表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者始動編
26/428

裏切者との決戦

 先攻したのはグランホーク。間合いから刺突を俺に繰り出す。


「っと!」


 すかさず後方に跳ぶ。槍の範囲から脱しつつ、彼を直視し続ける。


 状況分析開始。グランホークは先ほど怒りを伴い言葉を差し向けたが、存外冷静さを保っているようにも見受けられる。挑発できる可能性は低いだろう。

 そして相手には短距離転移というアドバンテージがある。使われるとかなり危険なのだが――


「その左手の指輪。何をしようとしている?」


 魔力に気付いたグランホークが呼び掛ける――同時に、準備が整った。

 だから俺は、不敵に笑う。


「……こうするんだよ」


 言ってから、左手をかざした。


「来たれ――煉獄の聖炎!」


 義理の妹であるカレンが使用していた魔法。それを、シアナの力を借りて――今俺達の周囲に姿を現す。


「何……!?」


 グランホークが動揺を示す。使用した金色の炎は円形に俺達を包囲する。


「上級天使の炎……これに転移封じの力があるのは、知っているよな?」


 問いつつ、俺は床を蹴った。グランホークが炎と俺を見て逡巡する一瞬の間――それを利用し剣の間合いに入り込む。


「はあっ!」


 突進に近い動きの中、横へ一閃する。そこでグランホークは我に返り、回避に移った。剣戟は僅かに刀身が鎧に掠め、筋を作っただけにとどまる。


「くうっ!」


 直後、グランホークが呻く。転移しようにもできないため、発した声かもしれない。


「なるほど……これが勇者としての力か……!」


 グランホークが驚愕する間に、俺は追撃を掛ける。今度は下斜め右からの振り上げ。だが彼は紙一重で避け、さらに後退する。

 一気に攻め立てれば勝てるかもしれないが――俺は一度槍の間合いから脱した。強力な防具や魔法があるからといって、槍の一撃をもらうのはまずい。


「来ないのか?」


 息をつきながらグランホークが問う。対する俺は首を横に振る。


「挑発に乗るつもりはないよ」


 冷淡なその言葉にグランホークは何を感じたか――奥歯を噛み締め、今度は彼が突っ込み、槍を薙ぐ。

 瞬間、俺は彼の手の内を悟る。風だ。


「無駄だ――!」


 叫ぶと、俺は全身に力を入れ魔力をまとわせる。

 果たして――魔力が全身を行き渡り、駆ける。発せられた突風を、一切気に掛けずグランホークに攻撃する。


「っ……!?」


 これもまた予想外だったらしい。風はあっけなく霧散し、さらには俺に接近させる隙を与えてしまった。

 剣を薙ぐ。対するグランホークは槍で防ぎにかかる。結果、甲高い音と共に斬撃を止めた槍に、刃が食い込んだ。


「くそっ!」


 グランホークは毒づきながら周囲に風を発生させ、後退に利用した。俺は追いすがってもよかったのだが、動かなかった。

 まだ手の内を隠しているかもしれない。警戒はするべきだろう。


「ずいぶんと、用心深いな」


 距離を取ったグランホークは、槍を構え直し告げる。


「このまま連撃を叩き込めば、勝てるかもしれんぞ?」

「さっきも言ったけど、挑発に乗るつもりはないよ……少なくとも、武器の扱いという一点に置いては、あんたの方が上だからな」


 俺の言葉に、グランホークは眉をひそめる。


「何?」

「そのままの意味だよ。武術的な腕前は、あんたが上。俺は現状、全て力で押し潰しているだけ」


 ――本来なら、人間側がグランホークの様な戦い方を強いられるはずなのだが、逆になっている。なんとなくおかしさを感じつつも、俺は続ける。


「だから、俺は常にあんたが隠し玉を持っているのを警戒している。技量的には上なんだ。注意を払うのは当然だろう?」

「……まったく、つくづく厄介な奴だな」


 グランホークは深いため息をつく。眼光からは鋭さが和らぎ、こちらを窺うような色を見せる。


「人間というのはどうにも思慮深い……私は今までそうして裏をかいてきたが、手の内を知る相手には効果無しとうわけか」

「じゃあ、どうする?」


 問い掛け。俺はじっと相手を見据え――やがてグランホークは、左手を槍から離し、首に掛けられたペンダントを握る。


「……よもや、ここで使うことになるとは」


