堕天使の事情と目的の国
時間的にはおそらく夕方前――俺が部屋に戻り少しすると、ノックの音がした。
「どうぞ」
呼び掛けた直後、扉が開く。廊下から現れたのはファールンで、
「……シアナ様?」
彼女はテーブルに備え付けられた一席に座るシアナを認め、驚いた。
「私も、話しに加わった方が良いでしょう?」
シアナはファールンの反応に、微笑んだ。けれど当の彼女は部屋に入らず、立ち止まったまま。
「ファールン、入ってくれ」
俺は椅子に座り急かすように告げると、ファールンは意を決したかのように扉を抜け、閉めた。そして絨毯を規則正しく歩み、残った一席に(二つしかなかったので予め隅に置いてあった物を用意した)座る。
構図としては、俺の右正面にファールン。そして左にシアナが座っている。両者共膝の上に手を置き、こちらを見据えている。
「で、玉座の会話でファールンのことを取り上げた時、雰囲気が変わったけど……理由は?」
二人の様子を見て、俺から切り出す。それは核心部分に触れる問い――ファールンは小さく頷くと、ゆっくりと話し始めた。
「まず、私の素性から話さなければなりません。他の方々は話が長くなるからと、一切伝えなかったかと思います」
「そうだな」
「話すと長くなるというのもありますが……事情を知る方達は話したがらないというも理由なのです」
話したがらないという言葉に俺は首を傾げ――同時に以前、勇者として大いなる真実を問い質した王が、彼女のような雰囲気を発していたのを思い出す。
「結論から申し上げますと……」
やがて、彼女が言ったのは――
「私は、管理をする上で偶発的に殺されてしまった人間の……転生体です」
「……は?」
間の抜けた返事で応じるような言葉だった。
「そうした反応を示すのは当然ですね……私はこれから赴くジクレイト王国の……現女王、アスリ様の侍女兼護衛をしておりました」
「……なるほど、だからエーレがあんな反応を……」
「はい」
俺の言葉にファールンは頷く。
「そしてこの事実は……アスリ様の耳に入っていません」
「秘密ってことか?」
「話せなかった、と言った方が良いかもしれません」
彼女は言うと、背に生える翼を僅かに揺らした。
「元々、陛下は転生体として私を復活させ、元の姿にして女王の下へ送り届ける予定だったそうです。しかし、魔族としての力を付与した結果、生前の姿となることはできず……結局、堕天使という立場と相成りました」
「姿は、変えられるよな?」
「見た目上はできますが、取り巻く魔力を誤魔化すことはできません」
「あ、そうか……そんな状況じゃあ、女王の下には帰れないよな」
「はい」
「で……こうなった経緯は?」
尋ねると、ファールンはシアナと目を合わせた。
「これは私よりも、シアナ様の方がお詳しいです……私は当事者なので、転生する最中のことは過程を聞いただけですから」
「私が、話します」
シアナが口を開く。表情から、どうやら全てを知っている様子。
俺は「頼む」と言い、彼女に耳を向ける。
「きっかけは、とある魔物の討伐……といっても、魔力にまつわる存在ではありません。古からジクレイト領内で暮らす……古竜の討伐に赴いたことです」
「古竜……?」
聞き返しながら――俺はその名に関する記憶を頭から引っ張り出す。
俺達の住む世界には、人間以外にも多数の種族がいる。エルフであったり、ドワーフであったり……その中で驚異的な力を有するのが竜だ。
けれど竜というのは二種類の区分がある。一つ目が人間に近い姿に変身し、人間と同じように言語を持ち知識もある『新竜』という区分。そしてもう一方が姿を変えることができず、新竜のように言語などを所持していない原始的な力のみの存在。それが『古竜』である。
「ジクレイト王国に、古竜なんていたのか?」
ちょっと興味を抱き問い掛ける。古竜は本能的に人を襲うケースがあるため、人間の近くにいる存在は大抵駆除されるのだが――
「はい。とある火山洞窟に、千年単位で生きる強力な古竜が一体。普段は温厚でほとんど洞窟から出ないのですが……時折暴走し、人を襲うケースがありました」
