討伐する魔族について
時間にすると短い戦いだったが、こちらとしては得た物は大きい。勇者バルナの戦いぶりは、大きな情報になる……分析はエーレに任せ、よい情報が得られることを期待しよう。
「凄まじい力ですね」
戦いが終わり、勇者バルナが近づいてくる。その間にシアナやカレンが動き、負傷者がいないかを確かめる。
「お二方の実力、しかと拝見させてもらいました」
「バルナの方もだいぶ活躍していたみたいだな」
「いえいえ、とてもとても」
謙遜するバルナ。とはいえ二体しもべを撃破したことから踏まえても、その実力は他の勇者から認められるものであると確信できた。
さて、種は蒔いた。後はバルナが反応するかどうか……思案している間にカレンが近寄ってくる。
「怪我人はいませんね」
「そうか、よかった……念のため他に魔物がいないかを確認し、戻ることに――」
そこで俺は魔法の明かりの下でキラリと輝く物を発見。近寄ると、魔石の欠片だった。たぶん残すように細工していたのだろう。
「魔物を倒した証も入手だな」
「とりあえず報酬は手に入れることができそうね」
クロエが述べる。こちらは頷き、仲間達へ号令した。
「それじゃあ、戻るとしよう……討伐に協力してくれて、本当にありがとう」
その後、俺達はジクレイト王国の都へ戻り、滞在することに。レナなんかは「また何かあれば協力します」と告げ、もし魔族討伐があっても協力してくれる下地を作ることに成功した。
またエーレによると戦いの分析については数日掛かるらしいので、今は小休止といった感じ……とはいえバルナから魔族討伐を行う旨は仲間も周知しているので、話題などについてはもっぱらそれだ。
「ひとまず準備は済ませたわ。いつでも都は出れる」
そうミリーは告げる……宿の一室で、俺は「わかった」と返事をした。
ただこちらとしてはエーレの分析が終わるまでは待機しておきたいところ……と、宿でのんびりしていると勇者バルナが会いに来た。
「すみません、討伐直後に魔族に関する話をすることになりますが……」
「俺は構わないよ。クロエはどうだ?」
「こっちも平気」
というわけで俺とクロエは宿のラウンジで作戦会議をすることに。
「詳しく聞いてなかったけど、バルナが戦おうと思っている魔族というのは?」
「この都から北東部に位置する場所にいる……ということです。さすがに魔族に関することなので、情報は少ないのですが」
――バルナが勇者の力を取り込むことが目的だとすれば、相手となる魔族についてはどうでもいい。調べるといってもどの程度調べているのか不明だが……いや、もしかすると名前などがわかる魔族へ向けて討伐を行い、策を行っているという解釈の方が妥当だろうか。
「……情報が少ないのは仕方がない話だな。実際俺も詳細な情報を手に入れることができるのは稀だった」
「やはり苦労しますよね」
「よほど暴れていない限りは、調べるのも難しいからな……ただ臆していても仕方がない。そこに求める物があり、また魔族を討つという決意があるのなら、助力させてもらう」
「むしろこちらが助力するような形になりそうですが」
苦笑するバルナ。謙遜しているが、その実力については確固たるものであるのは間違いない。
ただ先日の戦いで神魔の力は使わなかった……いや、もしかして使っていたのか? その辺りはエーレが現在調べているか。
「現在わかっている情報は、周囲は森林地帯。魔族は居城を構えていますが、その場所だけ小高い山となっていて到達するのも非常に難しい」
魔族の居城としては割と定番である。
「それと、岩場に隠れ非常に目立たない形であると。さらに魔族もほとんど居城から出ていない……そして名はツオルグ。少ない情報から得た限りだと、武人のような出で立ちであるようです」
武人……ふと、俺は疑問が湧いた。実力的に優秀ならばもう少しくらい情報があってもいいような気がする。
というのも、エーレから魔族の存在意義について多少なりとも聞いた時、人間が危ない場所に立ち入らないようにする、という意味合いもあるらしい。
例えば大陸東部には大峡谷と呼ばれるような場所が存在する。そこは人の手もロクに入っていないような場所で、完全に魔物の巣となっている。過去そこは天使と魔族が戦争をした場所らしく、そうした時代の武具なんかが眠っている。よって人は噂を聞きつけ足を踏み入れようとする。
そこで魔族の出番。そこに居城を構えることで人間を牽制し、安易に渓谷へ立ち入らないようにする……こうして人間側の抑止となることで危ない場所へ立ち入らないよう処置する……大いなる真実を知る魔族にはそんな役目もある。
無論、真実を知らない魔族はこの限りではない……で、今回の場合どうなのか。情報が少ないということは抑止としての効果がない……つまりそこに魔物の巣などがあるというわけではなさそう。
調べないと情報がないレベルだと、そこにいる魔族はロクに活動していない……大いなる真実を知らない存在ではないだろう。知らない者ならば、何かしら裏で動いていたりして私利私欲のために、あるいは神々と戦うために色々策謀を巡らせているだろうから。
ただ武人と聞いて、そうした威圧感を持っていそうな存在がいて、何もしていないというのも変な話だ。これはエーレに確認を取らないと。
「そこに目的の物があるのよね?」
クロエの問い。バルナは即座に頷く。
「はい。魔法で場所を探知し……間違いなくツオルグの居城にあります」
断定。ならばと俺とクロエは頷き、
「なら、もう少し魔族について調べてみよう……ここにもう少し滞在することになるけど、大丈夫だよな?」
「平気ですよ。宿泊費には余裕がありますし、仕事もやっていますから」
ギルドに所属して色々動いているのなら、金銭面で問題はないか。
「よし、ならツオルグについて調査をする……数日くらい期限をとって、また集まるってことでいいか?」
俺の提案にクロエもバルナも了承……ひとまず時間は稼げたな。
あとはエーレと相談して、上手いことやる……問題はバルナが現地へ行ってどう行動するか。その辺りについてはツオルグという魔族とも相談しなければ、と思った。




