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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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勇者との激突

 真っ直ぐ向かってくるその姿を魔力で捕捉し、バルナは力で勝負する気なのだと理解する。

 こちらはそれを黙って受けることにする――直後、金属音が鳴り響いた。姿が見えないバルナではあったが、剣を豪快に振りかぶったか俺には風を切る音がはっきり聞こえ、受けることができた。


 鍔迫り合いと共に甲高い音が広間を満たす。何の策もない純粋な力押し……けれどこの勝負の結末は明白だった。

 次第に俺が押し始める……とはいえここで勝って追い込むのは俺の策略じゃない。シアナ達が来るというのならタイミングが重要なはず……よし、ここは――


 俺はまずバルナの剣をはじき返す。それにより数歩分後退する相手。相手としてはこちらの方が力が上だ、ということを気付かせるものとなるはず。


「どうした、勇者バルナ」


 挑発的に名を呼びながら俺は前に出る。透明になっている相手に対し容赦なく剣を振るう。


 バルナは突っ立っていれば食らうと悟ったようで即座に後退。もはや透明になっていること自体意味がないというのに、まだ魔法を維持しているわけだが……正直、俺はおぼろげながら位置をつかんでいるだけで、できれば狙いを定めて攻撃したいところ。

 となると、さらなる挑発しかない……そう思いながら俺は剣を軽く素振りし、


「お前がどこにいるのかは、既に見切っている」


 そう告げながら俺は剣の切っ先をバルナへ向けた。


「それはお前もわかっているはず。にも関わらず、馬鹿みたいに魔法を維持している……戦術に固執しているから、俺に勝てないんじゃないか?」

「挑発には乗りません……と言いたいところですが」


 バルナの姿が克明になった。その瞳は、俺を半ばにらみ眼光が鋭くなっている……人相が変わるほどに。


「確かに魔法維持に無駄な力を費やしているのは事実ですね」


 よし、挑発は成功。これで策がやりやすくなった。

 状況的には想定通りではあるが、気を緩めることはできない。これはただ倒すのではなく、バルナの全てを打ち砕く作戦。これで終わりではない。


「……さすがに、もう時間もないんじゃないか?」


 俺はそう呟きバルナをさらに追い立てる。


「お前がどんな魔法でここを隔離したのか知らないが、上には戦士団の他に俺の仲間や、ジクレイト王国の騎士団がいる。この広間を封鎖するものがあったとしても、魔族と戦うような装備を持っている面々にそう長い時間食い止められるわけではないだろ」

「それもまた事実ですね。結界は強固ですが、いつかは破られるもの……」

『――セディ様』


 そこで俺の頭の中にシアナの声が。


『結界ですが、もう少しです。あと少し時間を稼いでください』


 了解、と心の中で呟きながら俺は戦術を組み立てる。


「――この場でこうなった以上、もうお前は破滅だろう?」


 こちらの問い掛けにバルナは微笑を浮かべ、


「まだ終わっていませんよ」

「ここから挽回できると思っているのか?」

「あなたとカレンさんを始末すれば、いくらでも話はできます。それこそ魔族の仕業だとすることも、魔法の暴走だとすることも」


 正直、それは無理だと思うのだが……あるいは目論見が上手くいくという幻想を抱き始めているのかもしれない。

 俺は小さく息をつく。もうすぐここを隔離する結界は解ける。その前に――


「わかったよ。どちらにせよこうまでされたんだ。お前には報いを受けてもらわないといけない」

「無理ですよ。私に負けるのですから」

「大した自信だな。ここまで俺に一方的だったにも関わらず」

「ええ。なぜなら――」


 魔力が、発される。それはこれまでと比べて、異常とも言える量だった。


「私の方が上ですからね」


 ……透明になる魔法を維持するために結構な魔力を注いでいたのか、それとも全力で強化に注ぐとこのくらいのポテンシャルが出るのか。

 ともあれ、これまでとは異なるまさしく最高の一撃が次にやってくる。しかし、俺は一つ思う。


 どうあがいても……どれだけ力を得ようとも、魔王の力には遠く及ばないと。

 魔王と対峙し、その強さと信念を知る俺からすれば、彼の力はひどく軽い。


 また同時に思う。彼がこうした凶行に走らせたのは間違いなく勇者ラダンだろう。ある意味彼はラダンの謀略に飲み込まれた被害者。

 同情の余地はある。けれど……許すことはもう、できない。勇者ラダンと知り合っていても、凶行に至る前に出会っていれば、こんな戦いはなかっただろう。


 そう思うと、少し悲しい気持ちになった。


「終わりです」


 バルナが走る。先ほどと同様、真正面からの突撃。余計な小細工は不要で、この力で押し潰す――そういう意図が明確にわかった。

 だから俺は、それに対抗するべく剣に力を注ぐ。そうして激突する刃。これまでとは比べものにならない金属音が広間に響き渡り、腕の衝撃もまた別格だった。


 鍔迫り合いとなる俺とバルナ。眼前で俺を見据える彼はどこか狂気を宿し、俺を食らい尽くそうとするかのようだった。

 だが俺はそれを無感情で見返し、魔力を高める。バルナの能力に呼応し、さらに魔力を高めていく。


 それをバルナはどう感じたか……動かない剣に対して、彼はまず訝しげな視線を向けた。そして互角……いや、俺の力の方が上回っているのではないかという考えに至ったか、徐々に表情が凍り付き始めた。


「そんな、馬鹿な――」

「勇者バルナ、もっと理解すべきだったな」


 俺はそう彼に告げる。


「俺に対する情報をもっと詳しく調べていれば、この結末は予想できたかもしれないのに」

「あなたの情報……わかっていますよ。高位の魔族、魔王軍の幹部を打ち破った実績。しかしそれでも私が――」

「到達していないんだよ、お前は。それが現実だ」


 冷酷な事実に、バルナの表情が歪む。だがそれでも戦意は失っていない。

 俺は好機だと悟り、さらに力を高める。まずはバルナの全力を押し返す……そこから一気にこの戦いを終わりまでもっていく。


 そう決断した瞬間、俺はバルナの剣を振り払う。それはまさしく、彼の剣を俺が上回った瞬間だった。


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