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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編

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真実について

 どうやら来たらしい……騎士は俺達の近くへ来ると、


「勇者セディ、レナ、女王陛下が二人と話がしたいと」

「……私が?」


 レナが驚く。そして俺もまた少し驚いた様子を示し、


「話、とは?」

「詳細はわかりません。ですがご案内せよと」


 ……俺とレナは互いに顔を見合わせる。とはいえ女王からの要求だ。受けないわけにはいかない。


「わかりました。時間はどの程度でしょうか?」

「それほど掛からないとのことですので、他の皆様はここでお待ち頂ければ」


 騎士はそう言うのでカレン達に待機を命じ、俺とレナは詰め所を後にする。そうして案内されたのは玉座のある謁見の間から少し進んだ所にある個室。玉座へ入る前の控え室とかだろうか? 入るとそこには女王アスリが席に着き一休みしていた。


「ごめんなさい、突然呼び出して」

「何かあったのでしょうか?」


 レナの問いにアスリは優しい微笑を浮かべた。


「いえ、事件というわけではないの……勇者セディ、もしでよければなのだけれど……依頼をうけてもらえないかしら」

「依頼、ですか」


 普通、一介の冒険者が王族から仕事を依頼されるようなことなんてない。勇者と言われるように存在ならばその限りではないが、ジクレイト王国には優秀な騎士などもいるわけだから、手足となる兵を育てることの方が都合が良いケースが多い。

 けれど今回は試練に関わるので、こうして話をするわけだ。


「内容は、どのようなものですか」

「……報告書は、読ませていただきました」


 女王はまずそう切り出した。


「勇者バルナの凶行については色々と議論の余地があるわけですが、そうした中で大いなる真実という言葉……ここについて、私としては多少引っ掛かりました」

「聞いたことがあるんですか?」


 こちらの問い掛けにアスリは頷く。


「ただしあくまで噂の域を出ないものですよ」

「内容は?」

「噂なので、信憑性はまったくありませんが……簡潔に言えば、神々にまつわる話のようです」

「神々、ですか」


 レナが聞き返すとアスリは首を縦に振り、


「ただ、この言葉について人間が知ることを神々もあまり良しとしていない、と聞いたこともあります。それほどまでに、重要なのかもしれません」


 女王の言葉にレナは頷き、表情を引き締めた。


「大いなる真実という言葉を聞いたのは幾度かあったのですが、私としてはそれほど重要なものではないと感じていたので放置していました。しかし勇者バルナの行動を考えればそれは誤りであったかもしれません」

「陛下、依頼というのはもしや――」


 レナの言葉にアスリは首肯し、


「勇者セディには大いなる真実について調べてもらいたい……といっても私から渡せる情報もごくわずか。調べるにしてもどれほど時間が必要になるのかもわかりません」

「いえ、こちらも調べようとしていたくらいですし」


 そう俺は返答する。女王とアイコンタクトを交わすと相手は微笑みを浮かべた。


「ならば、お願い致します……それでは私が知る情報をお渡ししましょう」


 情報――当然大いなる真実そのものではないはずだが、一体――


「大いなる真実……勇者バルナは神々が堕落していると語っていたそうですね。それに近い情報を私は持っています。しかしそれが真実であるかどうかはわからない」

「勇者と女王の両者が近い情報を持っているようですし、何かしら関係があるのかもしれませんね」


 レナの言葉に女王アスリは首肯し、


「私が知っているのは、神々は魔王と争うような戦いはしないと……人間に様々な武具を渡しているのは事実ですが、それ以上の手出しはせず、人間を介し魔王と戦わせていると」


 なるほど、これなら勇者バルナが語っていた内容と上手くかぶせることができるし、一応の説明にはなるな。


「理由はわかりませんが、神々は魔王と戦うことを止めた……そういう見解を、勇者バルナは真実を通し抱いたのかもしれません」

「それは、本当なんですか?」


 レナが信じられないという様子で語る。ふむ、女王からすればこの説明で乗ってくれてありがたいだろうな。


「神々が、戦わない……?」

「なぜなのか、という理由は不明です。そこは調べてみないとわかりませんが……勇者セディ」


 そこで女王は俺と目を合わせ、


「大いなる真実が何であるかについて……しかしこうも聞いています。人間に対し秘匿されている情報であり、これに触れること自体が禁忌……場合によっては神々に目をつけられる」

「敵は魔王ではなく、神々ですか……」

「そういう事態に陥るかもしれません。それを覚悟の上で調べることになる……危険であるのは間違いない」


 レナは絶句。俺は考え込むフリをする。

 確かに何の情報もなければ、どうすればいいか困惑するところだろう。場合によっては味方であるはずの存在が敵になるかもしれないのだ。


「……ですが、私としても真実を知りたい」


 そこで女王アスリはポツリと告げる。


「一体どういうことなのか……それを知ることは人間にとって利益になる。そういう気もしています」

「わかりました……ただ、こうして話をしたのは内密にするべきですね」

「そう思います。勇者セディ、引き受けてくれますか?」

「はい。困難かもしれませんが……やってみます」


 俺は快諾し、女王は支援を約束してくれた。そういうわけで俺達は部屋を去る。


「神々が、戦わない……か」


 詰め所に帰る間にレナが呟く。


「到底信じられない話ですが、それなら勇者バルナが力を得ようとするのも、なんとなく理解はできます……やり方については問題がありますが」

「確かに人を殺めている以上、許されないが……勇者バルナは、絶望の中で戦っていたという風に捉えることもできるのかな」


 そんな呟きを発した後、俺はレナへ告げる。


「かなり困難な仕事になりそうだな。それに加えてどのくらい時間が掛かるのかもわからない……あと、俺達の仲間に勇者ロウがいるけれど、彼は女神の武具を手にしている勇者だ。もしかすると彼の動向を観察している可能性だって否定できない」

「彼は調査のメンバーから外しますか?」

「いや……レナ、一つ頼みたいことが」

「はい、なんなりと」


 そうして歩きながら打ち合わせを行い、俺達は詰め所に戻ることとなった。


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