戦士団の行動
勇者ラダンの一派と、俺の仲間達が接触した……それについて最大の問題はラダンの一派が俺の仲間だとわかって接触したのか、それとも偶然なのか――
「現在戦士団は各地を巡り人を集めています」
そうエーレの弟であるディクスは解説する――彼から一報を聞いた後、俺達は場所を会議室へと移した。
「目的としては魔族を討つということで人を集めていると……実際に魔族が住む拠点を攻め、追い払ったケースも存在します」
「そこに何か問題はあるのか?」
問い掛けたのはエーレ――ちなみにこの場にいるのは俺とシアナ、エーレにディクス、さらにクロエとファールン。
「戦闘については、特段怪しいところはなかったと」
「ふむ、元々彼らは人間相手に勇者をしていたはずだ。それが方針を変えて魔族に狙いを定めるようになったのか?」
「そのようですね」
コクリと頷くディクス。ふむ、これだけ聞くと俺の名声などを聞きつけ仲間と接触したというだけなのだが、
「ディクス、表情からすると懸念があるようだな」
「はい……魔族との戦いの最中に、幾度かスカウトした勇者が死亡しています。大いなる真実を知らない魔族と交戦をしているケースもあるため、ここについてもある程度は理解できる、と思っていたのですが……」
「どうした?」
「……断定したことは言えないのですが、戦士団の誰かが魔族との戦いに乗じて勇者を殺したと、魔族から報告が」
ずいぶんと物騒な話になってきた。
「とはいえ直接現場を見ているわけではなく、魔物などと交戦していない状況下で亡くなった勇者がいたということから、交戦した魔族はそう推測したようなのですが」
「なるほど、勇者をスカウトし、何かしているというわけか……」
「あくまで可能性ですが」
「それが神魔の力とどう関係あるのかしら」
クロエが口を開く。全員が一考し、やがて口を開いたのは――シアナ。
「そこについては調べなければなりませんが……情報からすると、勇者が所持していた武具や力を何らかの方法で奪う、といった行為をしている可能性が考えられますね」
「奪う、ね……人間同士との戦いでそういうことをするのはまずいと考え、死んでも魔族のせいにできるからそういう活動にシフトしたのかしら」
「力を得ることが、目的ってことか」
俺の言葉にクロエは「そうね」と応じる。
「戦士団については私も噂程度には知っているけれど……もし勇者を殺し力を奪っているのだとしたら、団長が主導でしょうね」
「だと思います」
頷くディクスは、さらに説明を加える。
「名はバルナ=ヴェイト。大陸西部に存在する勇者の中でも実力としては上位に入るでしょう。先ほどシアナが力を奪うといった説明を行いましたが、それを裏付けるようにバルナは最近になって力をつけてきました。周りには魔族との戦いにより武具などを得られたためと説明していますが……」
「勇者イダットといい、ずいぶんときな臭い話だな」
俺のコメントにディクスは「はい」と返事をした。
「神魔の力……果ては『原初の力』とどう関係があるのかわかりませんが、少なくともバルナは今以上に力をつけるという野心を持っているようです」
「仮にスカウトした勇者から力を奪っているとして、それに神魔の力が用いられている可能性は高いな」
俺は口元に手を当て、思考しながら言葉を紡ぐ。
「あの力なら相手の勇者がどれほど力を持っていようとも防ぐことはできないし、また防御に転用できれば相手の攻撃が通用しないし、返り討ちに遭う可能性は低い」
「例えば対象相手と二人っきりになれれば、策を遂行できそうだな」
エーレが続く。
「戦士団自体規模もそれなりにあるため、全員が全員グルという可能性は低いとは思うが……仮に全員グルであったとしても、さすがにスカウトした勇者が立て続けに消えれば怪しまれるし、納得しない者も出てくるだろう。もしバルナ以外にそうした行為に参加している者がいたとしても、少数と考えるべきか」
「かもしれないな……ディクス、現在彼らはどこにいるんだ?」
「ジクレイト王国です」
……あそこか。騒動を一度解決して以降訪ねてはいないけれど。
「セディ様の仲間であるカレン様達も、現在そこに滞在しています」
「魔族側としてはやりにくいんだよな、あそこは」
「連絡がガージェン以外とれないからな」
魔族の名を口にして、エーレは応じる。
「とはいえ今回は前のように回りくどいやり方は必要ない。ガージェンを通じて一切の事情を説明しておこう」
「女王アスリに対し、神魔の力のことは話したのか?」
「まだやっていないが、これを機に説明しておこう……しかし女王には申し訳ないな」
頬をかくエーレ。まあ「これから騒動が起きる」という旨を伝えるわけだから、あまりいい気分にはなれないだろうな。
「セディとシアナ……そしてクロエ。ディクスと共にジクレイト王国へと入ってくれ。セディの仲間と接触しているのなら、偶然を装い戦士団と接触するのは容易いだろう」
「そうだな……問題は戦士団が俺達のことを把握しているか、だな」
「勇者ラダンと情報共有しているわけではないようだが……まあそこはセディと顔を合わせた段階である程度察しがつくだろう」
「俺達がやることは彼らと接し、実際に俺達が推測したことをやっているかどうか……その証拠集めかな」
「簡単に尻尾を出すとは考えにくいが……それに見た目上、彼らは魔族を討伐しているため人間側としてみれば良いことをしている。明瞭な証拠がなければ対処はできないだろうな」
「そっか……ちなみに女神などの協力は得られるのか?」
「ああ、そこについても連絡はするつもりだ。アミリースによれば彼らの件で少々騒動があるらしいからな」
「神側でも、か?」
「詳細は語ってくれなかったのでこの話し合いで議題には挙げなかったが、そういうことらしい」
勇者バルナは結果として魔王と神双方に喧嘩を売っている形になるのか……? それをわかってやっているのだとしたら、相当無謀だぞ。
「加え、戦士団は大陸東部へ入りますます勇者の勧誘速度を上げているようです」
さらにディクスが続ける。
「大規模な魔族討伐を行うとのことですが、西部だけではなく東部に足を運ぶほどとなれば、何か嫌な予感がします」
「そこまで性急に人集めをするというのは……」
これが本当に魔族を討つだけならいいんだけどな……きっとそういうことではないのだろう。
「わかった。それじゃあ俺やクロエが彼らと顔を合わせ、探りを入れることにしよう」
「頼むぞ、セディ……国側には何かあればすぐ連絡が届くように伝えておく」
「ああ……と、そうだ。ディクス、現在俺のことは仲間にどう伝えているんだ?」
「騒動が騒動を呼び、各地を転戦していると」
「まあ事実だし、大いなる真実のことを伏せれば大丈夫そうか……クロエ、口裏は合わせてくれよ」
「ええ、わかっているわ」
「よし、結論に至った――行動を開始しよう」
エーレが手を鳴らし告げる。それと同時、俺達は弾かれたように動き始めた。




