押し寄せる敵
翌日、朝食をとった後に俺はレナに城の状況を確認。
「何か変化はあったか?」
「いえ、勇者バルナの魔力が戻ってくる、などということもないようです」
結局、エーレに任せるしかなさそうだな。そういう結論を導き出し、
「なら俺達は王都へ戻る……ってことでいいのか?」
「数人の騎士と魔術師が少しの間様子を見ることになりそうですけれど、ね」
レナは小さく息をつく。
「単なる魔王討伐のはずが、思いも寄らない結果となりましたね」
「まったくだ。けど全員無事だった……何よりだ」
「そうですね。ところでセディさんはこれからどうなさるんですか?」
「俺? 仲間と共に旅を続けるよ……魔王を倒すためにさ」
レナは小さく微笑む。一瞬彼女はどこか寂しげな様子を見せ、
「本当なら、私もそれに参加したいところですが……」
「いや、レナは国のために動くべきだろ。今回みたいに主導的な役割を担うように」
「そう、ですね……旅のご無事を祈っています」
「ありがとう」
礼を述べ、仲間の所に戻ろうとした時――
「ほ、報告です!」
レナの所へ騎士が駆けてきた。
「城を監視する騎士からです……魔物が出現したと」
内容に対し、レナは目を細め、
「城内からですか?」
「いえ、東に存在する森林地帯からです。その……数が、異常であると」
深刻な表情。俺とレナは互いに目を合わせ、
「……すぐに向かいます。他の者達にもすぐに連絡を。そしてこの町の詰め所に行き、周辺住民の避難を促すよう伝達を」
「はっ!」
騎士はこの場を離れる。そこで俺は一言。
「魔物……しかも数が異常とまで言うか」
「城のある場所から探知魔法で調べたのでしょう。森林地帯と言っている以上はまだ距離はあるようですが、早めに対処しなければ町などに被害が出るかもしれません」
「そうだな。俺達も行くよ」
仲間達には確認をとる必要もないだろう。レナは「お願いします」と告げ、
「私は隊をまとめ、準備を速やかに済ませます。セディさんの方も」
「ああ、わかった。戦士団の面々には俺から言っておくよ」
ただ、昨日の事態からまだ立ち直っていない人もいるからな。精神的に辛いのならば、今回の件で帯同は避けた方がいいかもしれない。
俺とレナは分かれ、こちらはすぐさま仲間へと連絡する。フィンやミリー、レジウス頷き、当然シアナやクロエ、ディクスも戦うことに同意する。
で、問題はカレンだが……一晩経って体調はある程度戻ったらしく、
「私も行きます」
「大丈夫なのか? 無理そうなら――」
「魔物が出現した以上、弱音は吐いていられませんよ。それに――」
自分が成したことに対する罪滅ぼし……そんな考えがあるのかもしれない。
「わかった。けど体調が悪くなったら即座に言うこと」
「はい、ありがとうございます」
よって仲間達を引き連れレナと合流。既に準備を整え、また町側の兵士達も避難指示のために動き始めていた。
「現段階では急報ということしかわかっていませんが、このような報告がもたらされた以上、緊急事態であることは間違いありません」
出発前、レナはそう語り出す。
「よって、今回は私達の指示に従い行動してもらいます。魔物との戦いは結束が途切れたらその時点で苦しくなる。よろしくお願いします」
そうして出発する――メンバーはジクレイト王国側の面々は連絡役を除き魔王討伐に参加した面々が参加。俺の仲間も同じ。
また勇者バルナの戦士団だが……こちらは勇者ロウとケイトだけが参戦した。そこで俺はロウへと問い掛ける。
「そっちは大丈夫か?」
「衝撃はありましたけど、魔物が襲来したんです。戦わなければ」
毅然とした態度。おそらく故郷における魔王の戦いなどを思い出している。
彼自身、魔王と相対するなど修羅場をくぐっていることから、バルナの件で衝撃があったにしても、魔物の出現ということで参戦してくれたようだ。ちなみにケイトも烈気をみなぎらせ、戦う覚悟を決めている様子。
こちら側は問題ない……俺達は少し早足で行動し、やがて城近くまで到達。そこで城を観察していた騎士と合流し、
「その、報告した時と比べ状況が変わっています」
騎士の顔は、ずいぶんと深刻なもの。そこで彼は森林地帯を見渡すために、城から近い場所にある丘の上へ行くようレナへ進言。彼女はそれを受理した。
俺達もまたそれに追随し……丘に到着し森林地帯を改めて眺めると、
「――な」
レナは小さく呟き……そして俺を含めた他の面々は、言葉も発することができないまま絶句した。
なぜか――目の前に広がる森林地帯が、風でなびくように動いている。それは見える範囲のほぼ全てであり、あれが単に風で揺れているなどと考えることもできず、
「……森全体から、魔物が近づいてきているのか?」
掠れた声でフィンが呟く。俺は視界に広がる状況を見て、
「まるで、森そのものが襲い掛かってくるかのようだな」
そんな言葉を発すると、他の面々の中には頷き同意する者もいた。
やがて森から魔物が現われる。動物を模したものが大半だが、その数が尋常ではなかった。森の中から次から次へと、数十などという数には到底収まりきらない魔物が、森から出てくる。
「……どういう因果関係なのかわからないけれど」
ミリーがここで声を発した。
「勇者バルナのことが、関係しているのは明白でしょうね」
「魔力が天に昇った後、森の魔物に干渉したと言いたいのか?」
こちらの問い掛けにミリーは首肯し、
「それ以外考えられないと思うけど」
「……状況証拠にしかならないけど、確かに偶然にしては出来過ぎだな」
俺は淡々と答えながらどう対処すべきか考える。
数の多さだけを考えれば、それこそ相当数の軍隊が必要になってくる。はっきり言って丘の上にいる面々だけでどうにかできるような数ではなく、普通ならば即座に退却だろう。
しかし現時点で魔物が間近に迫っていることからすると、逃げれば周辺に多大な被害が生じる。魔物の進攻速度を考えると避難なども到底間に合わない。もし犠牲などをゼロにするのならば、俺達でやるしかない。けれど戦力が足りない――
「……私、は」
色々と思考する中で、レナが俺達へ向け口を開いた。




