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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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戦線維持

 戦い始め――押し寄せる敵を押し返し続けて、およそ三十分ほどだろうか。まだ疲労しているような状況ではないのだが、最大の問題は果たして俺達がどこまでもつのか、ということだ。


「クロエ、平気か?」

「まだまだいけるわよ。セディは?」

「こちらも問題はない。ひとまず神魔の力を所持する魔物もいないみたいだし、今は対処できているな」


 迫る魔物達は全て瞬殺で対処し、なおかつ後方から魔法の援護もある。カレンの魔法は一度の攻撃でかなりの数を撃破できるし、シアナもまた同様。さらにフィンやレジウスが時折俺の所へ救援に来たりしているため、想定よりは体力などを消費せずに済んでいる。

 もっとも、後詰めがいないのでどこかで魔物の襲来が途切れなければ……そう思っていたのだが、


「セディ様、余裕はありますか?」


 後方からシアナの声。それに一瞬だけ振り向くと、


「体力などを維持する魔法があります。もし危ないと思ったら遠慮なく仰ってください!」


 お、これは心強い……ただ、問題は俺やクロエが平気でも他がどうなのか、という点にある。

 現在ジクレイト王国の部隊は広く展開して俺達のところへ誘導するような魔法を行使している。幸い彼らが魔物に狙われるような状況には陥っていないのでまだなんとかなっているが、彼らの動きが滞れば戦線が崩壊する危険性がある。


 それに対しフォローを入れているのはディクスやカレン達……魔法により的確に味方の援護を行っている。状況を見てか、特に騎士達に対し注意を向けている様子。二人もまた騎士達が要であると気付いているようだ。

 ひとまず戦線は維持できているが、この均衡はどこかが崩れれば一気に瓦解する。現在は微妙なバランスで保っているが、果たしてどこまでもつのか。


「セディ!」


 クロエの声が飛ぶ。何が言いたいのかはすぐにわかった。真正面に他とは明らかに異なる魔物が出現したのだ。

 人間を二回りは大きくした体躯の悪魔。その手には棍棒のような物が握られており、もし地面を打てばクレーターができそうなくらいの筋肉を所持している。


 単純な物理攻撃だけならそう怖くはないのだが……悪魔は近づいてこない。俺達と一定の距離を置いて立ち尽くした状態だ。


「あれ、誘っているのかしら」

「というより、周囲の魔物の動きを制御しているから攻めて来ない、という表現の方がしっくりと来るな……どうする?」

「アレを倒して終わりというわけでもないでしょう? かといってこれ見よがしにいるのだから、放置しておくのも気持ち悪いわね」

「……魔法で片付けるか」


 その言葉と同時、どうやら俺達と同じ事を思ったらしいカレンの魔法が、悪魔へ向け放たれた。

 直後、悪魔が動く。周囲の魔物が散開したかと思うと、悪魔は横に足を移し魔法を回避。攻撃そのものは後方に着弾したため無駄にはならなかったが、どうやらあいつに攻撃を当てるにはそれなりに工夫がいるらしい。


 とはいっても、俺やクロエが前に出たらまずいことになる……そこで、


「シアナ!」

「はい!」


 声と同時、後方で魔力が高まる。その間に悪魔の方も厄介な敵だと気付いたか、吠えた。

 刹那、魔物達の勢いがさらに増す。ジクレイト王国の騎士団が魔法により敵を誘導しているわけだが、悪魔の咆哮はその流れにあえて乗り、俺達のいる場所へ戦力を傾けたらしい。


 こちらはシアナの魔法が収束する間も俺とクロエは立ち回る……のだが、一つ疑問が。


「ああいう指揮官がいるのなら、なぜこちらの誘導に魔物が従う?」

「数が多くて単純な命令しかできないんだろう」


 と、これはディクスの言。


「悪魔が命令できる内容などには制限があるといったところか。例えば誰かを集中的に狙え、という指令を拡散することはできても、十列目までは直進し、残りは間を置けとか、そういう複雑な命令はできないと。あるいは指令を送る悪魔の方が単純な命令しかできないか」

「後者である気がするな……問題はこの魔物達を誰がどういう風に生み出しているのか」

「勇者バルナの顛末を考えたら、誰かが裏で手を引いている可能性もあるわよね」


 会話をしながらもクロエは魔物を一体瞬殺する。


「かといって勇者バルナ自身、自らの意思で行動しているような雰囲気だったし」

「言動はまさしくそうだったな……もし神魔の力に関連して勇者バルナを密かに監視しているのだとしたら――」


 相手はおそらく勇者ラダンに連なる最後の勢力だろうか……丁度エーレ達の監視から逃れたようだし、その人物である可能性は十二分にある。

 推測をする間にもシアナの魔法がいよいよ発動する。俺が魔物を二体同時に撃破した直後、彼女の魔法が行使された。


 それは、彼女の頭上高く出現した光の矢。ただしその数が尋常ではなかった。数百はくだらないその光。彼女が手を振った瞬間、一斉に放たれる!

 悪魔はそれを捕捉したようだったが、さすがに逃げることはできず受けるしかない。途端、悪魔は魔力を用いて防御したようだが……光の矢が直撃すると、その防御が崩れていく。周囲の魔物も恐ろしい速度で消えていき……やがて悪魔もまた、光の雨を受けて消滅した。


「……見事」


 俺は一つ呟くと、一度振り返る。彼女に余裕はあるみたいだが、どうやらカレンの方が慌ただしい様子。二人で分担していた援護を一人でやっているようだ。

 光の雨をさらに降らせれば魔物を一気に倒せるが、戦線を維持するには援護も必要で無茶はできない。よって、こうした手助けはあまり期待しない方がいいだろう。


 そして……なおも森から続々と敵が出現し続ける状況。援軍が来ないことを考えれば、精神的な疲労は免れない。


「クロエ、まだいけるか?」

「ええ、大丈夫よ」


 ともあれ戦う俺達はまだしも、戦線を維持する騎士達が不安になってくるな……そう思いながら剣を振っていると、さらに戦局が変化する光景を目の当たりにした。


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