一つの推測
その後、討伐へ赴く日程などが決まり、ジクレイト王国側の助力についてもしっかりと確保した。これで準備は万全……ただまあ、本当に魔族がいたらの話だが。
実際にはいないし、なおかつ準備の間もバルナが魔族ツオルグがいるという拠点に赴いているので、相手側も着々と準備が進んでいる。
そうした中で、俺は再度バルナと話し合いをすることに。目的は魔族の拠点に踏み込んだ際の対応などについて。騎士や勇者など、どういう動きをしてどちらが指示するのかなど、詳細に話し合った。
「……ひとまず、こんなところですか」
朝から打ち合わせを始めて終わったのが昼を越えたくらい。昼食をとりながらやったこともあって少々時間を食ってしまった。
「魔族の拠点に到達した際は、本日話した通りにお願いします」
「ああ。城側には俺の方から伝えておくから、それで頼む」
指示系統については、俺とその仲間、バルナとその同士である勇者、そしてジクレイト王国騎士団がそれぞれ連携を取りながら行動するという形に。ただし緊急時……例えば罠にはまるなど危険な状況に陥ったり、あるいはそれぞれ率いているリーダーに何かあった場合などは、別の隊と合流して戦うという形に。
そしてもし三つの隊が連合して戦う必要が生じた場合、俺かバルナの指示によって動くという形に。どちらかと限定しなかったのは、状況によって変わるからといったところか。
あえてバルナは「もしもの場合自分が率いる」とは断言しなかった……俺に遠慮したということもあるし、たぶん顔を立てる意味もあるんだろう。
こうした決め事をしておくのは、もしもの場合――これはバルナが俺かクロエかディクスか……勇者をはめて力を奪い殺めた際、十中八九混乱が生じるので速やかに統制できるよう態勢を作っておくということだろう。例えば俺がどうにかなった場合、カレンを始め仲間は混乱するが、予め態勢を整えておけば「こういう取り決めがあったので自分の指示に従ってくれ」と言って仲間を自由に動かすことができる。
遠慮しているような雰囲気を持たせていながら、実際は着々と準備を進めているというわけだ。
「……期日までにしっかりと支度しておきます。セディさんも準備は入念に」
「ああ」
さて、これで用件は終わり……なのだが、バルナは話を止めなかった。
「セディさん、一つお伺いしたいことが」
「何だ?」
「以前、口にしていたこと……大いなる真実についてです」
――今度はバルナの方から話を向けてきたか。
「その言葉を聞くのは二度目だったんですが……セディさんはどうお考えですか?」
「大いなる真実が何なのか、ってことか?」
質問にバルナはコクリと頷く。
ふむ、これはどう答えるべきなのか……ん、待てよ。これは一つ確認する口実になるな。
「……その言葉を知っているだけでも、何かまずいと考えているのか?」
「仰々しい名前ですから、魔族側は広まってほしくないと思うのですよね」
「そうかもしれないな……一つ、確認してもいいか?」
「どうぞ」
応じたバルナに対し、俺は言葉を選びながら問い掛ける。
「どうやら俺に対しバルナは危惧しているみたいだが……もしかして、カレンなどから俺のことを聞いていたりするのか?」
問いにバルナは身じろぎした。どうやら魔族化していたことを知っているみたいだな。
「……すみません、詮索するつもりはなかったのですが」
「内容が内容だけに、訊いていいのかわからなかったと……カレンが話したのか?」
「はい。話の流れで」
……俺が魔族化したことなんて話の流れで出るものだろうか。ただこれはカレンから訊いた方がいいか。
「その、決してこちらが追及したというわけではありませんから」
「わかってるさ。まあ俺としてもあんまり思い出したくない内容ではあるが、事実だからな。尋ねられれば答えるよ。ただ、ほとんどあの時のことは記憶ないけど」
そこで俺は一度息をつき、
「バルナはこう考えているんだな? 大いなる真実という言葉を知っているために、魔王が干渉したと」
「はい。魔王に挑んだ……それに加え大いなる真実という言葉を知っていたことから……そんな風に想像しました」
「魔王に挑んだことについても記憶から抜け落ちているから、どういうやりとりがあったのかわからないんだよな……もどかしいが。ただもしかすると、俺はその大いなる真実とやら辿り着いていた……?」
首を傾げてみる。バルナは「どうでしょうね」と応じ、肩をすくめてみせた。
大いなる真実を知っているバルナからすれば、俺の言葉は大ハズレもいいところなのだが、彼は真剣に聞いている。
「まあ、その辺りはわからないからこれ以上答えようがないな……で、今俺が持っている知識から推測すると、例えばどっかの王様と裏でつながっているとか……そういう類いのものではなく、もっと魔族や魔王という存在そのものに関わっているような気がする。単なる王様とのやりとりを仰々しく語る必要はないだろうし」
「でしょうね」
そう言いながら深刻な表情を示すバルナ……これは演技か?
ただ、接し方や反応は今までと変わらないし……俺へ向ける視線は複雑なものを宿している。大いなる真実という言葉に対し危惧しているのもそうだが、俺のことも憂慮しているような――
その時、俺はもう一つの可能性に行き着いた。
「……バルナ」
「はい」
「推測しかできないけど、魔王との戦いを進めていけばたぶん、見えてくるかもしれないな」
俺の言葉にバルナは頷き、
「そう、かもしれませんね」
やはり憂慮している雰囲気……もしかすると、だが。
――勇者イダットの時は、彼自身大いなる真実のことを知っていた。それがどういったものであるかも把握していた。だがバルナは……もしかすると勇者ラダンからまったく違うことを教えられたのか?
そしてその内容は目の前のバルナのように、何か憂慮するようなものであり……バルナがどんな手段を用いても力をつけなければ、と決意させるような内容だとしたら?
この説なら確かに彼の行動についても一応納得できる……問題は彼が大いなる真実について、どういう内容をラダンからもたらされたか。
できれば確認したいところだが……結局、俺はこれ以上聞き出すことはできず、話し合いはお開きとなった。




