロウやケイトの知り合いであるパメラについても何かしら関与が――もしかするとこの旅のどこかで再会、ということになるかもしれない。

 フェデン王国で会うことになるのかな? 色々と想像しながら俺達は作業を進める……やがて、一通り終わったら食事と相成った。


 しかし、なんだか不思議な気分になってくる。勇者バルナとは確かに手を組んだ。けれど他の仲間とは違い俺やクロエなんかは最初から彼の凶行を止めるためのものだった。


 そうした相手の生家で丸一日過ごすことになるとは……奇妙だと思いながら俺達は仲間と会話を重ねる。全員ひとまず手がかりを手に入れ今後の方針が決まったことで、表情も明るい……そうした中で仲間の様子をどうなのかと眺めているのが、シアナ。もしかすると表情には出ていないが、ディクスだって内心同じような表情を示すような気分かもしれない。


 ただこれは仕方がないだろう。シアナ達にとってみれば今回の旅で仲間達がどういう選択をするのか……そこばかりは彼らに委ねるしかないのだ。

 シアナの表情は、今回の作戦が上手くいくように……そして良い解答が得られるよう神経を張り巡らせているように感じられる。この作戦自体上手くいったとしても、彼女やディクスにしてみればその後が問題なのだ。憂慮し表情を窺ってしまうのも無理はない。


「ふむ、ここはフォローとかしとくべきか?」

「――別にいいんじゃない?」


 と、俺の呟きを聞いていたクロエが横槍を入れてきた。


「シアナ達のことでしょ? なら別に放置でいいでしょ」

「……そうか?」

「ここで変に彼女達へ気を回すと仲間から怪しまれる可能性もゼロではないでしょ?」


 うーん、ディクスとかはカレン達と行動するようになって結構長いはずだし大丈夫だと思うけどな――


「あ、私が言っているのはシアナ達がボロを出すんじゃなくて、セディが何かやらなかさないかと危惧しているのよ」

「俺かよ……まあ否定はしないけど」

「そもそもセディは関わらないようにしたわけでしょう? ならシアナ達を信じてセディは自分の役割を全うするべきじゃない?」


 ――魔王達の作戦なわけだから俺が気を揉んでも仕方がないのはある。シアナ達の表情が気になって色々危惧してしまったけど、現在作戦は順調なわけだし、何かあれば彼女達から話し掛けてくるだろう。クロエの言う通り、俺は俺の役目を頑張ろう。


「そうだな、そうするよ」

「ええ、それがいいわ」


 ――気付いたらなんだかクロエが相棒みたいになっているが……もしかすると彼女は今回のことでシアナ達がどう動くのかを観察しているのかもしれない。

 それは純然たる興味なのか、はたまた魔王達に思うところがあるからなのか……ただ尋ねてもはぐらかされるだろうし、俺は何も語らないでおいた。


 そういう感じで勇者バルナの生家で過ごす一日が終わり――いよいよ新たな目標へ向かっての旅が始まることとなった。


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