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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
30/428

魔法国家の首都

 首都ガラファに入るには、とにもかくにも入城審査がいる。

 入城、と言っても城ではなく街へ入るためのものだ。魔族がいつ何時入り込むかわからないため、まず門で警戒をしているわけだ。


「本来は、第一の難関なんだけど……」


 ズラッと街へ入ろうと並ぶ人々の最後尾について、俺は呟く。

 正面には見上げるくらい高い城壁と、それに比肩しうる高さを持った両開きの鉄柵門が一つ。その片側が開き、審査を行っている。


「ここでは、何をするんですか?」


 シアナが問う。俺は門と彼女を交互に見ながら、話す。


「門前に賢者……これはジクレイト王国に認可された優れた魔法使いを指す言葉なんだけど……その人達が特殊な魔法具を用いて魔力におかしい所がないか検査する」

「つまり、人間と異なる存在がどうかを魔法具で判断するわけですね」

「そうだ。ちなみに入城が許されているのは人間他、エルフやドワーフ……後は竜族なんかもあげられる。もちろん天使なんかも入れるんだろうけど……話には聞いたことないな」

「神様の使いが審査を受けるというのは、おかしいですしね」


 言ってシアナはクスクス笑う。俺は頷いて同意しつつ、


「そういえば、人の目の前に神様や天使が現れるのは稀だな」

「当然ですよ。神格化されるには、そうそう表に立ってはいけません」


 シアナから答えがやってくる。なるほど、人間達が一方的にイメージをすることで神格化が促進されるというわけだ。


「そう考えると、やっぱり騙されている感じだな」

「ですね。人によっては神様側の事情の方が衝撃を受けるのではないでしょうか」

「かもしれないな……えっと、神様の方は……」


 そこまで言って、俺は周囲を見回す。俺達の前にいる人物は商人二人組で、会話に熱中しているのか耳を立てている様子は無い。

 後方を見る。旅行者なのか、若い夫婦らしき人物達がいて、こちらも会話に集中している。


「……仕事の内容は、魔力の管理だっけ?」


 会話が聞かれていないことを確認し、小声で尋ねる。まあこんな話、馬鹿みたいだと思われるはずなので、大丈夫だとは思うが。


「ええ。主に大気に含まれる魔力量の調整をしています」


 シアナは意を介したか、こちらも小声で話し始める。


「そして同時に、勇者に武具も分け与えています」

「初めて聞いた時は、本当に衝撃的だったよ……」

「だからこそ、決して露見してはならない事実というわけです」


 ごもっとも。とはいえ人間が管理していくのであれば、こうした事実も公表する必要が出てくるだろう。

 ただそうなるのは遠い未来だと思うので、俺が気を揉むことなのかわからないけど。


「なんだか、わくわくしますね」


 考えていると、シアナが零す。表情には笑みが溢れ、早く街に入りたいと気が逸っている様子。


「一応、注意してくれよ。興奮して魔族の魔力を面に出すとかすると、目も当てられない」

「わかっています」


 丁寧にシアナが答える中、列は進む。少しずつではあるが確実に、門へと近づいていく。

 俺達の番になったのは、それから少ししてだ。予想よりも早いと思いつつ、俺とシアナは審査を受ける。


「……合格です」


 目の前に立っている、青いローブを着た几帳面そうな男性が俺に告げる。うん、魔族化する魔法とか持っているのだが、バレていない。

 さらに、シアナへ目をやる。じいっと見つめるその眼に俺は少しばかりハラハラしつつ、


「合格です」


 男性の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。


「行きましょう」


 シアナが言い、俺達は歩き出す。目の前には大通り――それも、馬車が十台並んで進めるような幅の広い道が直線状に現れる。


 ここを突き進むと城に到達するのを、俺は知っている。この都市は綺麗に区画整理され、特に城へ続く中心部については、碁盤目状に道が張り巡らされている。

 だからこそ目の前にある道も弧を描くような形状はしておらず、全てが理路整然としている。


「すごいですね……」


 大通りを見て、シアナはまたも感嘆の声。さらに視線を周囲に向け、景色全てを頭の中に憶えこまそうとしている。


「城だけでなく、中もこれほど綺麗に整理されているとは……」

「住んでいる人の話だと、不便な場合もあるらしいけど」

「不便、ですか?」

「抜け道の類が少ないらしいから、暮らすには色々とあるんだってさ」


 俺は勇者の時聞いたことのある話を引き合いに出す。シアナは「そんなものですか」と答えつつも、やはりきっちりした道路には興味津々で、なおも視線を送っている。


「ふむ……魔王城も色々と整理した方がいいのでしょうか」

「……見栄えばっかり気にする必要はないんじゃないかな」


 そんなフォローを入れてから、俺は話題を変える。


