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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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勇者同士の話し合い

 その後、一日経過しディクスが勇者バルナと話をする場をセッティングした。なおその場に同行するのは俺と同じ勇者として活動するディクスとクロエの三人。勇者同士顔を突き合わせて話をする……シチュエーションとしては良い。

 シアナなんかは話し合いに参加したかった様子だが、今回はオイヴァ――もといディクスもいるので結局不参加。この仕事において魔族側の中心は彼になりそうだ。


「町中で攻撃してくる可能性は低い……ただしおかしな動きをしないか注意を払ってもらいたい」


 ディクスが話す。ちなみに待ち合わせの場所はとあるカフェ。宿ではなく人目もあるような場所を選んだのは、ディクスなりに警戒してのことだろう。


「さすがにこの話し合いで相手が尻尾を出すとは思えない。よって今回は顔見せ程度ってことになるな」

「……話の内容としては、こっちは魔物の討伐があるからって方向でいくんだな?」


 俺の確認。それにディクスは頷いた。


「シアナがセディの仲間達に伝えた用件を姉上にも伝えた。情報を聞き魔物を用意するだろう」

「わかったけど、一番の懸念は魔物討伐に協力するからこっちの討伐にも手を貸してくれってことになるか」

「むしろそういう流れが自然でしょう」


 と、これはクロエの発言。


「セディの仲間達は戦士団に入ることを良いとは思っていない。けれど魔族討伐で彼と手を組むのなら、そう悪くは思わないでしょうし」

「そうだな……ディクス、その魔族についてはどうなんだ?」

「現在ジクレイト王国領内にいる魔族はガージェンと、他数名……とはいえ基本的にはこの国内における魔物の数なんかを調査している者で、姉上とも連絡を取り合っている。仮に勇者バルナがどの魔族を討伐しようと考えていても、口裏を合わせることができる」

「ジクレイト王国にいる魔族は、全員大いなる真実を知っている、というわけか?」

「そうだ。大国だし以前は連絡をとることも難しかったからな。どうにか配置を上手くやった」


 その辺り、エーレも大変そうだな……。


「昨日、夜に情報収集をしたんだが、バルナの戦士団はまた新たな勇者を引き入れたらしい。もしバルナが人為的に勇者を殺めているとしたら、私達が干渉することで是が非でも止めなければ」

「そうだな……今日は相手の動向などを窺う、最初の一歩か」


 ともあれ、なるようにしかならないか……やがて俺達は目的地へ到着。店に入ると、ディクスは周囲を見回した後、


「いたぞ」


 そちらへ向かう。俺とクロエは彼に追随し……勇者と顔を合わせた。


「初めまして、勇者セディ。勇者クロエ」


 ――とても、とても爽やかな青年だった。黒髪に黒い瞳とやや没個性な印象ながら、まとっている雰囲気が他の人とは一線を画する。彼の周囲だけまるで柔らかな風でも流れているような……そんな好印象を俺達に与えてくる。


「今回、勇者セディに会いたく思いこの東部を訪れましたが、まさかこういう形で勇者クロエとも会えるとは思っていませんでしたよ」


 笑みを浮かべながら優しく語るバルナ……俺は正直、内心で困ったと思う。確かにフィン達の言うとおりだ。人当たりがよく、怪しむ場所はない。

 けれど、なんとなく違和感がある……これは俺が勇者として色々と体験してきたからなのか。それとも彼が勇者ラダンと関係しているとわかっているためなのか。


「先に言っておくけれど、戦士団に入るかどうかはわからないわよ」


 クロエが機先を制す。それにバルナはニコリとなって、


「無論です。私としても無理強いはできませんし、特に勇者セディは仲間のこともあるでしょう……魔族討伐などの際、一時的に手を組むという話でも構いませんよ」


 ――彼が魔族の拠点で何かをしているのだとしたら、別に仲間に引き入れなくとも協力関係を結ぶだけでもいい。戦士団に加えるようなやり方をしているのは、基本的に仲間などに指示を出せる立場の方がやりやすいからという解釈ができる。


「……わかりました。では話しましょう」


 俺が口を開くとバルナは笑みを崩さず席へと促す。


 ふむ、本当にこうして見ると裏表無さそうな人物だな……むしろ変に勘ぐってしまう俺の方が心が汚れているように思えてしまう。

 と、いけない。目の前の相手は勇者ラダンと関わっている人物。気を引き締めなければ。


「まず、私の要望から話をさせていただきます」


 俺達三人とバルナが向かい合って座り、彼が口を開いた。


「私としては、ジクレイト王国内に存在する魔族の討伐を目標としています……なぜ西部から東部へ、という疑問はあるでしょう。その理由については、東部にいる魔族がある道具を所持しているから、です」

「道具?」

「はい……恩師が所持していた、武具。これがいくつも散らばり、それを取り戻すべく戦っています」


 ――これはたぶん、勇者を説得するための方便だろうな。


「その所在を明らかにできる手段が最近手に入り、こうして魔族と戦うことになりました……そして取り戻すには魔族のすみかに踏み込まなければなりません」

「そこで、できる限り戦力を集めて……というわけですか」


 こちらの言葉にバルナは「そうです」と答える。


「勇者クロエは理解していると思いますが、私は元々魔族ではなく、西部の戦乱に身を置いていた人間。意外かと思われるかもしれませんが、私には魔族と戦う理由ができたため、こうして魔族相手に剣を振るうようになりました」


 ……バルナのことを知っているかもしれないクロエに対しても筋が通るような説明なのは間違いない。たぶんこれらの話は嘘だと思うが、だとするならこちらに違和感を与えることなく流暢に話している事実は、彼の演技が相当上手いことを意味している。

 ふむ、フィンやミリーがなんだか怪しいと思うのもなんとなくわかる……丁寧すぎて人間味があまり感じられないのだ。


「こちらの要望をお話しします。魔族との戦い……それに協力していただけないでしょうか」


 戦士団加入とかではなく、ひとまず要望という形にしたか。


「その目的は、魔族の拠点に踏み込み、武具を手に入れその場所にいる魔族を打ち破ること……武具を得た時点で退いてもいいのですが、おそらく逃がしてはくれないでしょうね」

「だろうな……ただ勇者が複数人いるとなれば、魔族としても懸念するだろうし、下手すると援軍が来る可能性もある」

「危険なのはわかっています……しかし、私は絶対に取り戻したい」


 強い言葉……さて、俺達はどう応じるべきか。

 この状況下でこちらの話に持ち込んだとして……頭の中で算段を立てていた時、次に口を開いたのはクロエだった。


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