魔王からの試練
「大変な戦いだったな」
俺は小さくそう呟き、窓の外を眺める。雨が降っていて、俺はその光景をただ眺め続ける。
――戦いが終わり、一日が経過していた。勇者バルナの瞳を宿す悪魔を一撃で粉砕し、その後魔物の動きはさらに鈍った。そこに騎士達が攻勢を掛け、また俺達も奮起し……どうにか、犠牲者なく戦いを終えることができた。
正直、魔物の数を考えれば死者なしというのは奇跡だった。シアナやディクスといった存在があったことも要因の一つではあるが、最後の最後まで戦線を維持し続けた仲間や騎士達のおかげでもある。
そして戦いの後だが……俺達は最寄りも町で現在も警戒している。勇者バルナと思しき存在を倒したのでもう出現することはないと思うのだが、さすがに警戒しなければまずいと判断したわけだ。
で、今回の戦いの結果、王都に戻ったら女王アスリとの謁見が待っているらしい。甚大な被害が出るかもしれなかった以上、労いの意味を込めて、だそうだ。
「城で歓待されるというのは、あんまり好きじゃないけどな……」
第一城に関わってもロクなことがない……ただ、女王アスリは俺の事情を知っている人物でもあるため、悪いようにはならないだろう。そこだけは安心か。
そんなことを考えながらぼーっとしていると、ノックの音が。返事をすると扉が開き、現われたのはシアナだった。
「お疲れ様です、セディ様」
「何もしていないけどな……定時連絡か?」
「はい」
――ちなみに、カレン他仲間達は森の周辺を見回っている。勇者三人が持ち回りで動くことにしており、今カレン達と共にいるのはクロエだ。
シアナは作業を進め、空間を歪める。その奥でエーレの姿が。
『ご苦労だった、セディ』
「ああ……事の顛末はどうだったんだ?」
『まず最初に言っておこう……こちらの失態だ』
失態? と一度は頭に疑問符を浮かべたが、すぐに答えがわかった。
「勇者ラダンに関連する勢力……名をルウレ=マードック。彼の差し金らしい」
「勇者バルナと関係があったと?」
『ああ。ただしそれは多少顔を合わせたという程度のものらしく、深い関わりがあったわけではない』
そう述べたエーレは、肩をすくめた。
『勇者ラダンの関連で、顔を合わせたといったところ……だが、その際にどうやら動向を観察するような魔法でも掛けられた。ルウレが消えたのは、おそらく勇者バルナの動向に変化があったからかもしれない』
「……俺達のことは、大丈夫なのか?」
『現段階でセディや私達のことは露見していない様子だ。あくまで勇者バルナを観察していただけ、のようだ』
それならいいが……と、エーレの話には続きがあった。
『さて、戦いも終わり次に、というわけだが……以前は王都で休んでもいいということだったはずだが、予定を変更したい』
「それは構わないが、仲間達はどうする?」
『彼らのことを含めた内容だ』
「カレン達と一緒に仕事を?」
以前もやったし、問題はないと思うけど……。
『いや、そうではない……セディ、以前仲間のことで限界が来ると言っていたはずだ』
「そうだな」
『今回、ルウレを取り逃がしたことで、重臣達も警戒感を抱いた。よって、話を進めることができた』
「話を……? 何の話――」
問おうとした矢先、確信する。それってまさか――
『そうだ。セディ達の仲間に真実を話すべきか、ということについて』
「……ルウレがいなくなったことと、関係があるのか?」
『姿を消した手段は不明だが、魔族で捕捉できなかった……これはこちらの網の目をかいくぐったという可能性もあり得るが、もしかすると神魔の力が関係しているかもしれない』
「そこで、人間の力が必要になると」
『勇者として活動することで、私達にはできないことが可能だからな。加え、勇者ラダンとの戦いでは、神々や魔族では対応できない事態に陥るかもしれない……そうした色々な要因を考慮し、今回セディの仲間達に話してはどうかという結論に至った』
「……エーレも説得、大変だったんじゃないのか?」
『そちらの苦労からすれば如何ほどでもない』
エーレは小さく笑い、
『ともかく、許可は下りたので行動に移すのだが……あ、ちなみに勇者ロウについても候補に挙がっている』
「ロウも?」
『どうやらアミリースは彼の友人であるパメラに色々動いてもらいたいらしくてな』
「それってつまり、彼女にも大いなる真実を?」
『そういうことになる。おそらく今回やることの仕掛け人になるな』
仕掛け人……俺は少しばかり考え、
「カレン達に話す前に、何かやるのか?」
『そうだ。現在ルウレについては捜索している……神魔の力を用いた魔法で雲隠れしたとしても、そう長い時間は無理だろう。よってこちらの魔法によりそう経たずして捕捉はできる。そこからセディ達には動いてもらう』
「つまり、ルウレの捕縛を俺達に?」
『そうだ。勇者バルナに関与しているため、こちらとしても対応はしようと考えた……が、ただやるだけならばあっさりと終わってしまう。どうせなら利用させてもらおう』
「……勇者ラダンの方は大丈夫か?」
『そちらについても考慮した上で言っているから心配するな』
――エーレがそう語っている以上、こちらから話せることは何もないな。
「わかった。それで、具体的には?」
『仲間達にセディの口から真実を話しても、信じられないだろう。急に私の所へ連れてきてもただ混乱するだけだ。そもそもセディには魔族化したという事件もあるし』
「そこから誤解をとかないといけないもんな……」
『そうだ。よって王都で女王アスリと謁見した際、彼女の口から真実について調べてくれと依頼を受ける』
「つまり……」
俺の言葉に、エーレは小さく頷き、
『自らの手で、大いなる真実が何なのかを調べてもらい、それを通して答えを導き出してもらう……これが、試練だ――』