 直後、俺は攻撃を仕掛ける。ペンダントを使用する間に隙が生じるのではないか――そういう目論見だったのだが、次の瞬間それから発せられた魔力に、足を止めてしまった。


「何……?」


 今度はこちらが驚愕する番だった。一瞬のうちにペンダントの力が強まり、それがグランホークの体を包みこんでいく。


「これで……貴様と互角かもしれないな」


 彼は告げ、ペンダントの魔力と体の魔力が融合する――刹那、それまでと比べ物にならない大きさを伴った魔力が、彼の体から生まれた。

 見た目は変化していない。だが俺の目にはグランホークが先代ベリウスのような、巨大な存在に映る。


「――終わりだ」


 彼は言い、槍を振った。先ほどまでと比べ物にならない速度。俺はほぼ無意識に反応し、後方に跳んだ。

 紙一重で避けると、さらに槍が突きこまれる。今度はそれを剣で弾くと、途端に痺れが腕に走った。


「転移が使えなくとも、貴様を殺せる」


 グランホークは確かな手応えを感じたか、俺に言い放った。

 対するこちらは――状況にも関わらず、比較的冷静さを保っていた。根拠はベリウスやエーレとの、戦いの経験。強大な相手とは、幾度となく戦ってきたという、自負。


 再び槍が繰り出される。最初の刺突を横にかわすと、次に来たのは横薙ぎ。続けざまの攻撃を、剣によって受け流す。今度は大した反動もなかった――思っていると、再度刺突が襲い掛かる。

 すかさず剣で弾きつつ後退する。魔力は膨れ上がったが、特殊な攻撃はしてこない。


「様子を見ているのか?」


 グランホークは槍を引き戻しつつ尋ねる。俺は答えなかった。


「ならば、こちらから仕掛させてもらおう」


 グランホークは告げ、槍を放つ。俺は身を捻り避ける。間合いを脱し、なおかつ付け入る隙を見出そうとする。

 ペンダントによる魔力の増幅――そして先ほどの説明では瞬間的に力を増大させるという特性。おそらくこの力には時間制限があって、しばらくすると効果を失うのだろう。


 ならば、長期戦に持ち込めばいい――のだが、槍の応酬をかわし続けなければならないという問題が生じる。技量は彼が上。こちらの予想を覆す攻撃を見せ、一撃もらうかもしれない。

 一騎打ちである以上、それは紛れもなく死を意味する。


 どうすれば良いか――思案しているとグランホークの魔力がさらに膨らんだ。


「長く付き合う気はない」


 こちらの動きは見透かされているらしく、彼は短期決戦に持ち込む構え。俺はどうするか逡巡し――その間に槍を迫ってくる。


「仕方、ないか――」


 長期戦はあきらめ覚悟を決めた瞬間、剣先に力を込め内なる魔力を引き出す。それが身に着けた魔法具と共鳴し――グランホークと相対する力を引き出す。

 最初の激突。剣と槍が交錯すると魔力の余波が広間全体に四散した。力量は互角――いや、グランホークが一歩上。


「やるな……!」


 相手もそれに気付いているらしい。どこか余裕を見せながら叫ぶグランホークに、俺は不敵な笑みを返す。

 さらに剣戟が交差する。再び魔力が反響し、あまつさえ金属音さえ広間を振動させる。


「だが、勝つのは私だ!」


 グランホークが、どこか確信を伴って槍を振る。対する俺は笑みを浮かべながらも――焦燥感を抱いた。

 力が思うように引き出せない。エーレから力を抑えられている点から、上手く加減もつかめない。


「くっ……!」


 劣勢――判断した瞬間、俺はシアナからもらった指輪を思い出す。指輪の力を使い慣れていないため、最初の聖炎以降全力で使用していない。しかし、魔法具の力を強化するこの指輪なら、もしかすると――

 反射的に指輪の力を全開にした。剣先の力が膨らみ、それは俺を大いに驚かせる力と化す。


「っ!?」


 グランホークすら呻き、剣と槍が衝突する。次の瞬間、俺の剣が槍を押し返した。

 今しかない――相手が驚愕する間に特攻し、一閃する。グランホークはたまらず防御し、剣を受けた途端、数歩分後退した。


 グランホークは声も出ず、さらに下がる。対する俺は剣の力を制御するのに必死でそれ以上攻撃を加えることはできず、一度指輪の力を抑え解放前のレベルまで揺り戻す。


「……エーレも、予定外だったみたいだな」


 俺は柄の感触を確かめつつ、呟いた。どうやら剣先に力を送り増幅すると、際限なく出力するらしい。シアナはあまり効果がないようなことを言っていたはずだが……どうやら、違ったらしい。