シアナの解説。俺はファールンに目を向けつつ、シアナに問い掛ける。
「それを討伐した際、ファールンが?」
「はい。女王が討伐軍を編成し、自らも赴き……なおかつ援護のため、大いなる真実を知る幹部も、複数名参加しました」
そういうケースで協力する場合もあるのか――俺は少しばかり驚きつつ、シアナの説明を聞き続ける。
「戦いは犠牲を伴いながらも……結果的に古竜は傷を負い洞窟へ逃げ込みました。本来ならば倒すべきだったのですが、討伐軍もかなり疲弊していたため、女王は退却を命じました。そこで魔族の幹部達は彼らを無事に帰還させるため、念の為古竜の姿を確認しに洞窟の奥地へ赴きました」
そこまで語るとシアナは目を伏せる。どうやらここからが核心部分のようだが――
「後を追うと、古竜は洞窟奥、地中深くに姿を消した……そして幹部達が結界を張り、ひとまず古竜が地上に出るのを防ぎにかかりました。結果、古竜を封じ込めることに成功しましたが……女王の命ではなく独断で動いていたファールンが、彼らを心配し後を追っていたため、問題が発生しました」
「魔族であると知ってしまったと」
俺の言葉にファールンが頷く、同時にシアナは無念そうに、膝の上に載る拳をぎゅっと握る。
「ファールンは魔族だらけの実情から、ジクレイト王国に魔族のスパイがいると思ったらしいのです。そのため、女王に伝えるべく引き返そうとした」
「大いなる真実を知らないと、そういう結論になるよな……」
「はい……そして幹部達は気付き追いついた。なんとか事情を説明しようとした時、ファールンが戦いを挑み……幹部が、彼女を殺してしまった」
シアナの眼がファールンへ向けられる。それは、どこか後悔する視線。
「幹部達はひとまずお姉様に報告し……お姉様は私に転生させるよう提言しました。そして蘇生を試みた結果……今のファールンがいます」
「そして完全に元通りには、できなかったのか」
「はい。天使などが扱う儀式魔法を使えば、生前のようにできたかもしれません……ですがこれは私達魔族が招いた不祥事なので、頼れません。そして私達魔族はこうした技法が優れているとは言い難く、できるのはお姉様がリーデスにやったように、全く違う存在に転生させるという方法だけ」
「シアナがそれをやって、失敗したと?」
「お姉様は私の魔法技術ならと期待したらしいのですが……結果は至らず」
「シアナ様」
辛そうに語るシアナに、ファールンが首を振り声を上げた。
「どんな理由があろうとも、私が蒔いた種ですから」
「……ファールン」
シアナはなおも気に掛けている様子だったが――やがて頷くと、俺に口を開いた。
「そして結局……女王アスリには話せず、古竜に襲われ戦死したとだけ報告しました。その時の乱れようは、凄まじかったと聞いています」
「なるほど……で、ファールンはそこからどうしたんだ?」
「転生され、陛下から事情を聞き……お役にたてればと、堕天使として奉公しています。無論、女王には話していません」
「もしこれが露見したら……」
「最悪、大いなる真実を知っていたとしても、陛下と敵対するかもしれません」
だから懸念しているのか――俺は理解し、シアナへ質問する。
「元に戻すことは、できないんだよな?」
「はい」
「だから隠し通す必要がある、と」
――どうにも、頭の中がモヤモヤする事件だ。
「……怒らないのですか?」
ふいに、シアナが尋ねる。俺は首を向けると、問い返した。
「怒る、とは?」
「今回は、大いなる真実の露見を防ぐために……私達としては仕方がなかったとはいえ、人を殺め、さらにその命を、弄んだ」
「そういう言い方は……で、ファールンはそれを自分が蒔いた種だと?」
「はい。無知だったとはいえ……そうなってしまったのは私の責任です」
……聞いていると、誰も彼もが後悔している。シアナは悲しそうな瞳だし、ファールンは現状を受け入れているとはいえ、女王のことは気に掛けている様子。
俺としては、こういう二人の姿は見たくない。けれどすぐに解決できるようなことでもない――そこまで考えた時、
「ファールン」
次にしたことは、ファールンに問い掛けることだった。
