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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編
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最後の抵抗

「申し訳ありませんでした……兄さん」

「理由を、話してもらえるか? なぜバルナと手を組んだのか」


 彼女はコクリと頷き、説明を始めた。


「私は、兄さんと再会した直後から、懸念を抱いていました。魔族化したけれど、体は元に戻った……けれど、不安が心の中にあった」

「勇者バルナは、それを取り除くことができると言ったのか?」


 俺の問いにカレンは小さく首肯する。


「はい。魔族化について彼は知っていると……そして、それは目に見えない形で進行していて、止めることはできないと」


 ――これについては勇者バルナの嘘だろうな。


「勇者バルナは、そうしたことを兄さんについて語る前に、語りました……だから私も信じてしまった。今思えば、兄さんについて調べていたのかもしれません」


 カレンとしては自分が内心不安に思っていた事柄について情報を持っていると示した。そして不安により俺のことを相談した、というわけか。


「あの地下室におびき出して、魔族化を取り払う魔法を使うと……この城を用いたのは、それが理由だと」

「改めてこの城が誰もいない場所だとわかったな……カレン、推測通りバルナは事前に俺について調べていたはず。勇者という地位を利用すれば色々と情報を小耳に挟むことができるはずだし、魔族化のことについてもそうして話題を振ったんだろう」


 俺の指摘にカレンは再度頷く……おおよそバルナがカレン達に接触した理由がわかった。

 最初はきっと、俺が魔王幹部を倒したという事実から力を奪おうと思っていたのだろう。けれどどうも魔族化という事実がある。バルナとしては力以外にも俺に直接語ったように記憶を得たいと考え、ここで罠にはめることを決めた。


「彼女も騙されていた、ということでしょう」


 そうレナが口を開く。


「カレンさんは勇者バルナについて都に戻ったら事情を聞く必要性はありますが、拘束されるようなことはないでしょう」

「そっか。良かった」

「何にせよ、無事で良かったわ」


 と、ここでミリーが口を開いた。


「結界で進路が塞がっているのを見て、肝を冷やしたわよ」

「悪いな……とはいえさすがにこうなるなんて思ってもみなかっただろ」

「まあね。まさか勇者が敵だったとは、想像もつかなかったわ」


 肩をすくめるミリー……さて、事件は一応解決したと言っていい。俺の役目は終わったし、バルナも十中八九勇者ラダンに偽の情報を吹き込まれている。エーレとしても情報がとれるとは思っていないだろう。

 そしてバルナの処遇は……勇者を殺めているという事実はあるわけだが、ジクレイト王国外の話で少し複雑な形になるだろう。ただ罪にならないというわけではない。


 というのも、国をまたいで動く場合、基本冒険者や傭兵はギルドに登録する必要があるのだが、そこで登録者などを殺めればギルド側から処分が降る。この場合、勇者バルナは幾人もの勇者――間違いなくギルド登録者になるだろう。そういう人物を殺めたことでギルド内で会議を開き、方針を決定……たぶんエーレのことだからギルド側にも話が通るよう根回しの手段はあるだろうし、もうやっているかもしれない。


 そしてギルド側は事態を重く見てジクレイト王国に一任する。よってジクレイト王国が正式に処遇を決める。こんなところだろう。


 なんというか、ジクレイト王国はとばっちりを食らった形だよな……いもしない魔族討伐に付き合わされ、さらに勇者バルナの処遇を決定する……国としてはあまり関係がないのに。でもまあ最後までやり遂げてもらい……エーレの方から礼とかはたぶんするんだろうけど、俺も何かできることを考えるとしよう。


「ひとまず落ち着いたようだし、引き上げるとしましょうか」


 ここでミリーは仲間内へ言う。


「城に敵がいないとわかったし、この城内で休んでもいいけど」

「……時間は掛かるけど、町まで戻った方がいいのかな?」

「――疲労はありますし大変ですが、町まで戻りましょう」


 そこで声を上げたのは、レナだった。


「町の方には夜に戻ってきても対応できるようお願いはしてあります。空の城とはいえ、ここで寝泊まりするのは気味が悪いですし」

「まあそうだな……レナ、そっちは大丈夫か?」

「色々動き回ったおかげで疲れていますが、問題はありません」


 戦闘もなかったからな。それじゃあ俺達は――


 声を上げようとした時だった。ゴアッと風の音が生じ、肌を撫でる。突風に近いそれは、城の一角から放たれたものだった。


「バルナ……!」


 気絶し、拘束されていたはずのバルナが、この場にいる誰からも距離を置き、壁を背にして立っている光景が見えた。

 先ほどの風は魔法か。拘束していたものを解除するためのものだったようだ。


「……まだ、終わっていない」


 バルナが呟く。それに対しジクレイト王国の騎士や魔術師は一斉に武器を構えた。


「事情を訊く必要はある。ここで下手に行動すれば、強制的に屈服させ、反乱罪なども追加される。おとなしく城まで同行してくれないか?」


 騎士の一人が問う。けれどバルナは態度を改めない。

 一触即発の状況でだが、これがどういう結末を辿るか、俺はよくわかる。バルナの行動は国側としても看過できないことは彼自身よくわかっている。よって捕まったら終わり……この場から逃げようとするだろう。


 その実力の高さから、バルナが逃げ切れる公算はある……ジクレイト王国の面々が相手ならば。こちらにはシアナやディクスという魔王の弟と妹がいる。二人ならばバルナがどのように動こうとも対処するだろう。

 気になることとしては神魔の力を利用した技術だが……シアナなんかは幾度かその力を体感しているし、対応できるとは思う。もしできなくとも今度は俺とクロエがいる。油断しなければ逃がすことはない。


 そう頭の中で結論づけた直後、バルナが動いた。彼は右手を振り、壁に打ち付ける。

 それにより壁が破壊された。魔法か何かを封じ込めていたか?


「逃がしませんよ」


 だがシアナが応じる。壁の向こう側は外だったが、破壊された部分を覆うようにシアナの結界が形成された。

 それにバルナは再度腕を振る。だが今度は魔法が通用せず、破壊には至らない。


 苦々しい顔をするバルナ。万事休すか……そんな表情すら浮かべた時――変化は起こった。


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