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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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隠し事

 ――そうして穏やかな日々が過ぎ去り、とうとう討伐へ向かう日となった。国の騎士まで動く話となっているが、さすがに大々的に動いたら町にいる人々がざわめくため、騎士達は徐々に討伐目標がいる城へ向かうことにして、俺達が先行する形に。


「では、行きましょう」


 バルナが告げ、勇者一行は移動を開始する……さて、バルナはどういった策略を用いてくるのか。

 ただこの辺りはさして心配はしていなかったりする……理由としてはバルナの動きに合わせてエーレ達も動いているためだ。


 まだ報告は来ていないが、おそらくエーレ達がバルナが何をやったのかを解明するはず……とはいえ彼の仕込みを調査していることがバレたらまずいことになるため、慎重に行動しているはずだ。

 おそらく道中で情報は来るだろう……そこまではおとなしくバルナに従い動くとしよう。


 そんな考えを抱きながら俺達は町を出る。ちなみにバルナに帯同する勇者達は総勢十名。戦士団にはまだ団員もいるのだが、あまりに多いと逆に統制が執れないということでこうした数になった。

 俺やクロエを始めとした仲間を加えれば二十名近い規模になる……隊を成すには少ないかもしれないが、勇者という称号を持つ面々が集っているとすれば、相当大規模だと解釈することができる。


「魔族の拠点までは宿場町をいくつか通ることになる。今日は予定している町まで行動し、そこで休むことにする」


 バルナの指示に勇者達は頷き、俺達もまた承諾した。






 ――で、現在ジクレイト王国に魔族の脅威は迫っていないので、当然ながら旅程はトラブルもなく順調に進む。よって初日はバルナが考えていた町まで到達し、一泊することに。

 大所帯なので宿は俺とバルナ達とで別になり……眠る直前になって、シアナから呼び掛けられた。


「こちらを」


 そう言って差し出したのは資料。


「セディ様のお仲間に見られるのはまずいので、ここで読んで返してもらってもいいですか?」

「ああ、いいよ」


 そういうわけで目を通す。エーレが調べた魔族拠点の罠についてだ。

 簡潔に言えば、相手の動きを拘束するような魔法らしい。魔法で雁字搦めにするような効果で、力が高ければ突破することもできる。だがそれと共にさらなる魔法。体の魔力に干渉し、動きを鈍くするものも付与する。


 二段構え……というより、おそらく動きを鈍らせる魔法が本命だろうな。単なる拘束魔法なら強引に突破されてしまう可能性はある。勇者ともなればそうした攻撃に対する備えをしていなければ魔族に対抗できないわけだし。ただ相手が拘束しに掛かっていると判断すれば、必然的にそちらに意識が集中する。そこでもう一つの魔法――動きを鈍らせる魔法を用いて、策を実行する。

 動きを遅くさせてから、バルナは実際にその力を取り込むべく行動に移す、ということだろう。


 そしてエーレが記した書類には続きがあった。内容としてはバルナを捕らえるには――国の騎士に引き渡すには決定的な証拠が必要だと。

 すなわち、俺かクロエかディクスか……わざと罠にはまってバルナに敵意があったことを証明するしかない。


「問題は、誰を……だな」

「私はお兄様かクロエ様だと思っています」

「根拠は?」

「……カレンさんから、セディ様は一度魔族化したという情報をもらったんですよね? 仮に力を取り込むとなれば、そうした経験がある人は避けるのではないでしょうか?」


 うん、一理あるな……。


「ディクスはいいとして、クロエには連絡したか?」

「はい。クロエ様も自分が狙われる危険性が高いと判断して心得ておくと」

「そうか……わかった。俺もバルナの動きを注視するよ。ただ、もし狙われているとわかったら――」

「こちらは別に色々と準備をしています。魔法の構造はわかったので対処方もあります。よって、バルナの動きに合わせてください」

「わざと罠に掛かれって話だな……了解した」


 これで話は終了。俺は資料をシアナへ返却して、何か飲もうと宿屋に併設する酒場へと赴く。

 夜の時間帯、人も結構いるのだが……俺は仲間の姿を発見して近づく。


「レジウスさん」

「ん? おお、セディか」


 笑いながら応じるレジウス。飲んだくれの師匠は健在で、今日もずいぶんと飲んでいる。


「そんなに飲んで大丈夫なのか?」

「今日で魔族討伐終了まで飲み納めさ。明日からは断酒する」


 その言葉は、師匠なりの気合いの入れ方だった。


「しかしセディ、お前はずいぶんと大陸各地を飛び回るな」


 ふいにレジウスが話を向けてくる……そういえば俺に関しての話題って、王都に滞在中ほとんどなかったな。


「ああ、うん……みんなには心配かけてるな」

「お前のそういう行動力についてはカレンもミリーもフィンもわかっているからとやかく言わないさ。ただ、な」


 含みを持たせた言葉。俺は眉をひそめ聞き返す。


「どうしたんだ?」

「……セディは答えてくれないと思うが、一応尋ねておくぞ」


 そう前置きをする。言葉を待っていると、


「お前、何か隠していないか?」


 鋭い――なんて思うこともできたが、これはカマをかけているのかそれとも、


「別にセディを疑おうって話じゃないさ。ただ、魔族化を解いた後からずいぶんと……いや、一度カレン達と別れてから、なんだか少し変わったような気がしてだな」


 まあ、さすがに怪しまれるか……今まで理由づけて行動していたわけだけど、さすがにそれも限界に来ているのか。

 けれど、当然ながら詳細を語ることはできない……エーレに弟子入りを表明して、最初は仲間達と再会するつもりはなかった。けれど仕事の中で再会してしまい、色々と理由をつけてはいるけど、俺の行動がおかしいと感じてしまう……これは当然か。


「いや、俺は俺だよ」


 そうこちらは返答する。そう、俺自身は変わっていない。エーレに弟子入りした時から、まったく。


「……そうか」


 レジウスの返答はそれだけ。とはいえその姿は事情を語って欲しいと思っているように見えた。


 ――この戦いの後、カレン達のこともきちんと考えるべきだろうな。ただエーレと相談して解決できるのか……大いなる真実を語るわけにもいかないだろうし。

 いや、あるいは女神アミリースなどと手を組んで……そんな考えを巡らせながら、夜は更けていった。


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