「いつか女王に話す時は、来ると思う?」
「わかりませんが、どう考えても納得しないでしょう」
「そうか……わかった。じゃあ、俺の見解を言うよ」
二人を見据え、俺は告げる。双方とも緊張した面持ちとなり――
「俺はエーレや、シアナが人間に対しどんな風に接しているか知っている。だから今回のことを憤ったり、理不尽だと罵ったりはしない」
「……ありがとうございます」
シアナは頭を下げた。態度からこの一事を相当気に掛けているのがわかる。俺に対しても、話すのを躊躇っていたかもしれない。
けれどそういう態度だからこそ、言わなければならないこともある。
「だが、一つだけ言わせてもらうよ」
俺はファールンに視線を移しながら続けた。
「これは人間や魔族というのは関係ない……つまり、隠蔽というのは良くないと思うんだよ」
「つまり、事情を説明しろということですか?」
ファールンが問う。俺は頷きつつ、説明を加える。
「絶対に話すべき、というわけじゃない。女王の考えを聞いて、事情を話すべきか判断する必要はある……けれど二人の口上だと、そういう会話もなされていないようだし」
「確かにアスリ様に対して、コンタクトを取ったことはありませんね」
シアナが口添えする。やっぱりと、俺は思った。
「だろ? なら女王の心情を訊いてみて対応するのも一つの手だと思う。ファールンは転生という形であれ生きている以上、一方的に会話を遮断しているのは、双方にとっても良くないはずだ」
「一理、ありますが……」
ファールンは俺の意見に難色を示す。
「しかし魔族を排斥する国家の女王です……否定的な見解をお持ちだと思います」
「その辺の事情は、ファールンも知らないんだろ?」
「事情?」
「大いなる真実に関する、女王の見解」
言われ、ファールンは目を見開いた。
「改めて問われると……確かに、わかりませんね」
「もし大いなる真実に対して肯定的かつ、魔族についても好意的な見方をしているなら……事情を説明しても、納得してくれる可能性はあるだろ?」
「どう、でしょうか」
「最初から否定的に見ていては駄目だと思う……まあ、その気持ちはわからないでもないけど」
人間と魔族の間にある溝は、相当深い――ここにいる俺達は、それをしっかり把握している。
「けどまあ、今回の作戦に際しどうにかする話でもないか……ま、一つの意見だと思ってくれればいいよ」
「ありがとう、ございます」
ファールンは俺の言葉に礼を述べた。内心どういう気持ちなのかわからない……けど、若干晴れた笑みを見せていたので、多少気は晴れたかなとは思う。
「えっと、それで。話はこれで終わりかな?」
「はい。私達が話せることは」
シアナが答える。俺は二人に「ありがとう」と礼を述べ、
「作戦について、多少なりとも関係しているのはわかった……その点も留意して、任務に当たらせてもらうよ」
「お願いします」
ファールンが最後に頭を下げ、会話は終了した。
翌朝、俺達は準備を済ませ玉座下の転移部屋へ赴く。
「今回の任務はかなり慎重を要する。気を付けろ」
「ああ」
エーレの言葉に俺は頷く。
「それとセディ。今回、他の幹部達には任務やシアナを同行させることを話していない。完全な隠密行動だと理解しておいてくれ」
「幹部に伝えないのはわかるが……シアナの件はなぜだ?」
「ジクレイト領内に潜入させるという事例自体、多少なりとも危険が付きまとう。なのにそれをシアナにやらせるということに、反発を覚える可能性を考慮した」
「……俺一人でやった方がいいんじゃないのか? 理屈つきではあるけど、シアナはいなくてもいいだろ?」
「いえ、セディ様には同行者が必要です」
きっぱりと、隣に立つシアナが返答する。
「お一人では絶対、無茶をしますから」
「そういうことだ」
エーレが言う。やはり、この点では一切信用されていない。
「前にも話したが、シアナがいることで適度なストッパーになるだろう?」
「いや、俺は人間である以上危なくなる可能性は低い。度合いを考えれば、シアナが同行するリスクとつりあわない気がするけど……」
