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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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岩場の戦い

 さて、エーレ達に作ってもらった魔物と予備知識無しで戦うことになったわけなのだが、魔物としてはどう動いてくるのか。いきなりしもべを生み出すなんて無茶はしないと思うが……。


「まず私が先陣を切るわ」


 そこでクロエが口を開く。


「セディの方が応用力があるから、何かあったらよろしく」

「わかった。気をつけろよ」


 俺の言葉にクロエは頷くと――駆けた。

 それは大剣を持っているとは思えないほどの鋭い動き。一瞬で魔物へ間合いを詰め、綺麗な弧を描いた斬撃が、放たれた。


 それに対し魔物は、両腕をクロスさせて防ぐ。途端、響く金属音。相当硬度があるな……。


「以前に比べても相当強くなっているな……!」


 なんとなくそう口にすると、クロエは同意するのか、


「ええ、そうね。だからこそ、ここで決着をつけなければまずいわ」

「援護します!」


 介入したのがカレン。彼女は腕をかざすと光弾を放ち、それは正確に魔物の頭部を射抜く。

 とはいえ、変化としては身じろぎした程度。ダメージは皆無か。


「かなり硬いですね……」

「クロエ、俺も加勢を――」

「私がこいつを抑えておくわ。セディは渾身の一撃を横から叩き込んで」


 その言葉に俺は「わかった」と応じ、魔力を高める。次の瞬間、周囲の騎士やバルナから感嘆の声が漏れた。


「……さすが、ですね」


 そういったバルナの声が聞こえた直後、魔物は吠えた。同時、クロエの剣を一度弾くと、数歩分だけ後退した。

 俺の攻撃を脅威と見て、回避すべく動くつもりか……けれどクロエは前に進む。同時に彼女が握る剣からの魔力が、一層強くなった。


 溜めに入った俺ほどではないが、それでも魔物に傷を負わせるには十分なのではないか……そう思った直後、再びクロエと魔物が激突する。

 魔物は一度受けはしたが、こちらに注意してさらに退こうとした――が、クロエの圧力により完全に動きを縫い止める。


 好機――そう判断した俺は魔力を維持したまま魔物の横手へ回る。ここで魔物が逡巡したのがわかった。俺とクロエを一瞥し、どう応じるか判断に迷った。


 そこを、クロエは見逃さなかった。


 彼女が剣をさらに押し込む。ここに至り魔物はクロエに応じるべく力を入れたようだが、一歩遅かった。

 クロエの剣戟が魔物の腕を、抜いた――直後、魔物の体に入った斬撃が魔力を散らし、うめき声を上げさせる。


 だがこれで終わりじゃない。俺がいる――!!


「はああっ!」


 気合いと共に一閃した俺の剣は、魔物の横腹へと吸い込まれ、入った――魔力が弾け、衝撃波が魔物を覆う。さらに魔物は呻き、確実に効いていると悟る。

 ……バルナなんかに怪しまれないようかなり力を入れているのだが、それでも魔物は倒れない。ここはエーレが上手く調整したようだ。


「これでも倒れない……!?」


 後方にいるミリーが叫ぶ。無理もない。俺の斬撃をまともに受けて立っていられる存在なんて、魔族くらいしかいない。魔物であればまず一撃……そう彼女は認識しているはず。

 だが目の前の敵は耐えた。どれほど厄介なのかはこれで深く理解したことだろう。


「一度退くわよ」


 クロエの指示。俺は首肯し彼女とまったく同時に足を後方に向けた。

 魔物は斬撃の余波でまだ動けなかったが、間合いを置いた矢先復活。俺達のことを見据え、強い警戒を示し始める。


「セディ、確認だけれど今のは全力?」

「さすがに全身全霊、とまではいかないな。反撃された場合に備えて回避できる余力くらいは確保しないとまずいし」

「そうよね……ともあれ効いていないわけじゃない。結界により逃げられる心配はないわけだし、ここはじっくりいってもいいかしら?」

「――どうする?」


 俺が問い掛けたのは仲間や騎士達。すると全員が俺達の結論に同意するのか頷いた。

 まあ俺やクロエを同時に相手をして平然としているような魔物が相手なのだ。無理はするなと仲間だって言うところだろう。


 ならば、次はどう仕掛けるか……思案していると、魔物の動きが止まる。それに合わせるかのようにこちらの動きも、止まった。

 双方がにらみ合いの状況。魔物としては様子を見て、場合によっては逃げる……とか算段を立てているように見えるかもしれない場面だ。


 ……ここまでは順調、と考えていいだろう。問題はここから。すなわち勇者バルナへけしかけるしもべを魔物が生み出す段階。

 魔物はその準備をしているか、それとも……思案する間に俺は魔力を刀身へ込める。次の剣で決めるのはさすがに無理かもしれないが、しもべを生み出した直後くらいに攻め立て、一気に終わらせる感じするのがベストかもしれない。


 エーレとしてはどう組み立てているのか……考える間に魔物が唸り声を上げる。完全にこちらを威嚇しているものだが、まだ動かない。

 状況的に膠着状態といったところか……横にいるクロエを一瞥すると、彼女はどっしりと大剣を構え迎え撃つ態勢を維持。様子見――というかエーレが仕込んだ次の手を待っている、といった感じだろうか。


 俺は攻めるべきか守るべきか……と、ここで魔物が雄叫びを上げた。夜空に響くそれはこの場にいる面々をおののかせるには十分な効果を持っていた。

 刹那、魔物が駆ける……いや、それは跳躍という表現が正しい。一瞬で俺達の眼前に到達すると、魔物は渾身の拳を振り下ろす!


「っ!」


 即座に俺とクロエは反応し、拳を避ける。そこで俺は反撃。拳を放ちわずかに隙が生じた敵へ向け、剣を放ち……斬撃はまたも横腹へと入った。

 魔物は――怯みはしたがなおも攻撃しようとする。狙いは剣を放った俺だが、そこへクロエのカバーが入った。


 大剣を魔物の腕が衝突し、勝ったのはクロエ。俺はそこでさらなる好機だと感じ。再び横腹に狙いを定め――斬る!

 三度、同じ場所へ剣が入った。魔物は叫びここで一度大きく後退。仲間達が追い打ちをかけようとしたみたいだが、魔物がにらみ返したことで全員が動きを止めた。


 魔物もまた足を止める……それと同時、直感する。


 いよいよ策が動く……さあ、バルナがどういう反応を示すのか。彼が立つ位置は魔物を越えた場所。その表情は戦況を窺い、油断など微塵も見せないままであり……直後、魔物がこれまでで一番大きい咆哮を、空へ向けて上げた。


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