集う勇者達
クロエとやディクスを交えロウと少しばかり会話を行い、さらに戦士団に所属する勇者とも顔を合わせる。ひとまず目的は達したので宿を離れることになったのだが、最後にロウは、
「セディさん、また共に戦えること、嬉しく思います」
そう述べた。俺は「こちらも」と返事をして、宿を去る。
「……まさかセディの知り合いがいるとはね」
クロエが淡々と語り出す。
「でも、報告にはなかったわよね?」
「戦士団全ての調査が済んでいるわけではないからな」
そこで話し始めたのはディクスだ。
「勇者である以上、魔族が直接顔を合わせれば正体が露見する可能性もある。そのため調査は彼らの足跡を辿るほか、彼らと関わった面々から情報を聞くといった手法をとっているからな」
「なるほど……セディとしてはどう? やりやすい? やりにくい?」
「微妙なところだな。ただ、彼らの存在を上手く利用できれば、緊急事態になっても味方を増やすことは可能だと思う」
例えばの話、バルナと敵対することになっても、彼らの戦士団にこっちの味方になりそうな人がいれば、色々とメリットはある。
「ただ、雰囲気的に勇者バルナのことも信頼しているようだから、味方に引き入れる必要性があるのなら、もう一手ほしいところ」
女神アミリースはロウの幼馴染みであるパメラを天使として引き入れた。彼女を派遣して、上手いこと……なんか打算にまみれていてあまりいい気分にはなれないな。
「ならディクス、エーレにこのことを報告してどうするかを確認してくれ」
「無論だ」
……さて、ようやく状況は整おうとしている。ただ勇者バルナとの戦いは、どうやら混迷を極めることは予想できる。
俺の仲間と合流しただけならまだしも、ジクレイト王国の協力を得るという方向にしたため、国の騎士や魔法使いと手を組むことになる。そこに加えて勇者ロウという俺が知り合った人物が戦士団にいる。見知った人物が多いこともまた特徴的だな。
ただ、これは決して悪い話ではない。俺の知り合いが多いということは、バルナよりもこちら側になびかせることが十分可能である、ということ。加えて勇者セディやクロエといった名声のある人物がこちら側にいることで、事を有利に進めることができるかもしれない……。
「ここまで勇者が集うケース、今までなかったわね」
ふいにクロエが呟いた。うん、そこについては俺も心底同意する。
勇者ラダンと話して以降、彼の一派と関わり勇者とも顔を突き合わせることになった。そして今、東西の勇者達がこのジクレイト王国に集っている……勇者同士で話し合うなんてことは基本ないから、こういう状況は非常に珍しい。
「ねえディクス、一つ質問があるのだけれど」
ここでクロエはディクスに話を向ける。
「勇者バルナがどう出るのかわからない。加え勇者イダットのケースとは異なり、人が多い場所で立ち回る必要がある……ジクレイト王国の軍がいてもいなくてもその状況は変わらないわ。こうなると大いなる真実に関することが、場合によっては漏れる可能性も危惧すべきじゃない?」
「そこについては認識している。これだけの人数の勇者達が集い行動する以上、こちらも相応の態勢でやらせてもらう」
魔族側も気合い十分だな。ま、エーレは仕事がきっちりしているから、少なくとも俺やクロエがボロを出さない限りは大丈夫なはず。むしろ俺の立ち回りの方に注意を向けるべきだな。
「ディクス、俺の仲間については……何かやっておくことはあるか?」
「こちらに無理に行動を制限するなどしたらかえって怪しまれるだろう。どのような行動をとっても問題ないようにこちらは準備をする」
「わかった。えっと、まずは魔物討伐からだな」
「ああ。魔物については今日中には準備もできる。こちらの指示に従い、動いて欲しい」
うん、着実に魔族側の準備はできている。あとはジクレイト王国のアスリ女王としっかり連絡を取り合い、騎士達に問題がないようにと、俺の仲間についても同じようにって感じか。
「準備は入念にしないといけないわね」
そしてクロエは語り始めた。
「セディも私も、心構えをして、色んな可能性を検討しておくべきよ。勇者バルナがどういう行動をとるのか……あと、こちらから変なことを言わないように」
「そこが一番気をつけたいところだな。俺の方で不用意な発言をして怪しまれるのは勘弁願いたい」
「場合によっては、最終手段もある」
――それが何を意味するのか、俺にはなんとなくわかった。
「あー、魔族として活動していたって事実を利用し、もしもの時は俺が魔族に変化して誤魔化すのか」
「その通りだ」
「できればやりたくないけどな……場合によってはそれもやむなしか」
というか、そういう事態に陥らないように頑張ろう……不安ばかりだが、決して状況的には悪くないし、後は必死にやるだけだな。
しかし、仲間もいて勇者も集い、さらに国まで動くとなればかなり大掛かり……失敗は許されない。
「よし、それじゃあ夜くらいにエーレ達ともう一度作戦会議を開いて、討伐に向かおう」
「ええ、そうね」
「二人とも、よろしく頼む」
――やがて俺達は自分達の宿へと戻る。仲間達は既に帰ってきていて、雑談に興じながら夜を待つことにする。
そうした中で、一つ気になることがあった……それはカレンについて。シアナなんかは考えすぎだと指摘したわけだが、食事をしている時などにこちらを見て、思わせぶりな表情を示すことがあった。
こちらが見返すとすぐに目をそらす。そこについてミリーに訊いても「久しぶりに顔を合わせたからでしょ」と言及し、さして気に留めている様子はなかった。
それにもし何かあれば絶対に俺へと話すだろうとも……ただ俺はどうしても引っ掛かった。それはこれから大きな仕事が控えているため俺自身が神経質になっているためか、それとも――
どこまでも違和感を抱きながら俺は仲間達と会話をする……そうして不安要素がある中、俺達は魔物討伐までの期間、仲間と共に過ごすこととなった。