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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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勇者達の決断

『勇者バルナの検証と同時に、彼のことについて多少なりとも調べたが……正直なところ、彼が陰謀を抱くような話は出てこなかった』


 エーレの言葉に対し、俺は少し思考しながら答える。


「だが勇者ラダンから神魔の力を受け取っている……よな?」

『そうだ。ここで私は一つ推測するのだが……勇者から力を奪い取るという行為をしてはいるが、その行為だけを見て彼を悪しき考えを持つ者だと断定することはできないのではないか』

「……どういうことだ?」


 俺が聞き返すと――返答したのはクロエだった。


「セディ、魔物討伐の前にバルナと話をしたでしょう?」

「ああ」

「あの時彼は亡くなった者達に哀悼の意を示した……それは演技にも思えたけれど、実際のところ嘘ではなく本心だったと、エーレは推測しているのよ」

「本心……? それはつまり――」

『大業を成すための犠牲、といったところか』


 エーレが述べる。大業……ということは――


「勇者ラダンから大いなる真実などについては知っているはずだし、そうしたことを受けて強くならなければ……そんな風に思っている、とか?」

『そういう可能性は十分ある。動機付けに大いなる真実が関わっていることは紛れもない事実だろうが、勇者から力を奪うというやり方をしている以上、彼には相応の覚悟があるということだろう』


 ……裏表のない性格で事を起こしているとするならば、今回の相手は想定以上に厄介かもしれない。力を得るため神魔の力を利用しているのならば対処はそう難しくない。けれど覚悟を決めているのなら、どんなことをしてくるかわからないし、また俺達と戦うことになっても構わないと考えているだろう。


『……彼の真意がどこにあるのかはあくまで私の推測でしかない』


 エーレはなおも話を続ける。


『だが、少なくとも幾人もの勇者を犠牲にしているのは事実だ。それがどういう意味を持とうとも、そうした行為に手を染めてしまった以上は、何らかの処置をとるべきだとは考えている』

「けど、どういう考えで行動しているのか……それは知りたいってことか」

『そうだ。セディ、クロエ、二人にその辺りのことを頼みたい』

「方法としては……」

『大いなる真実、という単語を出して探ってみる他ないだろうな』


 多少なりとも危険な賭けではあるな……。


「エーレ、もし彼が俺達に協力を持ちかけてきたらどうするんだ? 例えば力を奪う方向ではなく、大いなる真実を俺達に伝えて共に戦おうと言い出してきたら」

『その場合は仲を深めることができるはず。どこか別所におびき出して対処する……というやり方か』

「あくまで捕まえる前提なんだな?」

『確固たる理由があるにしても、犠牲者が出ている。見過ごすわけにはいかない』


 エーレは語る……そもそも俺達に大いなる真実について話をしたとしても、力を奪っている事実については語ることはないだろう。後ろ暗いことをしているのは事実だし、どうしたってそういう方向に話を持って行くしかないか。


「わかったわ。ひとまず探りを入れてみる」


 クロワが同意。俺もまた頷くとエーレは俺達を一瞥し、


『どうやらこの戦いは単純に悪に染まった勇者、というものではないようだ……おそらく勇者としての意義などが絡んでくる……非常に難しい問題だ。二人もそれは心得ておいてくれ』


 ――そうして話し合いは終了。エーレの姿が消えると、話し始めたのはシアナ。


「どのような理由があれど、勇者バルナは人を殺めている。そこについては私達が裁く権利はありませんが、見過ごすことができないのは事実」

「それは俺も同意する」


 同意しながら……俺はなんとなく思う。勇者バルナは大いなる真実を聞いた結果、同業者の力を奪うような行動に出た。それは決して許されるものではないと思うし、方法としては愚の骨頂と言えるものではあるが――


「下手すれば、私達も同じような選択をとっていたかもしれない、わね」


 クロエが言う……俺は彼女の意見に同意する。


「俺とクロエは魔王と会うことで考え、受け入れることになった……けれど勇者バルナは違う。大いなる真実の枠組みの中にいる存在と遭遇することはなく、必死に考えた結果がこれなんだろう……方法はどうあれ、俺も同じ立場なら何かしらの方法で力を得ようと考えたかもしれないな」

「力を手に入れる、ということは……大いなる真実を受け入れ、それを制御しようと考えているのかしら?」

「あるいは勇者ラダンに同調し『原初の力』を得るためにやっているのか……どちらにせよ彼がとった選択はきっと魔王や神々に対抗できる力を得ることなのかもしれない」

「なるほど、ね……管理された世界をどうするのかはともかくとして、まず魔王や神と応じることができる力を得なければ話にならない、と」

「ラダンは『原初の力』でそれを成そうとした。バルナの場合はどうなんだろう……」

「そもそもラダンがなぜ彼と接触したのかも気になるのよね。確かに強いけれど、彼より強い勇者はたくさんいるでしょうし」


 彼女の意見に俺は少し考え、


「例えばラダンに近しい場所にいたとか、あるいは神魔の力と相性が良かったとか……いくらでもそれらしい可能性は考えられるぞ」

「それもそうか……話を戻すけれど、次はバルナの真意を探るため話をする、ということでいいのよね?」

「魔物討伐が終わって一度話し合いをする……って名目ならバルナも同意するだろう。その場で大いなる真実という単語を出して、どう反応するか……そしてそれについて語るのか、確認だな」

「もし嘘を言っていたりする場合は……」

「仮に今回の魔族討伐に絡めてくるのなら、真実云々を利用して俺達を誘い込んでいると考えることができる。つまり絶対に力を奪うべく策を立てている。もし正解を話すのなら……相手がどういう提案をするかで真意は何なのか推測するしかないな」

「真実を話して考えさせてくれ、という反応だってできるし、その辺りは問題なさそうね」


 クロエの指摘に俺は頷き、次にシアナが口を開いた。


「セディ様、クロエ様、一つだけ……勇者バルナが裏表なく勇者を犠牲にしてまで目的を達成しようとしている……そこについて異論はあるでしょうけれど、大いなる真実を知ったが故の行動ということで、何かしら共感してしまうことがあるかもしれません。ですが、お二方はお姉様と出会えたという幸運は存在しますが、現在こうして私達と共に活動していることは、間違いなくお二方の決断があったからです。そしてお二方の答えは決して間違っていない……私達魔族や神々はそう考えています。そこは、お忘れなきよう」

「ああ、ありがとうシアナ」

「ええ、わかったわ」


 俺とクロエは相次いで答える……さて、いよいよ次のフェイズだ。気合いを入れ直さなければ、と思った。


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