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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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討伐目標

 そして、予定の時間通りに俺達は目的地の岩場へと到着する。時刻は夜で、俺達の周囲には魔法の明かりがいくつもあり闇夜を照らしている。


「魔物は、近くにいますね」


 傍らにいるシアナは呟く……隊を成していると言っても構わないこの人数が身を潜ませ、状況を確認している。

 目当ての魔物はエーレ達の指示通り岩場に潜んでいる。場所などもシアナは把握しているようだが、俺やクロエは知らない。場所がわかっていて不自然な動きをすると怪しまれるし……ここまで警戒する必要性はないのかもしれないけど、念のためだ。


「地図で確認しましたが、どうやらこの先は岩場が続いているようです。ここに逃げ込んだのは間違いなく、障害物の多い場所で戦闘になります。ご注意を」

「……作戦通りでいいんですね?」


 尋ねたのは勇者バルナ。シアナは頷き、


「はい、魔物そのものはセディ様とクロエ様で対応します。他の方々は作戦通りにお願いします」


 ――まず魔物を発見したら、カレンとシアナ、レナが結界を構築して逃げられなくする。ただ魔物の力量度合いから結界を破壊する可能性を考慮し、牽制役としてバルナやジクレイト王国の騎士などが布陣する。


 俺達は岩場の調査を開始……魔法の明かりがあるとはいえそれはあくまで周囲を照らすだけ。居場所がわからない俺やクロエもそうだが、勇者バルナなどは一層警戒し、周辺を見回している。

 事情を把握し、これが八百長のような事象であると俺とクロエは認識しているわけだが……それでもこの張り詰めた空気に、体がやや緊張している。これはいよいよ勇者バルナに対する作戦が始まるためか、それとも――


「兄さん」


 ふいに、カレンが声を掛けてきた。視線を転じるとほのかな微笑を浮かべる彼女が。


「大丈夫です……私が兄さんをお守りします」

「……カレン」


 強い瞳を伴った彼女……それは幾度となく共に戦い続けてきた俺達にとってそれほど珍しくはない言葉。けれど、俺はかすかに違和感を抱いた。

 なぜか――カレンと再会してからやはり違和感を覚える。それはどうやら何か俺に対し憂慮しているようであり、こうも気になる以上はたぶん間違いないと思う。理由ばかりは俺にもわからないが、これは俺達の作戦に対し良いことなのか、それとも悪いことなのか――


「セディ」


 ミリーが声を短く発する。俺もまた気付いた。どうやら、魔物がいる。


「見つけたぞ」


 真正面には大きな岩があるのだが……その先から魔力を感じ取ることができる。

 魔物は気付いていないのか、ここまで来て迎え撃つ構えなのか……魔物が動かない間にシアナはカレンへ「準備を」と告げ、彼女は頷いた。


 いよいよ、だな……シアナ達に加えレナもまた前に出て結界構築のために魔法行使を始める。


「私が結界の主軸を担います。お二方は私の魔力に合わせてください」


 指示にカレンとレナは頷き――少しして、シアナの魔法が発動した。


 それは、魔物が隠れる岩場を中心にして、俺達も覆う大きな結界。ドーム状、とでも言えばいいか、かなり広範囲に結界は構築され、それにより魔物も反応しキィキィと鳴き声が聞こえた。


「戦闘準備」


 クロエが声を発する。それと共に全員が武器を抜き放ち、構え……やがて魔物が動き始める。

 岩場の影から、魔物が姿を現す――血のような赤い目を持った魔物であり、その姿は猿そのもの。だが体長が大人の三分の二ほど……それを見て俺は、


「デカくなっているな……」

「ええ、私達の想像以上、ね」


 クロエが付け加えた矢先――吠えた。


 金切り声、という言葉が似合うつんざくような雄叫びだった。近くにいたロウは反射的に耳を塞ぎそうになる。他の者達も顔をしかめたが、構えは崩さず臨戦態勢を維持。

 それと同時――突如、魔物の体がボコリと膨れあがった。


「また力を……!?」


 ミリーが叫ぶ。この場にいる誰もが思ったことだろう――魔物は状況的に危険だと判断し、取り込んだ魔石の力を一気に吸収した。

 それは俺にとっても想像以上の魔力を生み、周囲の大気が軋む……そんな錯覚を抱いたほどだった。ジクレイト王国の騎士はそれに多少なりとも動揺を示し、ロウやケイトも尻込みするほど。


 ここで俺は察する……なるほど、生半可な魔物では勇者バルナも納得しない。ならば、相応の力を持った存在で対応するってことだ。


「――全員、作戦通りに頼む」


 俺は声を発する。誰もが無言でいたため主導権を握る好機。

 それに仲間達はすぐさま反応。一歩遅れてジクレイト王国の騎士達も動き始める。ロウやケイトもそれに合わせるように足を動かし、勇者バルナは、


「お二方でも取り逃がし、なおかつ警戒する理由がわかりましたよ」


 そう呟く。彼の言葉は本心か、それとも別の意図があるのか――


「私も助力し、結界の維持を。お二方、ご武運を」

「ああ」

「ええ、あなたも気をつけて」


 クロエの言葉に勇者バルナは首肯し、持ち場へ。一方魔物は動かない。取り囲もうとしている面々を眺め警戒しているのか……いや、この場合はおそらく――


「なるほど、セディ。あの魔物は私達の顔を憶えていたようね」


 クロエからそんな言動が。俺は「そうだな」と頷き、


「まずは厄介な相手から片付ける……ってわけか」


 魔物の視線は鋭く、俺達を最優先に警戒している様子。これは演出で、魔物が俺達を狙う理由付けにしているわけだ。

 さて、お膳立ては整った。あとは俺とクロエが勇者バルナのお眼鏡にかなうかどうか……実力を発揮して俺達のことをあきらめるのか、それとも是が非でも罠に掛けるのか。


 戦いのどこかで魔物はしもべを生んでバルナなどにけしかける……状況的にそういう事態となって誰かが危なかったら、ディクス辺りが対応するだろう。

 俺は呼吸を整える……魔物は濁った瞳で俺を見据え、出方を窺う構え。


 そして、


「……クロエ、始めようか」

「ええ、決着といきましょう」


 返事をして――魔物との戦いが始まった。


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