砂上の楼閣
「お疲れ様です、ルオンさん」
「ロウ、ケイト、お疲れ」
ロウの言葉に俺は返答し、二人へ座るよう促す。そして今回呼んだ概要を伝えると、彼らは神妙な顔をした。
「二人は思うところがあるのか?」
その問い掛けに対し、ロウが代表して答えた。
「あくまで個人的な考えですが……その、女神様から武器を賜った立場なので、後ろ暗い何かがあるとは考えにくいといいますか」
――俺は大いなる真実を知る前、結局神々から武器をもらうことはなかった。それは色々と理由があったわけだが、そういう意味で俺とロウは立場が違う。
「何かの間違い……ということは、女王陛下が語ることなのでないとは思います。ただ、皆さんが思っているような、深刻な話題ではないような気もするんです」
気もする、というよりはそういう風に思いたいというのがなんとなく伝わってくるな……彼としては女神と直接出会ったことがあるため、どうしても信じたいという気持ちが強いらしい。
まあその心情は理解できる。同じ立場ならきっと、俺も似たような考えを抱いていたかもしれない。
「そっか……わかった。俺としては二人の考えを否定するわけじゃない。ただ、どんな内容であっても……受け入れる覚悟はしておいてくれ」
「はい、わかりました」
ロウの返事を聞いた後、俺は話題を変えることにする。
「その、勇者バルナの件から少し経ったけど……どうだ?」
「さすがに衝撃も大きかったので、引きずってる部分はあります」
「私は折り合いを付けろと言ってるんですけどね」
ケイトが口を開く。そこで俺は彼女にも話を向けてみた。
「そっちは平気なのか?」
「私は……勇者バルナとそれほど親交があったわけではないので。あくまで話をしていたのはロウ」
「なるほどな……ロウ、勇者バルナのことについてこれから調べていくわけだが、それについても心構えはしていてくれ。彼が何を考え、何を思いああいった行動をしたのか……それを知ることは勇者として活動していく上で、血肉になるものだと思うから」
「はい」
ロウの返事を聞き、俺は話を切り上げる……場合によって後々フォローを入れればいいだろう。
で、次はレジウス……ロウ達が立ち去った後、すぐに部屋へとやって来た。
「お疲れさん」
「レジウスさんも」
「なんだか話が二転三転して厄介だな。俺が旅に加わる前からこうだったのか?」
「いや、俺としてもめまぐるしいと思うよ……」
なんだか申し訳ない……が、止まるわけにもいかないので話をする。
ミリー達と同じような概要を伝えると、レジウスは腕を組み考え込む仕草を見せる。
「うーん、正直今回の仕事はきな臭いわけだが、かといって気にならないわけじゃないんだよなあ」
「触れてはいけない領域……そう言われたら踏み込みたくなるってこと?」
「まあそんな感じだ」
確かにちょっと興味が湧くのも事実かなあ。
「どういうことであっても、俺から言えるのは一つだ」
そうレジウスは述べると、少しばかり笑みを見せ、
「俺はセディ達を守る……ま、頭を使うことはできないからな」
「もう少し意見を出してくれよ」
「考えておくさ」
――信頼の裏返しなんだろうけど、師匠がそれでいいのかと思ってしまう。ただまあ、これがこの人かと思うのもまた事実であり、俺は「わかった」と答え、話が終わる。
そして残るのはカレンだけ……レジウスが呼びに行き、俺はふと窓の外を見た。
その先には大通りが見える。人々が往来する姿が見え、それを眺めながら勇者バルナのことを考える。
彼は勇者ラダンの嘘により、追い詰められたようなもの。本来なら彼は被害者と呼べる立場なのかもしれないが、勇者を手に掛けていたため、こちらは行動せざるを得なくなってしまった。
幸いラダンに関係する存在についてはエーレも居所は把握しているし、ラダンの方も無闇に話を広めると魔王や神に気付かれる可能性を考慮してか拡散していないのが幸いだろうか。
「彼との戦いに決着がついたら……いや、そうであっても今後似たようなことが起きないとも限らないか」
いくつかの要因が重なり、勇者ラダンは大いなる真実を知った。加え『原初の力』について知り、彼は大いなる野望を秘め行動するようになった。現状、魔王や神々から姿をくらますという結果になっている事実は由々しきことではあるが、エーレ達も今後は警戒しこのようなことが起こらないよう尽力するだろう……ただ、
「やっぱり、砂上の楼閣だな」
俺はそんな風に思う。勇者ラダンのことは最初、小さな穴だった。けれどそれが膨らみ、到底修復できない大穴になろうとしている。その寸前で俺達はどうにか対処しようとしているわけだが、もう少しタイミングが遅かったら……エーレ達でもどうにもならない事態に陥っていただろう。
「魔王や神々を守るという意味でもやっぱり、大いなる真実の扱いについては考えないといけないよな」
今はさすがに真実を広めるわけにはいかない。けれど、いつか……遠い未来、垣根をなくすようなところまでいければ、と俺は思う。
その礎となるべく……そして今はこの管理の世界を維持するべく、勇者ラダンと戦う――改めて心の中で決意していると、ノックの音が。
返事をすると扉が開きカレンが中へと入ってくる。
「お待たせ致しました……兄さん、私が最後ですか?」
「そうだな。シアナやディクス、クロエも残っているけど、彼らは外に出ているし、後日やることにするよ」
カレンが対面に座る。俺はそこでまず面談をする理由などを語る。
「……カレンは当然俺と共に戦うつもりだろうけど、一応聞いておくよ。危険な仕事かもしれないが、ついてくるのか?」
「はい、もちろんです」
カレンは返事をしたが、どこか覇気が無い。ただその理由は明白。勇者バルナとの一件だ。
事件後、俺は「カレンも騙されていたわけだし、気にするな」と告げていたが、彼女の顔は晴れない……このことに加え、おそらく大いなる真実について一番衝撃を受けるのが、間違いなくカレンだろう。俺としても最大限、フォローしなければならない。
そう心の中で思っていると……少し間を置いて、カレンは話し始めた。