 まあ、結果オーライだろう。


「とりあえず、立場逆転だな」


 俺が言う。グランホークは俺と剣を交互に見て、凍りつく。


「貴様、その力は……」

「あんたの全力より、俺の方が強い……それが立証されただけだ」


 淡々と告げると、グランホークが憤怒の表情を見せ、さらに力を膨らます。それはペンダントの力を限界まで使用するかと言う程の、爆発的な力。

 だが俺は極めて冷静に、シアナからもらった指輪の力を解放した。グランホークの膨張と合わせ魔力が集積し、必殺の一撃を繰り出す。


 剣と槍が噛み合う。互角だったのか魔力が相殺され、金属音だけが周囲に響き――グランホークは体勢を崩す。そこへ、俺が一撃を放たれた。

 彼は槍で防ぎにかかり、互いの刃が触れた瞬間――槍の上部を斬り飛ばした。


 連撃。それにより彼の手から槍が弾き飛ばされ――彼は防ぐ手段を失った。

 グランホークは引きつった顔を見せる。俺はそれを眺めながら剣を彼の首筋に突きつけた。


「終わりだ」


 静かに告げ――グランホークの体から魔力が抜けていく。


「どうやら、力を引き出し過ぎてタイムリミットが来たみたいだな」

「……馬鹿、な」


 彼は呟く。剣を向けられたグランホークは、先ほどとは異なり憔悴しきっていた。






「――なぜ、お前は裏切ってしまったんだ」


 剣を向け対峙する中、俺は声を発した。


「力にこだわらなければ……ただ家族の無念を晴らすためだけに動けば、こんな結末にはならなかったはずだ」


 剣を強く握りしめ、俺は言う。力――それが全てを狂わせた元凶。

 俺は似たような過去を持つグランホークに対し、親近感を抱いていた。立場などに違いはあれど、根っこは復讐。だが、彼は力を欲した。だからこそ、裏切りを選択した。


「技術を研鑽し続けてさえいれば、魔王から信用を得られたというのに」

「……何とも、勇者らしい問い掛けだな」


 対するグランホークが力なく笑う。


「お前の言いたいことはわかる。努力をし続ければ願いは叶う……そう言いたいのだろう? だが、魔族にとってそれは詭弁だ」


 俺は、何か言い返そうとした。けれどグランホークの言葉が先に発せられた。


「魔族は力と、階級が全てだ。人間と違い力の総量が決められている魔族は、どう足掻いても覆せない現実がある」

「それは……」


 ――彼は未だ自分の力を知らない。事実を知らないから、力を得ることに固執している。


「だから力を求めた。そして支配という絶対的な権力を、得ようとした」

「……お前は」


 俺は一呼吸置いて、グランホークに尋ねる。


「お前は、支配して何を成すつもりだった?」

「何をするか……か。全ては、我が願いのためだ」

「願い……全てを食らい尽くす、か?」

「そうだ」


 にべもなく頷く。


 俺は、あきらめたように息を吐いた。これが魔族という存在であり、考え方なのかもしれない。

 同情的な観念は消えない。しかし、彼を残せば遺恨が残る。


「……悪いな、グランホーク」


 乾いた声音で言う。彼は力なく笑った。


「終焉とは、やはり思い描いた通りにはならないものだな」


 全てを決した表情――俺は無言で剣を振る。

 グランホークはせめてもの抵抗と、腕を刃に差し向けた。槍を失い、腕を両断されようとも防ぎにかかるつもりなのだろう。


 その瞬間、俺は彼の腕が両断される姿を想像した――しかし刃に触れた直後、抵抗が生まれ剣が止まる。


「何……?」


 驚愕した。俺が触れたのは左腕にはめられた小手の部分。無論、加減していたわけではない。シアナの魔法具を全開にしたわけではないが、小手ごと断ち切れると確信していた一撃だった。

 しかし、見事に防いでいる。


「これは……?」


 グランホークもまた、驚愕していた。このような展開を予想していなかったらしい――直後、俺は感じ取る。

 彼から、先ほどのペンダントとは異なる大きな魔力。


 まさか――潜在能力なのか? 窮地に立たされ、今力が開放されたというのか?


