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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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異常事態

 一瞬、周囲を鳴動させるような魔力が生じた。


 何事かと思った矢先、周囲に禍々しい変化が。砦の周辺の大地……そこから、魔力が湧き上がってくる。


「何よ、これ……!」


 クロエもこの事態に絶句し、砦の方角を見据える。俺の同じような心境だった。一体これは――

 刹那、砦の周辺に異変が生じる。暗がりであまり見えないが、どうも土が盛り上がっているように――


 ゴボッ――変な音がすると同時、そいつらは姿を現した。同時闇夜の中で狼の遠吠えにも似た雄叫びを上げ、俺達をさらに硬直させる。

 異常事態――それが明確にわかったため、俺はどうしようか迷った。結界の外へ出るべきか、それとも砦に戻るべきか。


 そこでゴボリと近くで音がした。ここに来て俺は魔法で明かりを生みだし、その姿を確認する。

 人の形をしていた……が、ボロボロの衣服に体と、まるで死体のようだった。そして虚ろな瞳が光に反応してかこちらを向いた矢先、


「ふっ!」


 クロエの声。気付けば大剣を横に一閃し、敵を両断する。


「まずいわね、これは」


 敵は両断されたことで塵と化す。これがどういう存在であるのかは理解できた。すなわち、


「キラフが作り上げた、不死者か……」

「そのようね。しかもこれは……」


 クロエが呟く間に状況がさらに混迷を増していく。気付けば砦からも物音が生じている。シアナ達も戦い始めたらしい。

 なおかつ周囲から不死者が大地から次々と這い出てくる。その数は尋常ではなく、この辺り一帯に仕込みがなされているのを理解できた。


「これだけの数を……キラフ一人が作ったのか」

「それだけ相手が天才だったか、時間を掛けて生成したのか……ま、後者でしょうね」


 クロエが近くにいた不死者を一閃。ここで彼女は俺へ首を向け、


「数が数だからまずいわね。一度砦に戻りましょう」

「ああ」


 素直に返事をして、俺とクロエは敵を蹴散らしながら砦へ向かい始める。敵は強くない。だからシアナ達に任せて帰ってもよさそうだが――


「さすがにこれで帰ろうとは思わないよな」

「そうね」


 クロエも同意。さて、俺達はどうすれば。砦の中はシアナ達がいるだろうから問題はないのだろうか?

 ともあれひとまずは周辺の敵を駆逐するところから……俺は手近にいた不死者をぶった切る。抵抗は一切なく、あっさりと塵となる。


「個体個体は弱いけど……」

「油断するのはまずいわよ」


 クロエが述べる。確かにキラフが生み出した不死者である以上、場合によっては神魔の力を保有している可能性も。

 そんなことを考えていると、一体が俺達へ迫る。しかも雄叫びを上げながらであり、恐ろしい光景であった。


 ただ体はきちんと対応する。こちらが先に動くより早くまずはクロエが仕掛けた。突進しようとする不死者に対し彼女は素早く一閃。大剣を華麗に振り回し、不死者へ横薙ぎ。それにより撃破――と思った時だった。

 不死者は滅びなかった。それどころか吹き飛んだだけですぐさま体勢を立て直す。


「どうやら、こいつは……」

「神魔の力を保有している敵か」


 クロエの呟きに反応しながら、俺が動く。神魔の力――ラダンから手に入れたその力を刀身に集め、一閃した。

 すると、驚くほどあっさりと不死者は消滅。うん、この技法は通用するな。


「クロエ、どうする?」

「どちらにしろ、数が数だからね。とにかくシアナさん達と合流しましょう」

「わかった……突破するぞ!」


 俺は叫び砦へ走るべくまずは不死者の一体を倒す――そこからわかったこととしては、神魔の力を保有する個体とそうでない個体が存在するようだ。

 比率としては十いるうちの一くらいが神魔の力を保有している個体だろうか……これについては俺が対処する。砦の中にも同様の個体がいるのなら、シアナ達にとっても厄介な相手となるから、急がないと。


 ただ外見上はまったく区別がつかない……クロエが斬って消滅しなかった存在ということしか判別方法がなく、これは心底厄介なわけだが――


「しかし、数が多いな……!」


 地中から湧き出てくる敵を見据えながら声を発する。現在も際限なく出現し続けており、全容がわからないが砦の周辺の大地から出現し続けているとなれば……。


「実は俺達、かなりの勢いで帝国を助けていたりしないか?」

「でしょうね」


 クロエが律儀に答える。


 圧倒的な敵の数……これが単に砦の防衛のために仕込まれたものだとは思えない。総数は不明だが、現時点で百以上はいる。下手するとそれ以上……? ともかくこんな無茶な数を作り上げたキラフがやろうとしていたことは――


「セディ! こいつ斬れない!」


 クロエの声が飛ぶ。俺はすかさず神魔の力を利用してその個体を叩きつぶす。

 とにかく神魔の力が厄介だった。それさえなければ単なる殲滅戦で終わるのだが――


「セディ様! クロエ様!」


 声……それはファールンのものだった。

 気付けば頭上から彼女が飛来してくる。俺とクロエは敵を蹴散らしながら彼女の言葉を待つ。


「砦の周辺に不死者が大量に出現……しかもそれは外に出ようと動いています」

「結界の外には出ていないのか?」

「不死者を呼び寄せる魔法が発動しているのですが、その範囲は結界内で収まっていますので」


 そこだけは不幸中の幸いか……などと思ったのだが、


「最悪なのは、不死者の中に神魔の力をもつ存在がいること」

「ああ、どうやら俺にしか倒せないみたいだけど」

「その個体だけ、結界を破壊できる能力があるようです」


 ――最悪だ。そう思った矢先どこからか轟音が聞こえてきた。


「今のは……」

「結界を張る魔族が神魔の力を持つ不死者を吹っ飛ばしたのでしょう。結界の外側から魔法を行使し、外に出ようとしている敵を内側に追いやっています」


 なるほど、クロエだって攻撃は効かずとも吹き飛ばすことはできた。これを利用し外へ出ないようにしているのか。


「とにかく神魔の力を保有する個体だけでも処理しなければ……!」

「といっても俺一人だろ?」

「丁度良い練習相手がいるという認識で戦ってもいいのかしら」


 ふいにクロエが何事か言い出した……って、それはもしや。


「やれない話じゃないでしょ? セディと共に戦っていれば何かつかめるかもしれないし」

「って、おいおい……それはいくらなんでも無茶では――」

「セディの魔力の流れはおおよそつかんできたからね。もしかすると、もしかするかもしれないわよ?」


 自信ありげな笑み。それに俺は苦笑を伴い、


「……わかったよ。今後の戦いにどうしても必要な部分だ。けど、無理はするなよ」

「ええ、わかっているわ」


 クロエは笑みを浮かべる――それはこれまで見た中で、一番晴れやかなものだった。


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