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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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仲間達について

 レナが古城を監視する手はずを整えた後、俺達は城を後にした。結局、勇者バルナの魔力は完全に消え失せ、俺達に何かしら影響を及ぼすこともなかった。

 道中ではトラブルもなく、夜更けに町へと戻ってきた。ひとまず休むことにして、ベッドに入ることに。仲間達は神経を張り詰めていたせいかすぐに就寝。カレンなんかもさすがにあっという間に眠ることに。


 俺も同じように眠りたかったのだが、あいにくこちらはやらなければならないことがある。シアナから連絡を受け、使っていない宿の一室を利用して話をすることに。宿屋の人には申し訳ないけど。


『予想外の終わり方だったな』


 そして報告を受けたエーレが告げる。この場にいるのは俺とクロエにシアナとディクスだが、全員が一様に頷いた。


「エーレ、あれは結局何だったんだ?」

『魔力が抜け出るという現象そのものは存在するが、体が消えたとなればさすがに異例だ。自然現象ではなく、誰かからの干渉ということになるだろう』

「その犯人探しをやらないことには、完全に事件が解決したとは言えないか」

『それについてはこちらでやろう。さすがにセディ達では荷が重い』


 確かに……バルナの姿形すら消えてしまった現状では、調べようにもどうしようもない。


『セディ達はそうだな……少しの間、休んでくれればいい。王都に戻って休息でもとったらどうだ?』

「問題はないのか?」

『勇者ラダンのことについてなど、課題もあるが今は小康状態といったところだな。こちらできちんと動いているから心配はするな』


 他ならぬ魔王の言葉なのだ。俺は「わかった」と応じ、それ以上の言及は控えることにした。


『さて、勇者バルナの凶行を止めることができたわけだが……勇者ラダンと関連する勢力について、残すは一つとなった』

「そちらについてはどうなんだ?」

『ああ、動きがあった。こちらが監視していたことを悟られたわけではないと思うのだが、突如住んでいた場所から忽然と姿を消した』

「え……それって、結構まずくないか?」

『捜索をしているが、魔力などはいずれ捕捉できる。そう時間も経たず見つかるだろうとは思う』


 エーレは悲観的な言動をしているわけではない。そう問題にはならないということか。


『最後の勢力はほとんど動きがないからな。まあこちらについても任せてくれ』

「わかったよ。ということは、勇者ラダンとの戦いに備える方がいいのか?」

『神魔の力を鍛えるなど、色々とやっておいた方がいいかもしれないな』


 現時点でラダンの居所や『原初の力』が眠る場所などわからないことも多いが、敵側に動きがないのでひとまずは大丈夫そうだ。


「わかった。それじゃあ俺達はそういう方向で……クロエもいいか?」

「ええ、いいわよ」

「シアナやディクスはどうするんだ?」

『二人は引き続きセディ達と共に行動してくれ。今回の件で、セディの仲間にも色々あったようだから、な』

「はい、わかりました」


 シアナが応じる――ここで俺は、一つ言及することにした。


「エーレ、相談なんだけどいいか?」

『どうした?』

「現在、俺は基本的に仲間達と離れて行動しているわけだが、そうしたことも徐々に限界に近づきつつあるように思える」


 その言葉にエーレは俺の目を真っ直ぐ見据える。


「大いなる真実について話したい、というわけじゃない。ただ現時点でエーレ達の仕事をこなすことになると、どうしても仲間達のことがおざなりとなってしまう。今までディクスなどフォローを入れてくれた面もあったが、俺の生存が認知されている状況である以上、どこかで無理が生じる危険性がある」

『ふむ、セディの言う通りだな……その辺りのことについてはこちらでも何度か検討したのだが、結論が出なかったことに加え勇者ラダンのこともあったため棚上げされていたのだ』

「検討というのは?」

『セディが今度管理の仕事を学んでいく中で、どうセディの仲間達のフォローを入れていくのか。セディが懸念していることはもっともであり、問題が生じるのならば解決する必要がある』

「検討していたということは具体的な解決法は出たのか?」

『言っておくが、記憶を消すといった無茶な方法はしないぞ。色々案も出たのだが……一番違和感もないようにするには、やはり真実を話すしかないという結論に至った』


 それはつまり、カレン達にも大いなる真実について伝えるということか。


『ただそれは非常にデリケートな問題だ。私が安易に頷いても、アミリースを始めとした神々が止めに入る可能性が高い』

「もし話す場合、魔族側と神々達を認めさせる必要がある、と?」

『そういうことだ』


 無茶苦茶大変だと思うんだけど……。


『認めさせる、といっても大層なことをする必要はない。提示した策としては、セディ達の仲間に試験を課す』

「試験?」

『といっても当人には試験だと悟られないようにして、だ。それに合格したのなら晴れて真実を話す……そんな段取りだ。ただ議論を棚上げしていた関係で具体論はまったく出ていないが』

「どちらにせよ、大変そうだな」

『まったくだ』

「あの、一ついいですか?」


 と、ディクスが突如手を上げた。


「この場でセディ以外に彼らに詳しい人物が私なので意見させてもらいますが、そう問題にはならないと思います」

『セディの後押しもあるし、私としても混乱などがあるとは思っていない。ただこれは管理のことをこちら側から能動的に話すことを意味するため、大いなる真実を知る者達からは渋い顔をされるのだ』


 ……ああ、そうか。例えば俺は王様に詰問して情報を得た。あるいは勇者ラダンなどは誰かから話を聞いた。つまり人間が動いた結果、情報を知ったという形。


 反面今回話をしている場合は魔王側から情報を伝えるということになるため、反対意見もあるというわけだ。これが王族など管理に携わる人なら必要に迫られてやる必要はあるのだが、例えばテスアルド帝国の皇帝に対し警戒もあり話さなかったなんてことがあるように、相当慎重に事を行っている。俺の仲間であってもさすがにすんなり同意するわけにはいかないってことだろう。


『この辺りもおいおいやっていかなければならないが……セディ、申し訳ないが今は勇者ラダンの方に集中させてくれないか』

「ああ、いいよ。年単位だとまずいけど、数ヶ月くらいならまだ誤魔化せるだろうし」


 そういうわけで、ひとまず議論はここでも棚上げに。よって俺達は明日、王都へ戻ることにしたのだが――事態は予想外の方向へ動くこととなる。


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