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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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何もない城

 室内は所々破損した箇所はあるが、中は予想していたよりも綺麗だった。ガレキなどが足下に落ちていないことに加え、絨毯なども城が建てられた当時の物とは思えない。

 ふと、思ったのだが……これらはバルナが準備したのだろうか? そんな疑問を掠め、またその通りだったなら結構色々と努力しているんだろうなと考えたりもしてしまう。


「気配は、ないな」


 警戒しながらフィンは呟く。現在俺達は全員が固まって行動しているのだが……エントランスに気配はない。まあ元々無人の城なので当然と言えば当然だ。

 俺はその間にバルナを注視。もし動き出すとなればどこのタイミングなのか……と、ここで彼が口を開いた。


「もし現在無人であるとしたら、魔族はどこかに行っている可能性はありますね。魔王に研究の報告でもしに行ったのか、あるいは人間側の情報を探るべく行動しているか」


 騎士達の表情がにわかに厳しくなる。後者だとすれば、領土内で魔族が動き回っていることになるからな。


「明らかにここに存在している痕跡がある以上、気は抜かないでください」


 バルナは警告を発した後、俺達へ体を向けながら告げた。


「ひとまず城の入口は問題がない……とはいえ罠の可能性もあります。退路確保の意味合いから、ここにある程度人員を残したいと思いますが」


 全員は沈黙。とはいえ異論はない。


「では、戦士団と騎士団から人選しましょう」


 そこから騎士団と戦士団の約三分の一ずつが残ることに。後方支援役という意味合いとしてレナがここに残るらしい。まあどこにいても安全だし、変にバルナの策に巻き込まれずに済むだろうから、問題なしだな。


「それでは、進みましょう」


 バルナが指示する。俺達は一様に頷き、改めて移動を開始した。

 静寂が仲間の緊張を際立たせ、周囲を警戒しながら少しずつ城内を歩む。俺も周囲を警戒しているフリをしながら、時折先頭を進むバルナの後ろ姿を見据える。


 この状況で仕掛けるようなことはしないだろう。孤立させて……ということになるが、現時点で単独になるような状況は思い浮かばないな。一通り探索して、敵がいないことを確定した後、改めて動き出すってことだろうか?


 疑問はあったがひとまずバルナが動き出すのを待つことにする……考える間も城内を歩む。窓なんかは古い建物の割にガラスも無事で、太陽光が室内へガラス越しに注いでくる。俺は足音を殺しながら何か異常がないか周囲を見回す。とはいえバルナが仕掛けた魔力の類いもない。


 この状況下で仕掛けるとしたら、誰を対象とするのだろうか……狙いは俺かクロエ、ディクスになるはずだが、バルナとしては誰を選ぶか目星をつけているのだろうか?

 カレンからバルナは俺が魔族化したという事実を聞いているわけだし、そうした力を得ようとはさすがに思わないだろう……いや、魔族の力だから欲するという解釈も可能か。ここはギリギリまでわからないな。


 やがて俺達は城の最奥に存在するであろう玉座の間へ辿り着いた。けれど魔族どころか生き物の気配さえない。


「……不気味過ぎるわね」


 と、ミリーが発言。


「これはバルナさんが語った通り、留守にしているのかしら」

「かもしれませんね……ともあれそうであったとしても警備のために魔物などを配置しておいてもよさそうなものですが……」

「つい先日までいたが、ここを去った、という可能性は?」


 騎士からの問い。バルナは難しい顔をして、


「その可能性もありますが……本当にそうなのかは城内を調べ上げて確認しなければ結論は出せませんね」

「そうだな……こちらの動向を知られていた、という可能性もあるな」

「私達の動きを察知し、事前に逃げた、ということですね……ふむ」


 バルナは玉座を見上げる。設置されているそれは重厚というよりは簡素という言葉が似合うシンプルなもの。


「……ともあれ、もう少し調べましょう。可能性は限りなく低いですが、こちらが攻撃をしてきたためどこかに隠れている、という可能性もあります」


 そこでバルナは騎士達を見据え、


「私の求める物が、ここにはある……それを調べ終えるまでこちらとしては離れるわけにはいきません。魔族がいないと確信するまで、調べてもいいでしょうか?」

「ああ、構わない。こちらとしても魔族の動向を押さえておくことは必要だからな」


 ――そうして、俺達は玉座の間を後にして城内を調べ始めた。足音を殺すのは相変わらずだったが、あまりの気配のなさにさすがに警戒心も少しずつではあるが緩んでいく。ただそれを逐一バルナが警告を発し、緊張状態を維持する……。


 これには二つの意味合いがあるはず。一つは率先して注意しろと警告することで、主導権を握るという点。そしてもう一つは集中力の維持は当然疲労を伴う。あえてここで体力を削り、策を成功しやすくさせる……目的としては、こんなところだろう。


 俺も何も知らなければ神経をすり減らしていたに違いない。気付けばバルナの指示に騎士達も素直に従っており、主導権は確実に握った。そして疲労についても……ミリーやフィンを見れば一目瞭然。さすがに何もない状況で調べ回るというのは集中力も続かないし、徒労感も生まれる。バルナの作戦は成功というわけだ。


 俺はクロエやディクスと視線を重ねる。両者もバルナの意図を察し体力の維持はしている様子。まあディクスなんかは魔族なわけだしそんな必要もなさそうだが。

 そうして一部屋一部屋調べていくが、やはり成果はない。玉座の間を後にして一通り部屋の中を調べたが、異常はない。隠し通路などについても調べてみたが、結局発見できない。結果、疲労感だけが残る。


「ふむ、こちらが気付かない隠し通路に潜んでいるか、あるいはそこから逃げたか……」


 騎士が色々と推測を行う。バルナはそうした中で油断を見せず周囲を観察し、


「……ひとまず、入口へ戻りましょう」


 そう提案。騎士や俺は頷き、いったん入口まで引き返すこととなった。


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