 俺は瞬間的に剣を引いた。さらに相手が驚愕する間に剣を薙ぐ。状況を把握できていない間に決着を付ける――そういう目論見だった。

 しかし、その一撃もまた左腕によって弾かれる。俺はたまらず後退する。剣を握り直し、改めて彼を見据える――


 そして、魔力の膨張が巻き起こった。


「うおっ……!」


 グランホークがわめく。見た所、制御できていない。

 俺は再度剣を向けようとしたが、強烈な力にたじろいでしまい機会を失くす。


 どうやら完全に覚醒してしまったらしい。ペンダントの力によるものか、それとも死ぬ間際の覚悟によるものか……ともかく、何かが呼び水となって強力な魔族が顕現してしまった。


「これは……まだ、ペンダントの力が……!」


 力が増幅する中、グランホークが叫ぶ。この状況になっても、彼はペンダントの力によるものだと認識している。


「そうか……なら、まだ終わりではない!」


 グランホークは言い放ち、手刀を放った。それは先ほどまでとは比べ物にならない程の鋭さで襲い掛かる。

 俺は咄嗟に横手に避け――グランホークは追撃を掛けることなく横をすり抜ける。その先には、この一室と城とを繋ぐ魔法陣。


「しまった!」


 逃げる気だ――すかさず剣の力を収束させ、風の刃を放つ。それはグランホークの背面に直撃した――が、彼はさほど堪えておらず、そのまま魔法陣により窮地を脱した。


「くっ!」


 すぐさま魔法陣に向かう。彼が出た以上、閉じ込められる可能性がある。俺は半ば祈るような気持ちで陣の上に立ち、転移を開始する。

 程なくして周囲が光に包まれる。どうやら、無事に帰れる――そして次に見えた視界は、グランホークの部屋ではなかった。


「え――」


 そこは玉座を背にした大広間。到着地点が異なっていたため驚いていると、真正面からグランホークが背中を向け突っ込んでくる。


「っ!?」


 何か攻撃を受けて吹き飛ばされたらしい――理解しながら体を傾け回避する。彼が俺と玉座を掠め横を抜け、後方から衝突音。

 俺は即座に階段を下り、玉座下に到達。そこには、リーデスとシアナの姿。


「無事だったか」

「あ、ああ……」


 リーデスの言葉に俺は動揺を抑えつつ答える。

 失敗したことを咎めるかと思ったが、彼は安堵した表情を見せただけ。傍らにいるシアナに目を向けると、彼女もまた同じ反応だった。


「覚醒したようだね」


 リーデスが端的に言う。俺は頷きつつ、一つ注意を促す。


「だが彼は、切り札――力を瞬間的に増幅させる魔法具によるものだと考えている」

「切り札……なるほど」


 リーデスが納得の声を上げた時、玉座方向から瓦礫を踏みしだく音が。見ると玉座周辺は壁が破砕したのか砂塵が舞っており、その中からグランホークが姿を現した。


「場所を、変更したのか」


 淡々と告げる。先ほどまでの覚悟を決めた顔ではなく、逃げ切れるという確信を抱いた、強い瞳。


「ええ。あなたの部屋に入り仕掛けをいじくりました。術式が複雑だったので、この短時間でそのくらいしかできませんでしたが」


 リーデスは柔和な笑みで答える。対するグランホークは、三人で固まる俺達を見て苦笑した。


「なるほど、セディから聞いていたが……この目で見て改めて理解した。私は貴様達に踊らされていたわけだな」

「ここに赴いた目的とは逸脱してしまいましたが、結果そうなりました」


 悪びれる様子もなくリーデスは言う。


「その力、確かに目を見張るものがありますが、よもやそれだけで勝てると思っていませんよね?」


 さらに挑発気味に問い掛ける。グランホークは笑った。計略の時に見せた、醜悪な笑み。


「しかし、手はある」


 彼は言う。俺も理解していた。逃げに徹すれば、突破できる可能性はある。


「リーデス」


 だから、俺は彼の名を呼んだ。さらに返事も待たず、言い放つ。


「俺一人でやらせてくれ」


 言うと、横手から視線を感じる。シアナであることは間違いなかったが――俺は応じず、グランホークへ一歩歩み寄る。


