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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者争乱編

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勇者に対する違和感

 カレンを待つ間に俺はミリー達から情報を収集することに。その対象は無論、勇者バルナ。


「ミリー、オイヴァから多少なりとも事情は聞いているけど、勇者バルナについてどういう感想を抱いた?」

「とてもフレンドリーでおかしいところは別になかった……のだけれど、なんだか違和感もあって」

「違和感?」

「俺達が偏屈ってだけかもしれないが」


 と、フィンが語り出す。


「なんというか、例えば魔族が人間に取り入って密かに暗殺しようとするとか……そういう悪巧みをしているような感じに見える」

「怪しいところは何もないんだろ?」

「むしろそういうのがなさ過ぎて違和感があるというか……ほら、悪徳商法とかで価値の無い物を売りつける商人とかは、商品を売るために親身になって話をするだろ? そんな雰囲気なんだよ」


 ……俺達も旅をしていて色々あったからな。親しげに寄ってくる相手に対して警戒を抱くようになっているので、その辺りが関係しているのかもしれない。


「なあセディ、さすがに彼らの勧誘に乗るってことはないだろ?」

「勇者バルナは戦士団を率いているんだったか……嫌か?」

「俺はセディと組むのが面白いと感じている身だからな。正直セディ以外の誰かが主導で動くってなると乗り気じゃないし、嫌だな」


 率直な意見。感情の問題なのかと思うところだが、この感情が魔族との戦いで大きく左右することもまた事実。

 実際「仲間のために戦う」という気持ちは魔族との戦いにおいてかなり重要なものとなる。士気を上げることに一役買うし、絶望を振りまく魔族相手に心を折れずに立ち向かうことができる……そのリーダーとなる人間が信用できなかったとしたら、下手すれば敵前逃亡なんて可能性もあり、良い方向にはならない。


「……俺自身、傘下に入る気はないよ」


 そう口にする。フィンとミリーは納得した様子。


「そうか。まあその言葉が聞けたなら安心だ。後は好きにしてくれ」

「わかった」


 この場合、魔物討伐を無理矢理仕立て上げて様子を窺うって策もそうだが、適当な魔族との戦いの際に手を組むとか、そういう形になりそうだな。傘下に入って情報を手に入れるより、手を組む方がこちらとしても、仲間達も動きやすいし。


「クロエさん、同じ西部出身として何か情報ってないか?」


 フィンが訊く。当の彼女は小首を傾げ、


「私は魔族と戦っていたのに対し、勇者バルナは人間相手の勇者をやっていたのよね。全然戦っていたフィールドが違うし、私も知識はほとんど持っていないわ」

「そうか……しかし人間相手に勇者をやっていた人間が、なぜ急に魔族と戦うようになったのか」

「何か悪い噂とかはあるのか?」


 こちらの問い掛け。それにフィンは肩をすくめ、


「いや、特にないんだけど……ああ、けど一つ。魔族と戦い始めて幾度か勇者が亡くなっているみたいだが……まあ魔族と戦う以上仕方のない話か」

「そうかもしれないが……戦力確保のために俺達を?」

「そういう意味合いも強そうだが、本来の理由は他にあるって可能性もあるのかな」

「うーん、どうだろうな……」


 俺は声を発しながらフィンとミリーの二人を見やる。

 二人ともあんまりいい表情はしていない……こういう勘って結構当たるからな。


「会って話をする時わかると思うが、人当たりはいいよ」


 そんな感じでフィンはフォローする……いや、これはフォローではないか。


「けど、引っ掛かるものはあると思う……彼と共にいる勇者とかはそういう雰囲気でもないから、怪しんでいるのは俺達だけだと思うが」

「よほどのことがあったのかしら?」


 クロエが口を開く……そこでミリーもフィンも苦笑した。

 まあ、俺も思い出せる……勇者セディとして魔族と戦い続けていた身として色々あった。フィンもミリーも……そしてカレンも思うところはあるはずだ。


 以前、クロエの故郷で起きた戦いによって亡くなったニコラのことが思い出される。その時シアナは言った――人間最大の敵は人間だと。

 魔族との戦いはひどくシンプルで、そこに今回のような疑いを抱くようなことはない……しかし人間相手の場合、果たして相手は敵か味方か。まずそこから疑わないといけない。


 少しばかり憂鬱な気分になり……と、ここでノックの音が。帰ってきたようだ。

 フィンが返事をして、扉が開く。そうして現れたのはカレンで――


「――兄さん!?」


 まずこちらへ注目し、次いで駆け寄ってきた。


「良かった……ご無事のようですね」

「ああ。心配掛けてごめん」

「いえ、兄さんがこうだと思って行動していたわけですから、私は否定はしませんよ」


 にこやかに語るカレン……と、ここでシアナと目が合った。


「シアナ様も、よくぞご無事で」

「はい」


 ……ん、以前はいがみ合っていた感じだったのに、今日はずいぶんとおとなしい。

 そんな感想を胸中で抱いていると、カレンはこちらを見て、


「おとなしいと思いましたね?」


 心を読まれた。途端、クロエが吹き出す。


「……そちらの方は?」

「ああ、えっと――」


 クロエは自己紹介し、フィンが情報を提供。するとカレンは「そうですか」と答え、


「兄さんと共に戦っていただき、ありがとうございます」

「いえいえ、あなたの話はセディから聞いているわ。今回の仕事が終わるまでは確実に一緒に戦うことになるから、よろしくね」

「わかりました……ちなみに兄さん、何を言ったんですか?」

「いや、その……」


 クロエには確かにカレンのこととかを話してはいたけど……ついでに「シアナとあまり仲が良くない」的なことを伝えていたので、今回カレンの対応がおとなしくてつい笑ってしまったのだろう。


「ああごめんなさい、不快に思ったのならば誤るわ」

「いえ、クロエ様は悪くありませんよ……それで兄さん、何て言ったんですか?」


 ……なぜ俺に圧力を。ただカレンの表情はいつもと変わらないので、何を考えているのかわからない。

 これはどう答えたら良いのだろう……と悩んでいたら、突然カレンは破顔した。


「冗談ですよ、再会したら少しイジワルしようと思っただけです……それで兄さん、勇者バルナと会いましたか?」

「いや、これからだけど……カレンは今回のことをどう思っているんだ?」

「フィンさんやミリーさんと同じ見解です」


 全員一致というわけか……レジウスに視線を向けると彼も頷いた。


「……わかった。全員の考えをくみ取った上で話をさせてもらう」


 仲間達は頷く……さて、早速だが大きな山場を迎えそうだった。


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