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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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夜明け

 戦いの途中で俺達はファールンから渡された薬を飲む。それにより疲労感が消え去り、集中力も元に戻る。


「すごい薬ね。いくらかくれないかしら」

「副作用云々は言っていなかったけど、あんまり飲むと体に異常が出るんじゃないか?」

「そんなものかしら」


 飲み干すとクロエは剣を構え直す――彼女が神魔の力を保有する魔物を倒し始めてから一気に数が減り始めた。だがそれでも殲滅には至らない……まあでも、半分くらいは倒したか。

 それにクロエの方でも魔物を狩る能力が上がっているため、ここからはさらに早くなる……ただ本当に夜明けまでかかるかもしれないな。


「クロエ、いけそうか?」

「薬で魔力も戻ったわ。戦える」

「わかった。俺も慣れてきたし、このまま押し通すぞ」


 剣に魔力を込める――異常事態であり、本来はあってはならない戦い。けれどそれが俺達に利する結果となる……間違いなく、勇者ラダンとの戦いで大きな糧となるはずだ。

 そうして俺達は剣を振り、魔物を撃滅していく。シアナ達の援護により外に出ることもなく、ただ俺達へ向かうように迫ってくる。けれどそれに俺とクロエは難なく対応。


 その時、上空に強い光が現れた。俺達の周囲の他に砦周辺を明るく照らし……魔物の数がおぼろげながら理解できる。


「確かに多い……けど、たぶん峠は越したかな?」

「おそらくね……ちなみにセディ、数とか数えていた?」

「いや、数えると憂鬱になりそうだったから」

「そう。私も同じよ」


 一閃。それにより吹き飛ぶ魔物。


「私の剣で十分倒せるようになってきたわ。良い修行場だったってことね」

「あんまりいい展開ではなかったけど、勇者ラダンとの戦いにおいては実りのある戦いだったかな」

「原初の力ってやつを手に入れることができるかしら?」

「どうかな……そうだ、クロエ。勇者ラダンと出会った時――」

「誘われるかもしれないって話ね。安心して」


 と、クロエは笑みを浮かべた。


「私のことをラダンが調べたのなら、ニコラのことを利用して味方に引き入れようとするって話でしょう? そのくらい予想しているわ」

「大丈夫なのか?」

「……少なくとも、私自身勇者ラダンの考えには賛同しないし、したくない」


 その言葉は、明瞭なものだった。


「それに、ニコラだって望まない」

「そっか……けどクロエ、もし思うことがあったら遠慮なく相談してくれよ」

「心配してくれるってわけね……けどそれは、私が裏切らないよう色々してくれるってことでしょう?」

「それもあるけど、一番は単純に心配だから」


 言葉の直後、彼女は突然笑い出した。


「って、何だよ。こっちは真面目に心配してるんだぞ」

「ごめんごめん……しかしセディ、あなたはずいぶんと真面目ね」

「もっと軽く物事を考えられる性格だったら、悩まずに済んだかもしれないけどな」

「ま、そこがたぶんセディのいいところなんでしょう」


 笑みを絶やさず彼女は魔物を屠る。気付けば周囲には魔物がいなくなっていた。


「その言葉、しかと胸に刻んでおくわ」

「ああ。真実を知って大変だろうし、その辺りのことは俺もよく理解できている……気兼ねなく言ってくれ」

「ええ、ありがとう」


 そんな会話を行いながらも俺達はひたすら魔物を倒していく……気付けば空が少しずつ明るくなっていく。薬を飲んだため疲労感はないが……本当に夜通し戦ったのだと認識し、少しばかり眠ってしまいたい衝動に駆られた。






 全ての魔物を倒し終えたのは、陽が出た直後のことだった。


「これで終わりか……」


 最後に残った魔物を倒し、俺は大きく息をついた。


「クロエ、大丈夫か?」

「さすがに疲れたわね。でもまあ、魔物が現れてもまだどうにかなるわ」


 肩を回しながら彼女は応じる。最終的に彼女の剣も神魔の力を宿し、一撃で魔物を倒せるようになった。

 俺とクロエ、双方がかなりの力を得たのは間違いない。


「お疲れ様でした」


 シアナが近づいてきて俺達へ述べる。見れば彼女の後方にはファールンを始め他の魔族達の姿も。

 砦からも魔族が姿を現し……またその中には勇者イダットとキラフを担ぐ者がいた。


「魔物が発生する術式も破壊できましたので、これで完全に終了です」

「そっか……もし何かあれば、すぐに連絡してくれ。俺とクロエでどうにかする」

「頼もしいですね。それではお二方、改めて城へ帰還してください」

「ああ」


 話し合いはひとまず寝てからだな。一眠りすれば、シアナ達も砦の調査やイダット達について情報を得ることができるだろう。

 俺達はこの砦を訪れた地点へ移動し、魔王城へ。そこでエーレが待っていた。


「二人とも、ご苦労だった」


 労いの言葉に対し、俺は「大丈夫」と応じる。


「俺達は休むけど、いいよな?」

「ああ。眠っている間に今回の騒動について、ある程度決着をつけよう」

 頼もしい言葉。しかも発言するのは魔王なので、異様な安心感がある。

「勇者クロエも、活躍したそうだな」

「どうにか、ね。足手まといにならないようで安堵したわ」

「あなたの活躍が勇者ラダンとの戦いで大きくなるだろう……頼む」

「ええ、わかったわ。セディ、先に行っているから」


 クロエは手を振りながら広間を出た。


「……ふむ、大丈夫そうだな」

「クロエは十二分に力を得たよ。もしかすると原初の力につながる場所へ入れるかもしれない」

「そうか。とはいえ肝心の場所についてはまだ判明していない。できるだけ早く見つけられるようにする」

「魔族達が探しても見つからないとなると、心底面倒な場所にありそうだな」

「ああ、そうだな……セディ、今回の戦い本当にご苦労だった。勇者クロエも協力的であるし、勇者ラダンを出し抜く準備については整った。神魔の力も十分高めることができたことに加え犠牲者もなく勇者ラダンの一派を潰した。大戦果だ」

「次も勇者ラダンの一派と戦う……で、いいのか?」

「そこについては情勢の流動的であるため、考えさせてくれ」


 何か気になることでもあるのか……と思ったが、あえて質問はしなかった。


「セディもひとまず休んでくれ」

「ああ、それじゃあ頼むよ」


 広間を出て、自室へ。長い戦いが終わり、体の力を抜くと睡魔が。


「……せめて風呂くらいには入らないと」


 とにかく眠る準備をしよう……そう決めて、俺は動き始めた。


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