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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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反逆の勇者

 終わりにする――それを聞いた瞬間、俺はカレンへ視線を送る。


「カレン、魔法が起動する――」


 その時、表情が強ばるカレンを見た。それと同時、俺は察する。

 どうやらバルナは、カレンにとって想定外のことをしでかしている。


 先ほどのセリフと合わせ……俺はもう一つの可能性を考えた。

 彼は今まで勇者の力を取り込んできた。けれどもしかすると、今回は違うのではないか。


 つまり――今回の作戦は、魔族化した俺を始末するために起こした行動なのではないか。カレンには魔法で治すと告げ、協力を頼んだのではないか。

 そう考えた直後、無意識の内に腰の剣に手を掛けていた。タイミング的に攻撃するのは間に合わない。けれど防御くらいは――そう思った矢先、バルナの魔法が、広間を満たす。


 それは、光……それが全身を駆け抜けようとした。しかし咄嗟に結界を体表面に構築したため、どうにか防ぐことができた。

 確実にその光には殺意があった。そう思うと同時に光が消え、バルナの姿が見える。


「……今の攻撃を、防ぐとは」


 感嘆の声だった。それと同時に俺は剣を抜き、


「どういうつもりだ――」


 その言葉の直後、一つ気付く。


 俺の横でカレンが、倒れている。

「……カレン!」

「気絶しているだけですよ」


 淡々と語るバルナ。表情からは感情がなくなり、俺に対し剣を向ける。


「先ほどの攻撃で、あなたも倒れてくれればありがたかったのですが」

「……とうとう本性を現わした、ってことか?」


 問い掛けるとバルナはにこやかに応じる。


「違いますよ。私は最初から正常です」

「……何のつもりだ? こんなことが露見すれば、お前は破滅だぞ」

「バレるようなことにはなりませんよ。今からお二方とも、ここで果てるのですから」


 ……俺ばかりではなく、協力していたカレンさえも巻き込むというのか。


 なおかつバルナの表情には自信が窺える。先日の魔物討伐において俺の技量をある程度理解しているはずだが……それを考慮しても勝てる自信があるということか?


「一体、何が目的だ?」


 俺は問う。それにバルナは笑みを浮かべ、


「あなたが持っている魔族化の記憶……それを頂きます」

「魔族化の、記憶だと?」

「情報が少しでも欲しい。魔王に対する情報を。魔王の城へ辿り着き、魔族化した事実……それを考慮すれば、あなたが魔王と邂逅したのは明白。私は知りたいんです。魔王を」


 ――バルナが勇者の力を奪うというのは、力だけではなく記憶も含まれる、ということなのか?


「そして、あなたの魔族化に関する力を排除し、私のものにする。無論、そこに倒れているカレンさんも」

「そうやってお前は、強くなってきたということか」

「ええ、そうです」


 隠し立てするつもりもないのか――いや、これは冥土の土産に教えてやろうという意地悪い配慮なのか。

 本来なら人を呼びに行った戦士団がここへ来てもおかしくない。しかしまったくそうなっていない。何か仕掛けがあってここに来れないといったところか。


 なおかつ俺はカレンがいる以上は逃げることもできない……怪我はしているようだがそれほど重症ではなさそうだが、治療は必要なはず。

 そして……自信に裏打ちされたものか、今のバルナには確かに隙がない。踏み込もうとしても相手は即座に応じるべく構えを示す。その所作を見て真正面からぶつかっても一撃では倒せない――下手すればこちらが傷を負うなんて可能性も見え隠れする。


 力を取り込み続けた故の自信ということか……俺の名声や実力を目の当たりにしたことから一騎打ちをやるにしても何かしら策があると思っていた。しかし実際は正面突破。


「……魔王の情報を得て、何をするんだ?」


 俺は疑問を投げかける。これはさすがに答えてくれないか、と思ったのだが、


「より正確に言えば、魔王に関する情報というより、以前話に出た大いなる真実に関する情報が欲しい」

「……何?」


 俺は眉をひそめ――演技だが――問い掛ける。


「お前は大いなる真実がなんなのか、知っているのか?」

「はい、知っています」


 明瞭な回答だった……ただ俺は彼が持っている大いなる情報に関する事柄は、本来の事実とは異なるものであると直感する。やはり勇者ラダンによって歪められた情報。でなければ勇者を犠牲にしてまで力を得るなんて馬鹿なことをやるはずがない。


 それについても、確かめなければならない……そう思いながら俺は足を前に出す。いつまでも膠着状態ではまずい。一気に仕掛ける!

 こちらの攻勢に対し、バルナは一歩引き下がる。剣をかざし受ける構えを見せながら、彼は左手をかざす。


「確かにあなたは強いでしょう」


 そう述べたバルナ。刹那、左手から光が溢れる。


「しかし対勇者との戦いについては、私の方が上手だ!」


 魔法が放たれる。俺は避けられないと判断した直後、剣で一閃した。

 光弾とでも言うべき光は俺の斬撃によってかき消される。だがそこで彼の姿が消えていた。


「目くらましか」


 呟きながら俺はカレンに近寄る。ひとまず息はあるし気絶しているだけなのは間違いない。


 次に室内を確認。魔法陣は起動しているが、そこから魔力が漏れているという雰囲気ではない。もし魔法陣を介して攻撃するにしても、いくらか準備が必要だろう。もっともバルナの切り札がこれである可能性は高く、注意を向ける必要はある。

 そしてバルナについてだが……隠れることのできる場所はどこにもないため、純粋に透明になったのだろう。


 気配はなく、結構高等な魔法であるのは間違いない。さて、俺はどう動くべきか。

 時間を稼ぎシアナやディクスの援護を待つというのもアリと言えばありだ。ただバルナが用意した障害がどの程度なのかわからないため、ただ待つだけというのもリスクがある。


 ならば、俺の手で決着をつけるにしても……問題は駆けつけた俺がバルナを叩き伏せた状況を見て戦士団がどう思うのか。下手するとこちらが悪者になる可能性も――


 そんな考慮をし始めた時、


『――セディ様』


 頭の中に、シアナの声が聞こえた。


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