勇者達の戦い
「ここで止めなければ甚大な被害が出るのは間違いありません」
レナはそう決然と述べた後、騎士の一人に指示を出す。
「町へ伝令を。近隣の騎士達が早急に駆けつけてくるはずです。残る者達は魔物が町へ進むのをここで食い止めます。しかし」
レナは俺や勇者ロウを見た。
「そちらは、さすがに無理強いはできません。どうするかはご判断をお任せします」
「……回答は、決まっているな」
俺が応じる。それにミリーやフィンといった仲間に加え、シアナやディクス、クロエもまた賛同するように頷いた。
「こちらも、戦います」
ロウが述べる。隣にいるケイトもまた賛同し、全員が戦うことを決意する。だが、
「正直、生き残れるかどうか……」
「やるだけやるさ……クロエ、覚悟はいいか?」
「ええ、もちろん」
大剣を構える。そして彼女は一言、
「色々と面倒な仕事だったけれど、最後はわかりやすくていいわね」
「そうはっきり言われると……まあでも、シンプルな戦いなのはいいな。これ以上事態をややこしくはしたくないし」
俺はそう答えた後、剣を抜きながら仲間達を見回す。
「前線には俺とクロエ……そしてディクスが出る。レナ達は魔物の動きをできるだけ誘導し、俺達の所へ行くよう促してくれ」
「魔物を集結させるんですか?」
「あの数では俺達三人が並んでたって壁にはならないだろ。倒せる力は持っているけど、間違いなく横をすり抜けられる。それを少しでも防がないと魔物が好き勝手に暴れてしまう」
「わかりました。ならばジクレイト王国の面々は敵の誘導に終始します」
「頼む……ミリーとフィン、レジウスさんはカレンやシアナの護衛を頼む」
「護衛、ということは――」
ミリーが何事か言いかけた時、俺はゆっくりと頷いた。
「俺達三人が魔物を倒しながら、カレンとシアナで援護する。それが一番無難な戦法だろう。敵の動きが変わったのなら、都度戦術を変えればいい」
「それしか方法はなさそうだな」
フィンは呟くと、俺へ向けニカッと笑った。
「指示承った。で、急がないとまずいことになりそうだぞ」
「わかっている。レナ、手はず通りに頼む」
「ええ、任せて」
「クロエ、ディクス、行くぞ」
俺の言葉に二人は従い、丘を降りて魔物のいる場所へ走る。そこでレナが騎士達へ指示を始め、またカレン達仲間が俺に追随する。
それにロウとケイトも加わる。どうやら二人もカレンやシアナの護衛に回ってくれるようだ。
さて、唐突に始まった魔物達との戦い。ただこれについては俺やクロエは勝手知るものであり、また以前勇者と戦った際にも似たようなことを経験している。問題はない。
もっともそちらの場合は俺やクロエは魔族達と協力して戦っていた。状況は似通っていても今回はそういうわけでもないため、やり方を工夫しなければならないだろう。
なおかつ、神魔の力についても警戒する必要があるかもしれない。これが勇者バルナの関連であるならば神魔の力をその身に宿している個体があってもおかしくはない。
「セディ、私はどう動けばいい?」
クロエが質問してくる。俺は少し思案し、
「ひとまず自由に動いてくれればいい。それでディクス――」
「こちらは後方の仲間の状況を把握しながら動く、だな?」
その言葉に俺は頷く。
俺やクロエは正直目の前の敵に集中した方がいい。それに対しディクスならば状況に応じて動くことができるはず。
よって俺とクロエが最前線に立ち、その一歩後方でディクスが構える。
やがてレナ達が散開し魔法を使用する。それは魔力の流れを誘導する効果で、俺達の方向へ向かってくるよう調整している。
結果、魔物達は自然と俺達が立っている場所へ近づこうとする。さすがに全てを引きつけるのは難しいと思ったのだが、レナ達が上手くやっているのか、出現する魔物達は俺達を標的にしている様子。
騎士達は深追いをせずあくまで魔物を誘導しているだけ。個人的にそちらの方が好都合だ。下手に介入されると味方が危なくなるかもしれない。
次第に魔物が迫ってくる。誘導してはことからも勢いは相当なもので、俺は一度深呼吸をした。
「大丈夫? セディ」
クロエが声を掛けてくる。それに対しこちらは、
「ああ、問題ないよ……これが今回の事件における最後の戦いだ。気合い入れてくれよ」
「ええ、もちろん」
承諾と共にクロエの魔力が濃くなった。そして魔物が近づいてくる。もう時間はない。
なおかつ際限なく出現する魔物達。一体これほどの数をどのように制御し、また生み出せたのか……事情を知らなければ魔族の仕業と断定するところだが、俺は違うと知っている。
「――最後の最後で解明しなければならないことができてしまったな」
俺の感想にクロエは「まったくね」と答える。ディクスも同意なのか小さく頷いているのを確認できた。
「話を戻そう。突撃してきても俺達なら耐えられると思うが、さすがに後方に仲間達がいる以上、絶対にここを死守する」
「了解した」
ディクスが律儀に返答する。その直後――魔物が眼前に迫る。
それに対し俺は迷わず一閃した。それにより魔物はあっさりと両断され、形をなくしていく。質的な意味合いにおいては、俺やクロエにとってみれば楽勝だろう。
けれど数が異常であるため、最初から気合い入れて戦わなければならない……そんなことを考える間にさらなる魔物が襲来。けれどそれは、クロエの斬撃によって対処した。
俺とクロエなら魔物の討伐自体はそう難しくない。ただ際限なく出現し続ける魔物達に対し、果たしてどこまでやれるのか。
そう考える間にも俺は手近にいた悪魔に一撃を見舞い、消し飛ばす。とにかく一体に掛ける時間を減らすしかない……そんなことを考えていた矢先、俺は森の奥から強い気配を感じ取った。新手だけでなく、どうやら一筋縄ではいかない様子……俺は森に視線を送りながら、魔物と斬り結ぶこととなった。