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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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討伐の説明

 エーレ達が準備を済ませるまで俺達はジクレイト王国首都で待機することになったのだが……勇者バルナが干渉してくることもほとんどなく、ごくごく平和に過ごすことができた。

 この間にクロエも仲間達と親交を深めた……剣の訓練なんかもやるようになったので、ひとまず人間関係でいざこざが起きる可能性はなさそうだ。


 そうして穏やかな日々を多少なりとも過ごすことができたわけだが……そういえばエーレに弟子入りを表明してからあんまりゆっくりした記憶がないな。それに休息するにしても魔王城の中にある自室で過ごすばかりで、リラックスできたかと言えば微妙だったし。まあともかく、仲間と共に羽を伸ばすことができたのはよしとしよう。


 しかしそうした休養期間はあっという間に過ぎ去り……いよいよ準備が整ったと報告を受け、俺達はまず仲間に事情を説明することにした。


「では、魔物について改めて説明を」


 そう口を開いたのはシアナ。場所は宿の一室で、仲間全員が集められている。


「姿は猿のようですが、その大きさまではわかりません。というのも時が経つごとに徐々にではありますが大きくなっていますので」

「少しずつ、魔石の魔力を取り込んでいるってことね」


 ミリーが声を発する。シアナは小さく頷き、


「はい、大きさを見てどの程度力を取り込んだのかを判断し、どう戦うかを考えるべきかと思います」

「で、討伐については勇者バルナも協力するって言っているけど」


 ミリーからの言及。そこについてはこの首都にいる間にそこそこ話し合った。結果、


「幾人か勇者を引き連れて参戦するそうだ。けれど今回の戦いはあくまで俺とクロエが主体になる」


 ――実際は上手く魔物を利用して勇者バルナに仕掛けるような段取りをしている。ただ俺やクロエが取り逃がして勇者バルナに魔物をけしかけた場合……仮に彼が魔物を撃滅してしまったら、こっちの立つ瀬がなくなるので、そういうやり方はしない。貸し一つという感じで済ませられたらマシだが、発言力的に弱くなってしまったら面倒……まああえてそうすることで懐に潜り込むやり方もありはありだが、シアナなんかは「リスクもある」ってことで反対したらしい。


 無難な手法として魔物がしもべか何かを生み出してバルナをけしかける、といった形が提案された。実際エーレも了承し、その流れで段取りをしている。これなら俺とクロエが魔物本体を倒せば一応立場は確保する。


 ただこれは大枠の流れで、実際魔物と戦う際の状況によって変化するため、あとはどれだけ現場で上手く立ち回れるかにかかっている――


「これ以上野放しにしておけば確実に被害が出る。ジクレイト王国からの協力も得られたし、決着をつけたいな」


 俺は告げながら思考する――ジクレイト王国側も騎士や魔法使いを動員するとの報告もある。もっとも人数的には少数だが、国が参加しているという事実は非常に大きい。

 さすがに俺達の仕事でバルナが何かしら策を実行するとは思えないが、それを抑止する狙いもある。そしてこの流れで魔族討伐にも加わってもらう……勇者バルナはそうした状況下でどう動くのか。


 魔族討伐の際、国側が参加することによって勇者バルナの計略をある程度抑えることができるだろう……対象が俺やディクスならば問題ないが、場合によってはカレン達など仲間に危害を加えてくる可能性も考えられる。国側の助力はそうした可能性を減らすような意味合いもある。あとはバルナが策を実行してボロを出すかどうか……計略にはまるのは多少なりとも危険だが、何かをやっている証拠もない現状ではこれしか手法もない。ともかくやるしかない。


「出発は明日だ。既に旅の準備も済ませているし、国側の騎士とも連絡を取り合っているから問題はない。レナも来るみたいだし連携も問題ないだろう。あとは勇者バルナについてだけど……こちらにも知り合いがいるし、なおかつその知り合いが魔物討伐に参加してくれるみたいだから、混乱も少ないはずだ」


 勇者バルナは俺と勇者ロウが知り合いということから、今回魔物討伐に加えることにした。俺と渡りをつけるためか、あるいは……ただ一つ言えるのは、例えばロウを人質にとられるとか、そういう事態になるのは避けたい。そこまで露骨なことはしてこないと思うけど……。


 これについてエーレに伝えると「協議する」とだけ告げ、後は任せている。まあエーレなら大丈夫だろう。少なくともロウや仲間であるケイトを危険にさらすようなことにはならないはずだ。


「というわけで、今日一日はゆっくりしてくれ」


 そうまとめて、会議は終了し解散する。俺はどうしようかと考えていると、フィンが近寄ってきた。


「おいセディ、またチェスでもやらないか?」

「ああ、いいよ……そういえばフィンはクロエと訓練していたな。どうだった?」

「さすが、というのが感想だな」


 肩をすくめる。


「能力の高さなんかは名が売れているだけある。ただ今回はセディと彼女が組んでも逃げられている魔物相手だ。気合いを入れないといけないな」

「ちなみにフィンの方はどうだ? 腕が鈍っていないか?」

「心配するなよ、そこは大丈夫だと断言できる」


 そう言いながら彼はチェス盤を用意する。


「それとセディ、一つ訊きたかったんだが、魔物討伐と勇者バルナの魔族討伐。それが終わったらどうするつもりだ? クロエさんと組んでまた仕事をするのか? その場合、俺達はどうする?」


 ――バルナとの戦いが終わっても勇者ラダンがいる。その戦いが終わるまでは常に活動し続けることになるだろう。

 仲間達はどうするのか……また俺がエーレ達から言い渡される仕事をする場合、どう説明するべきなのか……悩むところではあるし、俺も咄嗟に良い解答が浮かばない。


 今まではディクスなんかと協力して仕事をしていたわけだけど、いつまでもこういう状況を続けるのは仲間達にも申し訳ないだろう……魔族討伐が終わってから、エーレに相談することにしようか。


「……まだ考え中だ。とりあえず仕事が一段落付いたら、改めてどうするか検討させてもらうよ」

「そうか」


 フィンは素っ気ない返事を行う――その声音は、俺に対し信頼を置いているのは間違いないものだった。


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