「リーデスとシアナは、逃げないよう見張っていてくれ」

「それは……僕としては楽でいいけど、彼の力を鑑みるに――」


 返答の途中で、俺は魔法具の力を完全に解放する。特にシアナからもらった魔法具の力を剣に収束させることにより、多大な力を発露する。


「っ……!?」


 リーデスは息を呑む。次いで、彼は一歩後退した。


「わかった。頼むよ」

「ああ」


 背中越しに声を聞き、もう一歩だけ前に進み、剣を静かに構える。

 一方のグランホークは階段上で俺と相対し、こちらを睨みつけていた。


「結局目論見は全てお前に阻まれる、か」

「俺を殺せば、逃げられるかもしれないぞ?」

「そうだな……それしかなさそうだ」


 あくまで余裕の顔。膨れ上がった力を過信し、魔王すら滅ぼせると思っているに違いない。

 彼を見て、本性が剥きだしになっていると確信する。これが、目の前にいる彼こそが、本来の姿――


「……救われることは、決してない……か」


 俺は断じた。例えこの場で改心したとしても、決して目の前の姿はなくならないはず。その野望がくすぶっている限り、いつかは秩序を乱すだろう――ならば、倒すしかない。


「……行くぞ、グランホーク」


 短く告げる。彼は応じるように、跳んだ。

 剣にまとう力を増幅させる。刀身が白銀に発光すると同時に、グランホークが迫る。

 こちらは光を伴った斬撃。対するグランホークは、全身全霊を込めた必殺の手刀――


「終わりだ――!」


 喜悦と共に、グランホークが宣告する。しかし、俺は認識していた。彼の一撃、それは決して――

 剣と手刀が衝突する。魔力が拡散し、広間全体を大きく振動させる。


 俺の剣はグランホークの腕を両断することはできなかった。しかし彼もまた、俺の剣を弾くことができなかった。双方互角で、しばしせめぎ合う。


「ぐっ……!」


 グランホークが呻く。おそらく彼は押し通せると思ったのだろう。だがそれは誤りだった。俺の方はエーレと戦った経験からか、正確に力量を読んでいた。

 この状況で、不利なのはグランホークだ。もし双方の力が相殺すれば、守る力がなくなった腕は切り裂かれる。かといってこのまま退くのも隙が生じ、俺の一撃が入るかもしれない。


 それを裏付けるが如く、グランホークの瞳に迷いが生じる。攻めるか、退くか――


 やがて彼は、後者を選択した。剣戟に圧されるようにして後方に跳ぶ。すかさず体勢を整え、再び手刀を放つべく力を収束させる。


 一方の俺は出力を上げた。シアナの指輪を利用した力が、剣先に凝縮していく。

 それは間違いなく、グランホークにも伝わった。彼は力を集めた手刀をかざしながら、驚愕する。


「お前、は……!」


 何か言い掛けたが――俺は構わずグランホークへ横薙ぎを放った。彼は腕を差し向け防御するが、斬撃により腕の魔力が消失する。


 俺は一度剣を引く。そして間髪入れずに剣を握り締め――上段から振り下ろす。

 グランホークは避けようと僅かに動いた――しかし間合いからは逃れられず、一撃をその身に受けた。


「が――」


 呻きに近い言葉の後、グランホークの体が手や足先から徐々に灰となっていく。


「……グランホーク」


 塵と化していく彼を見ながら、俺は声を発した。彼は憎悪を込めた視線で睨み――その中で、静かに告げた。


「その力は……お前の、本来の力だよ」


 どこか悲しげな響きを持たせた声――グランホークの目の色が変わる。憎しみではなく、驚愕に近い視線。


「だからこそ、俺達はここに来た」


 グランホークはただ俺を見返し――やがて、全てが消え失せる寸前、微笑んだ。


「――残念、だな」


 それは誰に向けられた言葉だったのか。俺なのか、それとも自分なのか――

 答えの無いまま、グランホークは消える。俺はやるせない気持ちを抑え、ゆっくりと息をつく。


 正面には、階段を挟んで玉座があった。主を失ったそれは窓から差し込む光によって、僅かに輝いているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