「ジクレイトで交戦があるかもしれない以上、同行させる。私他、ここにいる者達はあなたを亡くしたくないのだ」
エーレが決然と言う。それはとりもなおさず、俺のことを大切に考えているということ。少しばかり、嬉しくなるが――
「それに、ここでセディに死なれてはシアナがひどく悲しむ」
「私のことは……いいじゃないですか」
蒸し返されてシアナは赤面。エーレは笑いつつ、さらに続ける。
「セディ、そういうわけでシアナを同行させる。心配いらない。いざとなればジクレイトを破壊し尽して脱出できる力量は持っている」
「そうならないことを祈るよ」
返事をするとエーレは再度笑い、腕を振り上げた。
瞬間、魔法陣から光が生じ、俺達を包む――
「武運を、祈っている」
エーレの言葉と共に俺は目を瞑り――やがて、葉擦れの音が周囲から聞こえた。
目を開けるとそこは森の中。周囲を見回すと隣にシアナ。後ろにリーデスとファールンが立っていた。
「で、リーデス。どうする?」
問うと、彼は俺とシアナを一瞥してから、口を開く。
「僕らは陛下が話されたように行動する……街に入るのも二人だけだ。ここで別れた方がいい。君の体が向いている方角に進めば、城が見えるはずだ」
「わかった。シアナ、行こう」
「はい」
俺とシアナはリーデス達に見送られて歩き出す。ガサガサと茂みをかき分けひたすら進む。
道中で、俺は見た目を勇者セディのものに変える。さらにシアナは、以前街に入る時に使った純白のローブ姿に変わる。
「シアナ……一応訊くけど、その衣装だと職業はどうする?」
「……魔法使いのつもりですが」
「そうか。ならそれで話を合わせるようにするから」
「はい……あ、それとセディ様、一つお伺いしたいことが」
シアナがふいに尋ねてくる。俺が「いいよ」と答えると、
「女王とお知り合いだそうですが……」
「いや、知り合いという程でもないよ」
即座に首を左右に振る。
「単に謁見して、お目に掛かったことがあるだけだ……けど」
「けど?」
「そういえば、約束をしていたな」
思い出し、その時の光景を記憶から引っ張り出す。
もし魔王を倒した時は、戦勝報告に来てほしい――そんな風に女王は言っていた。
その言葉は、どういう意味合いで告げられたものなのか。大いなる真実を知る女王にとって、どんな価値があったのか。
単なる世辞なのか、それともファールンの一件によって生じた本心なのか――
「やはり、確執があるのでしょうか」
そのことを話すと、シアナは心配そうに俯いた。
「何も話しませんが、ファールンはその点を気に掛けているはずです。セディ様が昨日お話された通り、何かしら事情を知ることができれば良いのでしょうけれど……」
「任務を優先する以上、内心を推し量るようなことは難しいかもしれないけど」
沈鬱な面持ちとなったシアナに、俺は言う。
「俺という変わった存在が生まれたことにより、何か変化があるかもしれない……そんな風に思いつつ、任務に当たろう」
「……そうですね」
シアナは微笑み、以後追及はなかった。
それから少しして森を抜けた。目の前に街道が伸び――どうやら丘の上らしく、正面に見える城下が、しかと目に入った。
「わあ……」
シアナが声を漏らし前を見入る。対する俺は勇者をやっていた頃を思い出しつつ、景色を眺めた。
平原に建てられた、巨大な街――分厚い六角形の城壁に囲まれた、恐ろしい程強固な城下町。けれどシアナが感じているのはそうした畏怖ではない。目に入る城――それこそ天に迫ると言っても過言ではない程の高さを持った蒼の城が、荘厳さを秘め鎮座していたことに、感動を覚えているに違いない。
あれこそ、ジクレイトが誇る――いや、人間全ての誇りと言っても良いかもしれない――魔法技術を結集して作り上げた最高傑作、首都ガラファの城だ。
「噂には聞いていましたが……これほどとは」
シアナが感嘆の声を漏らす。魔王城と比較すれば圧倒的な気配は劣る。しかし、青空の中にいても輪郭が見える不思議な城は、吐息を漏らし感動すること請け合いの、魔王城とは違い華麗さをも併せ持った存在だ。
「あれは言わば、人間達の誇りみたいなものだ」
