家捜し
「――そうか、それはとても残念だ」
お茶が用意され、俺達とロブは面と向かって話をする。この家のリビングには四人掛けのテーブルがあるので、俺とカレンが代表してロブと対面するように座り、説明を行った。
内容としてはバルナが亡くなったという事実だけを伝えることにした。真実については……俺もどう伝えていいかわからなかったし、ここについては何も語らずおいた。
「勇者として戦う以上、いつかはこんな形で終わるのではないかと考えた時もあったが……現実になってしまうとは。それで最後の仕事で一緒になったあんた方が、こうして伝えに来てくれたのか」
「……故郷へ赴き、伝えて欲しいと言葉を残したので。ただ誰にとまでは聞けなかったので、あなたのような人がいてきちんと伝えられたことは良かったです」
こちらの言葉にロブは「そうだな」と同意し、
「あいつは町の人間にも慕われていたからな……墓も作らなきゃいかんな」
「はい、弔ってあげてください。ただ残念ながら、遺体はありませんが……」
「そこは仕方がないさ……さて、そうとなったらこの家もどうするか考えなければいけないな」
ぐるりとロブは部屋を見回す。彼としては肩の荷が下りたと同時、バルナが亡くなったことを聞いてどうすればいいか悩んでいるのが実状だろう。
「最終的には空き家にして、買い手がつくまで待つしかないだろうな。この家の中で誰かが亡くなったってわけでもないし、それなりに綺麗にすればまあ買い手はつくだろう……それが決まるまでは、しばらくこの屋敷の面倒は見るか」
だがそれでは管理費とかは……そう考えたのだが、ロブの話には続きがあった。
「いや、バルナのことは町中でも名が通っているし、この屋敷をどうするか含めて一度相談するべきかな……ま、残すのか誰かに譲るのかは後々考えればいいさ」
そう結論を述べた後、彼は俺と視線を重ね、
「セディ=フェリウスさんだったか。バルナが亡くなったことをここまで伝えに来てくれてありがとう。そちらはなんだか俺のことなんかを気に病んでいるみたいだが、まあ気にすることはない。こっちはこっちでなんとかするからさ」
「わかりました……」
「ところで、君らは今日どうするんだい? 宿とかも決まっているのか?」
「いえ、これから探す予定です」
「なら……ここに泊まったらどうだ? 同じ場所で戦っていた勇者達だ。そのくらいはまあ、許してくれるだろ」
まさかの提案――俺達はこの家に何かあるのではないかと考えてこの町に来た。生家を見つけた後は、夜に忍び込むとかして調べようかなどと話し合った時もあったくらいだ。どうするかは辿り着いてから相談しようと考えていたのだが……これなら手間が省けそうだ。
「そう、でしょうか」
「ああ、他ならぬ勇者様達だ。バルナも許してくれると思うぜ」
――もし本性を表していないバルナなら、確かに泊まっていくよう告げていたかもしれないな。
俺は一度仲間達を見た。全員が視線により「それでいい」という返答だったので、俺はロブへ答える。
「わかりました、ご厚意に甘えさせて頂きます――」
さて、こうして俺達は特に障害もなく勇者バルナの家を調べることができるようになった……のだが、さすがにすぐ家捜しということにはならず、ロブが去ってから少しばかり休憩することにした。
「家を調べる班と買い出しに行く班とで分かれましょうか」
ミリーの提案に俺は賛成し、人選を決める。
結果として俺とシアナ、ディクス、カレンにミリーの五人が家を調べることとなり、残るメンバーはひとまず食料などを買い出しに行くことに。ロウ達が町へ出るのを見送ってから、俺達は行動を開始する。
「先んじて調べるべきなのは、彼の部屋かな」
「そうね。とはいえロブさんから部屋を案内されているわけじゃないから、一通り見回って探す場所を決めましょうか」
もっとも屋敷ほど広くはないので、そう時間は掛からないかな……よって俺達は一晩泊まることもあるし、部屋の間取りなどを確認がてら歩き回り始めた。とりあえず客室などもあるし、寝泊まりするには問題ない。たださすがにベッドの数は足りないので、床で寝るような人も出てくるけど……まあ野宿とかに慣れている面々なので、そう問題にはならないか。
「さすがに家の規模からして、隠し部屋とかはなさそうだな」
「そうね。というよりここは勇者バルナの生家……つまりご両親の家だろうし、そんな部屋があるとは思えないわね」
ロブの話によるとバルナの両親は戦いや魔法とは無縁の生活を送っていたらしい。唯一バルナだけが勇者として大成し、活動を始めた……よって、ここに魔法的なものはほとんどないと解釈するのが妥当であり、そういうものがあるとすれば勇者バルナの部屋だけだろう。
そう結論づけながら家の中を調べ回る。その中でバルナの部屋らしき場所に到達したけど、ひとまず無視して間取りを確認。屋根裏を物置にしているようで、それを含めれば実質的に三階建ての家といった感じだろうか。
「で、肝心のバルナの部屋かここみたいね」
ミリーが述べる。その理由は単純で、夫婦の寝室部屋らしき場所が一室かつダブルベッドが一つあった。で、殺風景な客室以外にベッドがあった場所がバルナが使っていたと思しき部屋だけだったのだ。
その室内についてだが、魔導書などの類いが多少あるくらいで魔力を発する物は皆無に近い。唯一例外なのはほんの少しだけ魔力が込められた水晶球だが、これは魔法などの訓練に使う物でありふれた品だ。
「訓練用の道具があることからも、ここで間違いないだろうけど……」
机と、その横には引き出しに加え棚がある。まず棚を調べてみるが、剣術の指南書や魔法に関する学問書などであり、こちらも目新しい物はない。
「幼少の頃からここで暮らしていたと考えれば、歴史を感じさせる部屋ではありますが」
シアナが述べる。確かに指南書なんかは基礎中の基礎から難易度を高めた物まであり、バルナが少しずつ成長していったのがわかる。
ここまでは何もない……が、ここに来た以上は必ず情報はあるはず。それがシアナ達の仕込んだものなのか、それとも元々あったのかはわからないけれど。
「次は引き出しだな」
俺は言いながら引き出しに手を掛ける。魔力的なものは感じないので仕掛けは一切ない……よって俺は警戒などもなく、引き出しを開けた。