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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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佳境

 日が暮れようとしている中で、バルナは室内を調べていく。とはいえ昼間十二分に調べたため、バルナとしても再確認といった意味合いが強く、一部屋の滞在時間は短い。


「隠し部屋などがあれば、そこにあると思うんですけどね……」


 呟きながら部屋を調べるバルナ。彼としてはここからどう持って行くのか。

 俺は部屋を探索する風を装いながらカレンやバルナへ逐一視線を送る。両者共にこちらの視線に気付いている様子はなく、何やらずいぶんと集中しているようにも見える。


 どうやら「その時」が近づいている雰囲気だな……少しして俺達はまた別の部屋へ。そこは何の飾り気のない客室のような場所。壁際に棚が見受けられるが何も入っていない。

 昼間探索した時にその棚も動かしてみたのだが、結局何もなかった……ただここでバルナはその棚を見回す。


「……うーん……」

「そこは確か移動させたはずだよな?」


 俺が問うとバルナは頷き、


「はい、何か隠されているわけでもなかったんですよね……」


 呟きながら彼は靴音を鳴らす。その所作は目指していた物が手に入らず、焦燥感にさいなまれているような雰囲気を見て取れた……無論、演技だろうけど。

 ただその所作は、俺が全てを知っていなければ間違いなく騙されていたもの……と、ここでバルナに変化が。彼自身にではなく、床を叩いた靴音だ。


 コツコツという音に加えて空洞があるかのように反響音がわずかに残った。それに気付いたのはバルナとカレン、そして俺。他の面々はわからなかったようだが、


「今のは……」

「床、ですね」


 バルナは応じ、靴音が変化した所を足でコツコツと叩く。そこに至り戦士団の面々も気付いたようで、


「俺が壊そう」


 大剣を握る勇者が告げると、全員が怪しいポイントから離れる。そして彼が勢いよく振り下ろした斬撃は見事床を破砕し、その下に小さな穴を発見した。


「古城が壊れたためではなく、どうやら意図的に作ったもののようですね」


 バルナは呟きながら床を覗く。俺も目を移すと、深さは頭一つ分といったところだろうか。人が入れるような大きさでもないのだが……そこに、突起物があった。


「触ってみます。周囲に警戒を」


 バルナが告げると戦士達がにわかに緊張する。俺もどうなるのか注視するべく神経を集中させ、彼が穴に手を差し込んだ。

 その直後、ガコンという何か音がした。その方向は、戸棚がある場所。


「あれを動かしましょう」


 バルナの提案に戦士達が応じる。数人が持ち上げて戸棚を動かすと、奥から現れたのは仕掛けによりわずかに隠し通路への道が開いた壁。


「大当たり、だな」


 俺が呟くとバルナもまた頷く。彼が手で壁を押すと、ギギギ、と音を立てゆっくりと空間が現れる。

 明かりを生みだし中を確認。少しだけ廊下が続き、そこからは下り階段となっている。


「……魔族の気配はありませんね」


 バルナが言う。確かに奥からそれらしい存在がいるようには感じられない。

 まあ距離があるとか、何かしら魔法でも行使している、とかなら別だが……と、ここでバルナは戦士団の面々へ告げる。


「皆は入口へ戻り、他の方々に連絡を」

「バルナさんは?」

「私はこのまま進む。ひとまず敵がいそうにないし、大丈夫さ」

「同行します」


 カレンが隠し通路に目をやりながら言う。妹が言う以上、俺も同行しないといけないな。


「なら俺も付き合うさ」

「すみません、お二方……では、動きましょう」


 戦士団の面々は足早に部屋を去る。ものの数分で味方がここに駆けつけるだろう。その前に決着をつけるというのは難しいはずだが――

 そう考える間に俺達は階段を進む。コツコツと石の階段が嫌に響き、緊張感が高まっていく。


 やがて辿り着いた先……扉もないその部屋は、石造りの空間。先ほどの一室よりは大きく、剣で戦うくらいのことはできそうな広さ。

 そして床には魔法陣らしきものと、壁際には書物。加えて魔法の道具などが散見された。


「……どうやらここは、魔族の実験室だったようだな」


 俺の言葉にバルナは「かもしれません」と応じながら魔法陣に近づいていく。


「起動はしていない……魔力も感じませんし、ひとまず大丈夫でしょう」


 魔法陣の色は赤……何も知らなければ魔族の血でも使われているのかと考えるところ。実際は周辺にある本などを含め、バルナの演出といったところだろうか? もしそうならずいぶんと手が込んでいるな。


「セディさん、この魔法陣がどのようなものか、わかりますか?」


 バルナの問い掛けに俺は肩をすくめ、


「いや、わからないな。カレンは?」


 首を左右に振る。そこで俺はバルナに一歩近づく。

 その時、カレンが少しばかり息を飲んだことを俺は見逃さない。どうやらここで作戦が決行されるのか。


 カレンはなぜ協力しているのか……その辺りは疑問だが、ここについては全てが終わった後に聞けば済むことだ。

 また背後から仲間達がやって来てもおかしくないが、まだ来る気配はない。俺達がここに到達した時点で何か仕掛けでも作動したか。あるいは魔法か何かを使ったか。ともかく、時間稼ぎについては既に実行しているわけだ。


 ……さて、いよいよ話が進む状況になった。ここから物語は佳境を迎える。一体どんな結末が待っているのか。バルナは、カレンは……そして俺や仲間はどうなるのか。

 次に何が起こるのか……そしてシアナ達の援護は大丈夫か。色々と疑問は浮かんだが、俺はそれでも足を前に出し、バルナが立っている場所にまで到達した。


「何かわかるのか?」

「少し……ですが」


 バルナが振り向く。それと同時に彼は、

 腕を、俺にかざした。


「これで――終わりにしましょう」


 告げた直後、魔法陣が起動。刹那、部屋が光に包まれた。


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