「で、これから城に行くわけだけど……何かやっておきたいこととかはある?」

「特にはありません」

「そう。なら早速、城へ行くとするか」

「はい」


 シアナも承諾し、一路城へ。途中、装飾品の呼び込みを行っている姿なんかを目撃するが、シアナは興味もなく通り過ぎる。

 魔族とはいえ、妙齢な女性なわけで……何かしら興味を示すかとも思ったのだが、歯牙にもかけず、延々と街の姿ばかりを眺めている。


「……アクセサリーとかには、興味ないの?」


 なんとなく訊いてみると、シアナは顔をこちらに向け、首を傾げた。


「アクセサリー?」

「いや、ペンダントとかそういうのに興味がないのかと」


 言いながら指で示す。俺達が進む少し先は、歩きながらでも目立つキラキラと輝く装飾品が並ぶ店。


「ああいう物」

「……ふむ」


 と、シアナは顎に手をやり何やら考え始める。


「人間の女性というのは、ああした物に興味があるのですか?」

「……魔族は違うのか?」

「私においてですが、実用性の無いものを身に着けることはしないので。それに――」


 彼女はそこまで答えるとじっと店を眺め……やがて値札が見えるくらいに近づいた時、


「……高くありませんか?」


 彼女は言った。


「高い……?」

「はい。私は通貨価値とかもわかるのですが……あれ、高くないですか?」

「確かにそうだけど、宝石とか装飾品というのはそういう物じゃないか?」

「そうですか……?」


 シアナは左腕をかざす。そこには青色のブレスレットが一つ。


「私ならあの四分の一の値段で、魔力付きの良い奴を作れますけど」

「……そうか」


 そういう問題でもない気がするけど、本人が興味なさそうだったので、この話はやめにして先に進むことにする。

 とはいえ考え付くのは、やはり価値観は違うのだなという事実――アクセサリーの事例は、シアナ特有のものかもしれないけど。


「ああいう物にお金をつぎ込むというのは、余程余裕がないと無理ですよね?」


 そんな中シアナは先ほどの店の件で言及する。俺はしかと頷き、


「まあ、そうだな」

「そんな余裕があったら、城の内装の補修でもします」

「……そうか」


 悲しい言葉が出てきて――ふいに疑問が生じた。


「そういえばリーデスから聞いたけど……城の補修とかシアナがやっているんだって?」

「え? あ、はい。そうです。もちろん私が実際にやるわけではなく、城の補修箇所を確かめ予定を組むなどしているだけですよ」

「……つまり、予算計画?」

「そうなりますね」


 十五の女性がやることではない気がする……ここで改めて考えると、シアナは魔王の妹で、魔法具を開発するなどの実績もあり、政務に関わる才覚も備わっていることになる。

 以上の点から、目の前にいるシアナはあらゆる面で優れた魔族であるのがわかる。魔法はともかく、予算計画を汲むなんて所業が魔族の体の中に備わっているはずもないだろう。


「どうしましたか?」


 無言で考える俺に、シアナが問う。先ほどの感想を告げてもいいのだが、言うと間違いなく顔を真っ赤にし、収拾がつかなくなりそうなのでとりあえず黙ったままにする。


「何でもない。先に進もう」

「はい」


 釈然としないながらもシアナは頷き、俺の隣を進む。


 そこからしばらくは無言。俺は近づきつつある城を眺め、シアナは城と街並みを交互に目をやる。

 俺はふと、今後のことを考える。城に着いた時セディの名を出せばとりあえず入れてくれるだろう。街に入る前検査を受けて反応がなかったことから、城内で賢者と出くわしても魔族であるとバレるようなこともないはず。


「……シアナ。城に入って以後、女王とコンタクトを取るんだよな?」


 そこで確認の意味を込め、最終的な予定を尋ねる。シアナは俺の言葉に「はい」と答え、


「しかもそれは女王以外の方々がいない上で、です」


 と口添えした。


 それこそ一番の問題だと確信する。城に入るのは容易だが、例え勇者であっても女王と見張りも無く面と向かって話せる機会なんて、容易に生まれないだろう。


「うーん、入ってからどうするかが問題だな」

「女王の部屋に忍び込みます?」

「一つの方法として、あるけどさ……」


 言いながら俺は、左腕に着けられた白銀のブレスレットを見やる。以前の仲間である幼馴染のミリーから借り受けた魔法具。これがあれば女王の部屋までの侵入も可能、なのだが――


「いや、リスクが高い」

「リスク?」

「ジクレイト王国は、多くの国と同盟を組んでいる……しかし、それはあくまで周辺の小国だけで、大国から目を付けられているところがある。軍事力も相当高いからね」


 ――そのため、別国が間者を送り込んでいるケースがある。だから魔法具による気配消しなどの対策はかなり厳重。


「この腕輪の魔力は神々の物……だけど、以前聞いた話によると、ガラファ城内で重要箇所というのは、監視系の魔法が張り巡らされていて、それは神々に関する魔法らしい。だからこの魔法具を使っても、露見する可能性が十分ある」


