ある勇者の生家
「まずは、そうだな……改めてどうするかについては決める……といってもこの仕事が終わった後に、必ず決める」
「この仕事の間にどうするか結論を出すってこと?」
「……事の次第ではそんな余裕がないかもしれないという指摘が来ることは予想しているよ。けど、結論を出す……これは約束する」
というか、どうするか必ず選択することになる……もっともその選択は俺じゃなくて仲間達が対象になってしまうけど。
ミリーはこちらの言葉に少し考えた後、
「わかったわ。セディがそう言うのなら……けど、仕事が終わってから結論を先延ばしにするのはナシよ」
「ああ、必ず答えを示すよ」
「なら良し……ま、カレンのことに関わるしそこならセディもしっかりやるでしょう」
そんな評価を下すと、俺は苦笑した。
「……信用されてないんだな」
「信用してるわよ。けど、答えを先延ばしにする癖はもうやめなさいよ」
その忠告に俺は「わかった」と答えるしかなかった……まあ、色々あったのでそんな言及をされるのは仕方がない。
そうして話は終わり、俺はミリーと分かれ町を散歩することに。その道中で考えることは、この一連の仕事が終わったらどうなるのか。
「特にカレンだよな……ミリーやフィンだって混乱するだろうけど」
ただまあ、ここは今から考えても仕方がないか……そう思いながら、俺は大通りを歩き続けた。
以降、ミリーの相談のようなことはなく俺達は目的地へと淡々と進む。幸い魔物などと遭遇し足を止められることなどもなく、俺達は勇者バルナ縁の地まで到達することができた。
「ここが……バルナの故郷、か?」
「そうですね」
傍らにいるシアナが応じる。
その目的地は、勇者バルナの故郷――俺達と出会う前に彼は一度ここを訪ねている。というより情報によると幾度となくここを訪れている……まあ故郷であることから別段おかしくはないのだが、頻度の多さからここで何かをしているという推測に至ったわけだ。
「まずは勇者バルナの実家、だな」
俺の呟きシアナは首肯し、案内を始める。
ここからいよいよ本格的に作戦が開始されるわけだが……俺はエーレから詳細を聞いていないので、どう話が転ぶのかわからない。ただシアナ達の仕事は確かだろうし、ここは流れに沿えばいいか。
やがて俺達は一件の家に辿り着く。屋敷というほどではないが、それなりの大きさの家。
「ここが……」
「はい、勇者バルナの生家です。とはいえ現在は誰も暮らしていないのですが」
シアナの解説を聞きながら俺は家を見据える。庭園などもあるが管理などはあまりされていないようで草が茂っている……が、伸び放題というわけではない。誰かが定期的に手を入れているくらいは推測できる。
加え、家の方もボロボロなどではなく、家の外壁なども綺麗……普通人が住まない家というのは急速に荒れていくもの。バルナが定期的に訪れるといっても何日おきなんて話ではないだろうし、たぶん誰かが家の管理をしているのだろう。
「――おや、勇者バルナに会いに来たのかい?」
そんな折、横から男性の声が。見ればひげを蓄えた中年の男性が一人、俺達に近寄ってきた。
「どうも初めまして。名前はロブという……この家の管理をやらしてもらっている人間だよ」
「管理……家のメンテナンスということですか」
「ああそうだ。たださすがに他に仕事もあるから毎日ってわけじゃない。草がそれなりに伸びているだろ? さすがに毎日刈るようなことはできないからな」
見れば彼は掃除用具らしき物を手に提げている。屋敷内の清掃をするつもりなのだろう。
「それで、今日は何用で? 噂でも聞きつけて来たのかもしれないが、あいにくバルナはいなくてね。ここに来るのもそう頻度が多いわけじゃない」
「……ロブさんは、勇者バルナとどういう関係なんですか?」
「んー、俺は彼の両親の知人でね。二人ともバルナが旅をし始めた頃に亡くなってしまって、家についてバルナから管理して欲しいと言われたんだよ。定期的にここを訪れているのは、俺に管理料を支払っている意味合いもある」
……なるほどな。とすれば勇者バルナのことについて、きちんと話をしなければならないだろう。
俺はシアナへ視線を移す。彼女はコクリと頷いた。話していいってことだな。
「……実は俺達、勇者バルナと出会ったことがあるんですが……」
その言葉と共に切り出そうとした時、ロブは何か予感を抱いたのか、目を細めた。
「そうか。ということは客人……みたいだな。もしよければお茶でも飲みながら話をしたいが、いいか?」
「それでも構いませんが……」
「ならそうしよう。ああ、掃除用具を持ってはいるが家の中は存外綺麗だ。話をする分には問題ないさ」
答えながらロブは俺達を先導し始めた。
俺はなんとなく、彼が予感を抱いているような気がした。それはすなわち、バルナのみに何かがあって、それを報告しに俺達がやって来たということ。
それは半ば当たっている――彼の親族などには彼が亡くなったことを伝える必要があると思ってはいた。ただまあ、さすがに彼の顛末をそのまま伝えることは厳しいので、詳細はボカしたものになってしまうけれど。それについては彼に伝えることになりそうだ。
「さ、とりあえず上がってくれよ」
ロブは言いながら玄関扉を開ける。中はずいぶんと物がない、殺風景とすら思えるくらいのもの。バルナ自身がここで暮らさないため、最低限の物がある程度なのだろうな。
「お茶をまずは用意しよう。リビングで待っていてくれ」
そう指示を受け、俺達は家のリビングへ。そこそこの広さではあるが、さすがに屋敷の客室ではないので十人という大所帯だと少しばかり窮屈にも思える。
ま、これについては仕方がない……というわけで俺達はロブが来るまで待つことにした。