得られた情報
机の引き出しの中身でまず目に入ったのは、いくつかの本。本棚にある物とは異なり題名なども書かれていないので、それがなんであるかは容易に想像がついた。
「日記帳だな……申し訳ないけど、中を確認させてもらおう」
言ってから読み始めるが、これはどうやら勇者として活動を始める前の物らしい。日々の日常を綴った物である以上、情報としては価値がないな。
「さすがに旅を始める前では意味がないな……とはいえ、旅を始めてから日記帳なんて書いていたのか?」
「それを今から調べましょう」
シアナが言う。俺は頷き、仲間達と共に調べ始めた……のだが、すぐに結果が出た。
「二重底ですね」
カレンが即座に気付いた。一番上の引き出しが二重底になっているようだ。
俺は引き出しを外して中身をひっくり返す。板が外れ、日記帳が出てきた。ただその装丁はこれまで見てきたものよりもずいぶんと新しい。
「当たり、かな?」
中身を確認――どうやらこれは、旅を通じて知り得たことを記録しておく物らしい。
『今回訪れた場所では、魔物との戦いを通じて人の結束を知ることができた。それが一番の収穫であり、また人間の可能性を感じるものだった』
目に留まった文言を頭の中で呟いてみる。おそらく管理費をロブへ渡す際にこうして記録していたのだろう。
ということは、おそらく……読み進めていると、当たりの部分があった。
『この世界の真実を知った』
そういう一文から始まる手記。カレンやミリーは俺が示すと文字を追い始める。
『とある勇者からの言葉だ。いや、この場合果たして彼を勇者と呼ぶべき存在なのかもわからない。あまりに突拍子もない展開であり、現実感すら喪失させる出来事だった』
「この人間から、大いなる真実というのを知ったということかしら?」
ミリーの呟き。俺はそうだなと同意しつつ、頭の中で勇者ラダンのことを浮かべながらさらに読み進める。
『その内容をここに記すことはできない。真実を教えてくれた勇者もまた、何かに残すなと警告していた。それは紛れもなく真実だろう』
――筆跡などは一緒だし、書き換えたわけではない。この日記帳自体シアナ達が作成したのなら別だけど、もしこれが本物ならシアナ達は「これを残しても問題ない」と判断し、俺達に読ませているだろう。
『それを知り、最初に感じたことは力を得なければならないということだ。全てを引き換えにしても力を手に入れなければ、全てが終わる……どうすればいいのか勇者に尋ね、彼はとある人物を紹介してもらった。そしてその人物は秘術を提供してくれた。それは紛れもなく強さを得ることができる神がかり的な手法。よってそれを受け入れることにした』
「これが、勇者を殺めていた経緯だな」
俺の言葉にカレンやミリーは頷いた。
そしてどうやら、彼はラダンが紹介した人物――これこそルウレだろう。その彼に勇者の力を取り込む秘術を提供してもらった……つまり、彼が独自に技術を開発したのではなく、他者からもらったもの。
ルウレがこんな技術を提供したのは……勘だけど、実験的な意味合いだったのかもしれない。もっともルウレがそんなことをする理由がわからないけど。
「この秘術というのは、もしかすると実験的なものだったのかもしれないわね」
俺の推測と同じ見解だったようで、ミリーが意見する。
「勇者バルナはそれに気付かないまま、盲目的に秘術を活用し、力を得た……つまりそこまで彼は真実を知って追い込まれたということ……この手記を見るには最低でも二人の人物が関係しているわね。大いなる真実と思しき情報をバルナに伝えた人物。そして彼に秘術を伝えた人物」
「名前も記載されていないな……いや、待て」
俺はさらに読み進めると、該当の名前を発見した。
『ルウレが新たに魔法を提供してくれた。さらなる能力強化をこれで行うことができるけれど、まだ足りない。魔族を打ち倒すだけの力を得たことは事実。しかしこれでは、真実に対抗できない』
「ルウレ、というのが秘術の提供者だな」
「名前から調べて見るしかないけど……見つかるかしら?」
ミリーは首を傾げる。俺は「わからない」とまず答え、
「バルナが受け取った情報が大いなる真実だったとしよう……そうなるとこのルウレという人物も大いなる真実を知っている可能性は高そうだな」
「そうね。というかバルナと接触した面々は仲間同士って解釈するのが妥当よね」
「その通りだな……どうやら次の目標は、ルウレという人物を探すことになりそうだな」
以降、日記を調べて見たが力を手に入れ強化したことばかりが書かれており、有益な情報はなかった。
ふむ、何も知らない人からすれば無茶な強化方法をとっている……というくらいの解釈だろうか。これだけを見てさすがに大いなる真実について調べようとはならないだろうし、必死に強くなろうとしているくらいの認識で留まるな。怪しまれないギリギリといったところか。
「名前しかわからないけど、このルウレという人物が鍵を担っているのは間違いないが……探し出せるのか?」
「名前だけしかわかっていないし、苦労するかもね」
ミリーのコメントに俺は頷く……が、果たしてどうなのか。
シアナ達が段取りしているので、すんなりいくのだろうか……まあこの辺りは流れに沿うことにしよう。
そういうわけで俺達は捜索を終了し、買い出し班を待つことに。その間に、
「兄さん、勇者バルナの手記によると、大いなる真実を知っている人間がこの世界には少数いるようですね」
「みたいだな」
「とすると、魔王などは干渉してこないということでしょうか?」
「あるいは必死に隠しているか……まあそこについては実際に会って話を聞いてみないことにはわからないな」
「それもそうですね。ともあれ、今日は休んで明日から情報集めですね。名前しか手がかりがないのでどう動くか悩みどころですが」
「買い出しを行っているメンバーとも協議して、今後どうするか決めればいいさ」
食事の時にでも話をすればいいだろう……そういう結論を胸に抱きつつ、俺はその日、勇者バルナの家で休むこととなった――