 言うと俺は立ち止まり、目の前にある城を見上げつつ話を続ける。


「だからこれはあくまで最終手段……できれば魔法も使わず、なおかつ自然な形で女王の下へ辿り着きたい。それができれば、後は楽なんだけど……」

「なるほど。どうするかですよね」


 シアナもまた城へ視線を移し、考え込む。

 このまま城に入ることは容易だろう。しかし、女王の下へ話す手段が現時点でない。このまま入って果たして目的が達成されるのか――


「懸念材料がてんこ盛りですね」

「まったくだ」


 シアナの言葉に俺は頷く。


 女王の件だけならまだしも、大いなる真実を知る幹部ガージェンから見つからないように行動。しかも俺は仲間達に遭遇しないよう気を遣わないといけない。無論今城に向かっているのだが、ここで出会うなどという可能性も否定できない。


「安易に城に入るのも、まずいかもしれないな」


 そんな風に呟いた時――ふいに視線を感じた。


「ん?」


 方向は左。見ると一人の女性がこちらに顔をやっている光景が目に入った。


「……あ」


 その姿を認めた瞬間、俺は声を上げる。女性は距離があったため聞こえたわけではないはずだが、口を開けたのは気付いたらしく、こちらに近寄ってくる。


「お知り合いですか?」


 シアナが問う。俺は小さく頷きつつ、女性から目を離すことができない。


 近づく相手は至って普通の、藍色の旅装姿。容姿としては腰まで届くくすんだ金髪が特徴。

 俺の記憶では、普段彼女は白色の神官服を着ていたはずだが、一人旅では目立つので、ああした格好をしているのだと察した。


「……セディさん」


 接近した女性が声を上げる。俺は多少戸惑いつつ、


「どうも、レナ」


 女性に返答した。


 彼女の名はレナ。魔王を倒すためのメンバーにはいなかったが、長い間共に行動していた仲間の一人である。女王を守る親衛隊の一人であり、その縁で魔王討伐に志願し俺達と行動していた。

 その後、ベリウスとの戦いの前に怪我をして、療養していたはず。


「久しぶり、というわけでもないかな」

「そうですね」


 俺の言葉に、レナはやや興奮気味に答える。


「こんなところでお会いできるとは……神の御導きかもしれませんね」

「……そうかもしれないな」


 彼女に合わせるように答えつつ、質問をした。


「それで、今帰って来たのか?」

「あ、はい。実はセディさんと別れてから少しの間旅をしており……正直、加勢にお伺いしたかったところですが、距離もありましたし……」


 彼女は答えると、今度は俺の格好に言及する。


「セディさん、その姿は?」

「あ、これか? 実は前の鎧が破損して……で、レナは今から城に?」

「はい。これから報告をしに」


 レナは笑みを伴い述べた後、今度は提案をする。


「そうだ、セディさん。ご一緒にどうですか?」

「一緒?」

「はい。正直言うと、一人では心細かったんです」


 と、彼女は小さく舌を出す。


「なんというか、魔王と戦うって啖呵を切ってまで国を出たのに、結局道半ばで怪我をしてしまったので……」


 言った所で、レナは言葉を止めた。


「……それで、他の方々は?」


 途端に、周囲に目を向け始める。


「今日は別行動ですか?」

「ああ、いや……」


 さて、どうするか。


「それと、その方は?」


 加えてシアナにも言及する。俺は苦り切った表情でどう応じようか思案し――


「……あの」


 次に聞こえたのは、シアナの言葉。え、ちょっと待て。


「私はシアナと申します。少々事情がありまして、今は私と二人で旅をしています」

「あなたと?」

「はい」


 レナの問い掛けに、シアナは神妙な顔つきで頷く。


「詳しく話すと長くなります」

「そうなのですか……ふむ」


 彼女は口元に手をやり、俺とシアナを交互に見やる。


「……わかりました。事情は後ほどということで」

「はい」


 レナの言葉に、シアナは丁寧に返事をした。

 ちなみに俺の内心は心臓バクバクだった。これ、絶対どこかでボロが出ないか?


「では、行きましょう」


 そんな俺を他所に、レナはにこやかに先導し始めた。俺とシアナは彼女に続く。

 道中、シアナが小声で俺に助言を始めた。


「現状、女王と会える手だてがありません。もしかすると彼女が呼び水になるかもしれません」

「……かもしれないけど」


 前を歩くレナを見ながら相槌を打つ。

 女王の親衛隊である以上、何かしら話をすることがあるかもしれない。もしそのタイミングで女王の自室に入り込むことができたなら、事情を話せる可能性は十二分にある。けれど――


「シアナ、さっきの事情というのは何だ?」


 問うと、彼女は微笑を浮かべながら答えた。


「ひとまず魔王城から生還し、旅をしていると言えばいいでしょう。そして私と出会い……どこか目的地まで移動しているとすれば、理由としてはそれなりでしょう?」

「なるほど。で、俺がここに来たのは挨拶のつもり……もしシアナのことがバレたら、実は操るために俺に付き添っていたとかいうことにするんだな?」

「正解です」


 満面の笑みの彼女。ふむ、それなら誤魔化すことはできるだろう。


「ならそれでいこう」

「わかりました」


 というわけで決定。以後は沈黙を守り、城へ進むこととなった。

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