シアナの声に俺はそう応じる。
「魔族とは非常に恐ろしい存在……しかし神と手を結ぶ自分達は、対抗する力を持っている。それを体現したのが、あの城だ」
「なるほど。人々の精神的な支柱となっているわけですね」
シアナは目を細めじっと城を眺める。先ほどとは異なる表情――魔族である自分の立場と、あの城ができた理由を色々と考えているのかもしれない。
俺は無言で佇むシアナを見守り――やがて、
「行きましょう」
シアナが告げ、俺達は歩き始めた。
街へ近づくにつれ、天を突くような城は見上げないといけないくらいになっていく。進むごとに迫力が増すその城は、前来た時もそうだったが、見つめると自然と背筋を伸ばしてしまう。
「すごいですね」
対するシアナは純粋に感動しているようで、歩を進めながら口を開いた。
「街がある分、お姉様のお城よりも巨大に感じます」
「ああ、確かに」
言われてみれば強固な城下町がある分、余計重厚に感じられる。
「人口もかなり多いからな……人数までは忘れたけど、少なくとも大陸有数の都市であるのは間違いない」
「あれほど見事な城がある以上、当然でしょうね」
シアナは答え、なんだか嬉しそうに笑った。
「どうした?」
「いえ……前の事件の時もそうでしたが、こういう風に旅をするのは楽しくて」
「楽しい、か」
「はい」
返事をするシアナの横顔を覗くと、目を輝かせていた。
そういえば最初出会った時、色々と世界を見て回りたいとエーレが語っていた。その願望が、多少なりとも叶えられているので、嬉しいのだろう。
「……と、いけないいけない」
けれど少しすると、シアナは首を小さく振る。
「こんな調子で任務を怠ってはいけませんね」
改めて顔を引き締め、言った。彼女の言う通り任務――それも重大な任務である以上、気合を入れるのは当然。しかし、
「シアナ、一ついいかな?」
俺は口を開き、彼女に助言する。
「任務内容から身構えるのは当然だ。だけど眉間に皺を寄せていると、逆に警戒される恐れもある。だから今みたいに息抜きは必要だ」
「息抜き……ですか?」
「ああ。シアナは……魔族である以上、気を付けるのは当然だけど」
魔族、という部分だけ周囲に聞こえないよう小声で話す。
「けど、普通の人にシアナがそういう存在であると露見することはないから」
「わかりました。セディ様のお言葉に甘えます」
「ああ……ただ、城にいる賢者が相手だと、わからないけれど」
「そこは大丈夫です」
その点において、彼女はしっかりと主張する。
「城の中に、セディ様みたいに力を秘めた方がいらっしゃるというのは、百も承知です」
「そうであっても、見つからないという自信があると?」
「はい。というか私がバレないというのは、アミリース様からの御墨付けですよ?」
アミリース――確かエーレの友人である、女神だったはず。
「前、お兄様と共に神界へ赴き……あまり部屋から出ませんでしたけど、一度だけ色々と見て回ったんです。そこでアミリース様が衣装を貸してくださって、その格好で色々と宮殿を散策し……結局、私がシアナ=シャルンリウスだと露見することはありませんでした」
えっへん、とシアナは胸を張る。
「神や天使相手にそれである以上、大丈夫ですよ」
有無も言わせぬ説得力。神々を引き合いに出されると、さすがの俺も頷かざるを得ない。
「わかった。けど、注意だけは頼むよ。シアナが油断する様なことはないと思うけど」
「もちろんです」
頷くシアナ。それで話を終えても良かったが――
「……一つだけ、言っておくよ」
中断はせず、さらに続けた。
「もし……もしも、シアナが魔族であり危なくなったら、俺がどうにか守るから」
――グランホークの居城の戦いぶりを見れば余計な心配かとも思ったが、口添えはしておいた方がいいだろう。
「……はい」
シアナは丁寧に返した。表情を見ると、少しばかり頬が赤い――
「ありがとうございます。セディ様」
そんな顔で、彼女から礼を述べられる。
同時に、大丈夫です――自身の気持ちに関する問題もまた、そう告げられているような気がして、俺は色々飲み込みつつ「わかった」と返事をした。




