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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者始動編
27/428

戦いの終わりに

「終わったか」


 エーレに全ての報告を済ませると、淡々とした声が聞こえた。


 場所は魔王城の玉座。俺達はグランホークが消えた後すぐさまこちらに移動し、彼女に報告を行った。


「不本意な結果だが……仕方があるまい」


 彼女は腕を組み、相対する俺へと視線を送る。


「あの城の主はいずれ決めることになるだろう。ひとまずあなたの役目は終わりだ」

「そうか……」


 やや言葉を濁して応じると、エーレは唐突に笑い掛けた。


「責任を感じているように見受けられるが……そう気負う必要はないぞ?」

「……そんな風に見えるか?」

「ああ。まるでグランホークに罪でも着せ、後悔の念を抱いているようだ」


 後悔――正解だった。俺はエーレに口を開く。


「グランホークが裏切った動機は、復讐だった。最もそれ以上に力を手に入れることに固執していた節があるから、今回の結果は然るべきものだったかもしれない……けど、もし説得できたらと思うと……」

「そう自分を責めるな」


 エーレは俺に諭すように言葉を紡いだ。


「確かにグランホークのことは大変残念だ。しかし、魔族というのは元より、彼の様な存在ばかりだ。おそらくあなたは彼に何かしらシンパシーを感じたのかもしれないが、大きく違う点がある。そこが、あなたとグランホークを分かつものとなった」

「それは?」

「欲を、律することができるかどうかだ」


 エーレは言うと、俺の周囲にいるリーデス、シアナ。そしてファールンを一瞥する。


「魔族……人間もそうだが、力を誇示し支配しようという欲望を少なからず持っている。その点は両者に違いは無い。セディ、あなたも自分の欲……例えば名誉を手に入れるつもりならば、私を滅していただろう。だがあなたはそうした欲を捨て、使命として大いなる真実を受け入れ、管理する道を選んだ」

「グランホークは、違うと?」

「力に妄執した結果、取り返しのつかないことになった。あなたは自分を律し、大いなる真実を受容する理性を保てた。こんな風にできる存在は、魔族含め人間にも少ないだろう」


 エーレはそこまで語ると、俺に優しい視線を投げた。


「だからこそ、あなたとグランホークは違う。両者が出会った時、既にこのような結末は決まっていたのだ。あなたに説き伏せられて意見を変えるほど、彼の頭が柔らかいとも思えないからな」

辛辣(しんらつ)だな」

「ごくごく当たり前のことを言っているつもりだが」


 俺は苦笑した。言いたいことはわかる。結局の所、俺のような存在の方が例外だというわけだ。

 エーレに弟子入りを志願した直後、俺は勇者としての役目をはっきりと自覚した。もし勇者という額面だけを取れば、魔王を滅していてもおかしくなかった。けれど俺は……人々のため――いや、仲間のために決断をした。


 グランホークも、力ではなく無念を晴らすためであれば、変わっていたかもしれない。そうなっていれば、同じような犠牲を出さないよう、彼は動いたかもしれない。


「……けれど、それは俺の一方的な願いかもしれないな」


 思わず口に出た。エーレが戸惑いの眼差しを向ける。俺は「何でもない」と答え、話題を変えることにした。


「で、エーレ。今後俺はどうすればいい?」

「それなのだが……正直迷っている。このまま管理手法を学ばせるか、それとも今回の件に関わらせるべきか」

「クーデタを画策している魔族を、探すということか?」

「そこは私や、他の者に任せる。あなたにやってもらいたいのは、今回の件に関わる可能性のある事件を調べること」

「事件?」


 聞き返すと、エーレは小さく頷いた。


「セディ達がグランホークを調べ回っている間に、こちらも色々と情報を集めていたのだが……いくつかの幹部から、怪しい情報が回って来た」

「その調査に、俺が?」


 訊くと、エーレは渋々ながら首肯する。


「ああ。その内一つを調査して欲しい。ただ一つ注意してほしいのは、この案件が……」


 エーレは険しい顔つきで、俺に伝える。


「大いなる真実を知る魔族に関するものだということ」


 ――玉座に、重い空気が漂う。俺も何やらきな臭いものを感じ取り、彼女に問う。


「かなり、まずくないか?」

「ああ……だが、真実に関わる情報は一切漏れていない。何か計画があるのか、それとも他に理由があるのか……」

「なるほど。事情はわかったよ」


 俺は深く頷くと、エーレに告げた。


「俺にやらせてくれ」

「そうか……ありがとう」


 彼女は礼を告げると、今度はシアナへ目を移す。


「シアナ、そちらはどうする?」

「行きます」

「それはどういう意図で?」


 尋ねられると、シアナは顔をほんの少し赤らめた……が、


「セ、セディ様が心配だからです!」


 と負けじと反論した。おい、ちょっと待て。


「こ、今回の件を見て、ずいぶんと無茶をされるのはわかったので……見張っておかなければならないと思いました!」

「うむ、確かにそうだ」


 エーレはさも当然のように頷いた。この反応でどう思われているのかはっきりとわかる。


「だが、シアナ。それをシアナがする必要はないぞ?」

「そ、それは、そうですが……」


 二の句が継げられず、シアナは押し黙る。エーレは色々複雑な感情の入り混じる顔で、俺を見た。こちらも困惑した表情で見返す。


「……まあ、一理あるか。魔王の血筋がいるくらいでなければ、セディを止められないかもしれないな」


 やがて、エーレは言う。表情は、どこか確信を伴ったもの。


「いいだろう。シアナ、セディの同行を許可する。それとリーデス、ファールン。両者にも引き続き、シアナの護衛を頼もう」

「はい」


 リーデスが一礼し応じる。ファールンもまた礼を示し、今後の方針は決定した。


「セディ」


 そこで再度、エーレが俺に呼び掛ける。


「当初の予定とは大きく変わってしまった。しかし、この活動は間違いなく人間の為になるはず。それを胸に、任務を果たして欲しい」

「わかった」

「……すまない」


 エーレが謝る――対する俺は、彼女に言葉を掛けた。


「一つだけ、いいか?」

「ん? どうした?」

「謝るようなことはされていないさ。頼ってくれていい」



 そう言うと、俺は仲間達を見回した。同意するような表情のシアナと、頭を下げるリーデスとファールン。


「俺達は……同じ志を持った仲間だろ?」


 問うと、エーレはきょとんとした瞳を見せ――やがて、力強く頷いた。


「ああ、そうだな」


 そして最後にエーレは微笑む。


「セディ、今後も頼んだぞ」

「ああ」


 俺は明瞭に返事をした。


 きっとここから起こるのは難題だろう。しかしここにいる面々ならきっと大丈夫――そんな気持ちが、俺の胸に湧き上がっていた。

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