その勇者は最強故に

勇者試練編

試練の内容

『まずこれからの方針だが、勇者バルナの素性を追う……その過程で最後の敵であるルウレにつながるヒントを見出し、そこへ向かう』

「いいけど……そこからどうやって大いなる真実につなげるんだ？」

『そこは私達が誘導する』

「つまり……ルウレを監視しながら仕込みをするってことか」

『その通りだ』

　手の込んだ真似を……内心どこか呆れていると、エーレは続ける。

『そこから、とある場所へ案内する』

「場所？」

『そうだ。ルウレとの戦いを通して色々とやることもあるが……セディは隠すのがそう上手くないからな。とりあえず何も話さないまま、驚いてもらおう』

「……エーレの仕事ぶりは信頼しているし俺はそれでもいいけど、だとするなら俺は今回の試練について何も知らないままになるけど、いいのか？」

『ああ、それで構わない。むしろ疑われる可能性が低くなるだろうからな』

　疑われる？　頭の中に疑問符が浮かぶと、エーレから返答が来た。

『セディの魔族化についてだ。一度魔王に相まみえている……その事実は大きいだろうし、下手にセディが何か知っているような素振りを見せれば、かえって怪しまれる可能性がある』

「ああ、なるほど……懸念は払拭しておいた方がいいし、俺はそれで構わないよ」

『うん、では次だ。その場所へ赴いた結果、大いなる真実が何なのかを知ることになるだろう……そこからは、セディの仲間達に委ねられる』

「……この世界に、大いなる真実にまつわる場所が存在しているのか？」

『普段は隠されているが、その通りだ』

　そういうことか……たぶん古い遺跡か何かなのだろう。そこへ行けばどういうことなのか、理解できる……自分達の足で探し出した内容なのだ。カレン達だって一定の理解を示すことは間違いない。

『正直、私達ができるのはそこまでだ。真実を知りどう判断するのかまでは、私達では操作できないからな』

「……一応聞くけど、魔法で操作したりはしないのか？」

『それこそ露見したら終わりだぞ。私はセディの仲間が魔法に引っ掛かるほど鈍感だとは思っていない』

　うん、だろうな。

『仮にやったとしても、私はやりたくない……セディだってそうだろう？』

「ああ、そうだな」

『この問題は信頼関係の上に成り立っている面も大きい。それを崩してしまったら、不信感だけが残る結果となる。彼らが私達にとって良い選択をしてネタばらしするのはいいだろうが、その過程に不純物があっては向こうも良い気はしないだろう』

「違いないな……わかった。それじゃあ俺とクロエを始め、この場にいる面々は試練の補助、ってことでいいのか？」

『無論シアナやディクスに対しては説明を行っている。動きの調整などについては二人がやるから、セディとクロエは純粋に仲間達を率いてもらえればいい』

　……俺が仕掛けに回る側になるよりシアナ達に任せた方がいいし、人選としては正解だな。

『えっと、クロエはいいのか？』

　念のために確認を行うと、

「いいに決まっているでしょ。ここで置いてけぼりを食らったらそっちの方が怒るわよ」

「それもそうか……」

「人数も多いから、場合によっては手が回らない場合だってあるわ。だから仲間達の引率は私とセディの二人でやることにしましょう」

「そうだな……うん、それがいい。よろしくクロエ」

「ええ」

　にこやかに彼女は言う。なんだか大いなる真実を知った上での活動について、板に付いてきた感じだろうか。

「それでエーレ、明日にでも動き始めるのか？」

『数日は準備に費やすことになるため、少しの間は都に滞在してもらえればいい。情報を受け取った時点でスタートしよう』

「確認だけど、その資料にあるのは勇者バルナ縁の地、なのか？」

『無論だ。彼が最近滞在していた記録だって確認している』

　おお、それなら……と思ったところで、一つ疑問が。

「彼って大陸西部の出身者だったはずだが、そちらへ？」

『目的の場所についても西部だから、必然的にそちらへ向かうことになる……ちなみにルウレも西部にいるため、活動の場所は再度西部に移るな』

「そうか……って、ルウレも西部？　じゃあ先日の魔物は――」

『彼の分身が作戦を実行に移した、とでも言えばいいか。分身を操るために移動した結果、私達の目を逃れる形となった……現在彼の動向についてはこちらも注視している。二度と姿を消されるなどということには、ならないさ』

　絶対の自信。他ならぬエーレがそう言うのだ。こちらは頷くしかない。

　また、一度取り逃がしたという失態もあるし、魔王としては絶対に気を緩めることはないだろう……ある意味ルウレは魔王の本気を出させているわけだ。本人が聞いたら震え上がりそうだな。

『それでは話し合いはここまで。解散しよう』

　エーレの姿が消える。それから少しして、シアナが口を開いた。

「私達はここから仕込みの準備に入ります。といっても都の中で物の調達などをするくらいなので、心配には及びません」

「わかった。事情を知らなくとも買い物くらいはできるから、何か入り用だったら遠慮無く言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

　そうして俺達は宿を離れる。シアナとディクスは町の雑踏に消え、俺とクロエは仲間達がいる宿へ戻ることに。

　その途中で、クロエは呟いた。

「セディ、もし仲間達が大いなる真実を受け入れたら……彼らも魔王城に住むことになるのかしら？」

「あー、どうだろ。俺一人城に住まわせるだけで結構紛糾したらしいからな……さすがに仲間達全員を、というのは難しいんじゃないか？」

「でも妹さんは納得しないかもしれないわよ？　セディと共に行動するとか言って」

「……今のうちに、魔王城に住むことはできないってことを説明するための内容を考えておくか」

　呟きに対しクロエは肩をすくめ、

「ちなみに私だってどうするんでしょうね？　一応部屋はもらったけど」

「少なくとも勇者ラダンとの戦いもあるから決戦前は魔王城で待機、ってことになりそうだけど……恒常的に住むかどうかは、別問題かな」

　もしラダンとの戦いが終わったら……仲間達にも知られてしまうわけだし、俺もまた身の振り方を考えなければならないのだろうか？

「ま、この辺りは今回のことが終わってから考えよう」

　そう結論をまとめ、俺達は宿へと戻った。