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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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勇者二人

 やがて俺達は砦の近くまで到達し――シアナ達と合流する。


「セディ様、クロエ様、お怪我は……!?」

「大丈夫。シアナ達は?」

「問題ありません。敵の能力自体は低いので、他の者達も傷を癒やし迎撃しています。ただし神魔の力を保有する魔物が混ざっているため、面倒なことになっていますが」


 と、シアナは砦方面を見る。リーデスを含め魔族達が戦っている光景がある。ひたすら魔法を撃ち込んでおり、魔物はその数をガンガン減らしているのだが……ん、待て。


「シアナ、出現当初どのくらいの数が出てきたんだ?」

「砦の中をひしめくほどに」

「……俺達、外に出ていた良かったかもな」

「でしょうね。さて、先ほど言いましたが神魔の力を保有する敵が厄介です。勇者イダット達が使用していた力を比べれば魔力量も少ないので魔法を撃ち込み続ければ倒すことができるのですが……竜種と戦っていると思うほどに耐久力が高い」

「とりあえず対応はできているのか」

「セディ様達は倒しながらここまで来たんですよね?」

「ああ、そうだな。基本的には俺が担当しているんだけど、クロエも少しずつ傷を負わせることができるようになってきた」


 その言葉にシアナは目を見開く。


「クロエ様が?」

「ま、私の才能ってやつかしら」


 冗談めかしく述べるクロエ。俺が「おい」とツッコミを入れると彼女は小さく肩をすくめ、


「とりあえず斬れてはいるけど、現段階で倒せるほどに強くはないわ。だから期待はしないでね」

「わかりました。外も同じような惨状のようですから、まずは砦の外をどうにかしましょう」

「どのくらい時間が掛かるかな?」

「わかりませんが……もう召喚はされていないようですが数が数ですし、夜明けまでに終わらせることができれば御の字でしょうか」


 長い夜になりそうだな……いやまあ、この砦に踏み込んだ時点でそれは予想できたことか。


「よし、なら俺は森へ――」

「いえ、セディ様とクロエ様はここにいてください」


 そう言うとシアナは手をさっと振った。するとリーデスと魔族の一人がこちらへ駆けてくる。


「シアナ様、実行されるのですね」

「ええ、リーデス。あとは――」


 言葉の直後、上空より気配。飛来してきたのは、ファールンだった。


「シアナ様、ご指示によりここへ」

「ええ、それでは始めましょう」

「何をするんだ?」


 こちらの疑問にシアナはニコリとなった。


「敵を囲います」

「囲う?」

「現在魔物は結界内を縦横無尽に動いています。どうやら魔物の発生は収まっているようですが……これではいずれ結界を壊し外へ出る可能性がある。よって逆に敵を内へと追いやることで、その動きを制限します」

「あなた達が魔物をけしかけるの?」


 クロエの質問にシアナは深々と頷いた。


「はい、そういうことになります」

「わかったわ。私達は何をすれば?」

「私達で砦へ魔物を寄せますから、お二人で敵を倒してください」


 俺やクロエはこの場に立っているだけで吸い寄せられる敵を倒し続ける、と。


「了解したわ。セディ、頑張りなさいよ」


 クロエの発破の掛けるような言葉で……俺は思わず吹き出してしまった。


「何? どうしたの?」

「いや、ごめん。なんでもないよ」


 訝しげな視線を投げる彼女に俺はそう応じた。

 なんとなくだけど、仲間のミリーのことを思い出した。大きな戦い前、カレンと同様ミリーから色々と言われていた。


「では、しばしこの場で交戦をお願いします」


 シアナはそう告げると魔族と共にこの場を離れる。残された俺達は、再び周辺に存在する魔物の掃討を始めた。

 数が多いだけで、油断さえしなければ大丈夫……だと思うのだが、この数はさすがに脅威であり、なおかつ下手に攻撃を受けたらまずいことになる。なおかついつ終わるかわからないことは疲労を蓄積させ、集中力をすり減らす。


 一人で戦っていたら、精神的に追い詰められてしまったかもしれない。だが、今は――


「クロエ」

「なあに?」

「ありがとう、この世界の真実を知り、戦いに参加してくれて」


 面食らった表情。次いで彼女は戦う前に発したようなため息をついた。


「もう少しムードのある場所で言ってほしかったわ」

「どういう所なら納得いったんだよ?」

「そうね、例えば魔王の城にある私の部屋とかかしら。そのまま雰囲気に流されて一夜を共にするところまでがセットかしら」

「冗談もほどほどにしてくれよ……」

「あらそう? 一応真面目な話をすると、私だって完全に納得していないからね。でも魔王の行動を推し量るのに、現在の境遇は都合がいいって感じかしら」

「それでもいいさ。クロエ、改めてよろしく」

「ええ」


 その時、周辺に変化が。魔力が感じられたかと思うと、魔物の雄叫びが発生。


「始まったか」

「魔物が押し寄せるかもしれないし、セディも覚悟決めなさいよ」

「わかっているさ」


 応じた直後、徐々にではあるが周辺の気配が濃くなっていく。俺とクロエは近くに来る敵をひたすら迎撃するだけなのだが、魔物の密度が濃くなっていく。

 とはいえ一斉に襲い掛かられたら至極面倒……それはシアナ達もわかっているのか、魔法を使って進路妨害などをしているようで、時折魔物の動きが極端に鈍るのがここにいてもわかった。


「私達の動きを考慮して囲い込んでいるんでしょうね」


 クロエがふいに告げる。俺は「そうだろうな」と同意しながら、神魔の力で魔物を撃破。

 剣に魔力を集めて斬るのもだんだんと慣れてきた。魔物の出現は予想外で心底厄介ではあるが、こういう機会でなければ神魔の力を高めることができないのもまた事実……皮肉な話だがこればかりは仕方がない。戦いは起きてほしくないが、戦わなければ強くなることもできない。


 そして今は、勇者ラダンとの戦いに備え強くならなければならない……彼の一派と接触し凶行を止めることは考えていたが、それは基本的に何かをやる前に終わらせたいというのが本音だった。しかし現実は彼らが作った魔物を倒している……まあ、被害が出ていないのが幸いだったか。


「これだけの魔物……やっぱり帝国を侵略する気だったのかな」


 俺の小さな呟きに、クロエは「そうね」と応じた。


「だからこそ、勇者イダットは研究所を狙ったのかもしれない……自分達の研究を高め、その上でどうにもできない神魔の力によって圧倒する」

「何が目的だったのか……」

「それはいずれシアナさん達が明かしてくれるでしょう」


 答えながらクロエは切り払う。その魔物は神魔の力を所持していたようで、クロエの斬撃を受けても滅びなかったのだが……その体に大きく傷が生まれた。

 それは動きを大いに鈍らせるものであり――クロエは好機と悟ったか前に出て大剣を幾重にも放つ。


 剣が次々に叩き込まれる。迫力ある光景が闇夜の下で行われ……やがて魔物は倒れ伏し、滅ぶ。


「……イケるわね、どうやら」


 その顔には笑み……それは好戦的で、自信に満ちたものだ。


「セディ、こっちはこっちで上手くやるからよろしく。あ、でも援護が欲しい時は言うから」

「わかった……背後は任せたぞ」

「ええ」


 背中合わせとなって攻勢をかけ……魔物の数が一気に減り始めた。


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