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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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魔族の攻撃

 イダットからは死角に位置する場所に俺達はいるが、リーデス達の戦いぶりは見ることはできる……まず全員が仕掛ける。とはいえシアナだけは動きが鈍い。後方支援に徹するつもりか?

 それに対し、イダットは手を振った。おそらく後方にいるキラフへの合図……直後、光り輝く柱から、結界を透過する神魔の力を用いた魔法が放たれる。


 魔族達は防御せず、回避を選択する。だがその数は相当あり、前進する魔族達は全てを回避することはできない。

 いや――回避するつもりもないか。多少負傷してもイダット達を捕まえることができればいいという判断か。


「さすがだな」


 イダットは称賛。魔法が雨あられと広間に降り注ぐ中、彼は剣に魔力を収束し始めたか、気配が濃くなる。

 そして前進する魔族の目の前に、彼が打って出る。振り下ろされた斬撃を魔族は光を浴びながら回避する。


 イダットが使用する力もおそらく神魔の力……勇者ラダンと比べれば未完成品だろうし、さすがに魔族を一撃とはいかないだろうけれど、当たり所が悪ければ戦闘不能になる可能性は十分ある。

 となれば、食らうわけにはいかない――しかし降り注ぐ光が魔族の動きをどうしても鈍くする。魔族としてはイダットに一撃食らわすまではいきたいところだろうけれど、それも叶わず後退を選択した。


「――素晴らしいな、この力は」


 イダットが呟くのをはっきりと耳にする。


「これだけの魔族を相手にして、渡り合えている……どうした魔族? さっきのまでの威勢はハッタリか?」

「これからだよ」


 リーデスは声を発しながら魔族へ指示。ただシアナは相変わらず動かない。

 そこで俺は一つ気付いた。ここまで目立った行動をとっていないシアナ……実力的に彼女はリーデスと肩を並べる――あるいは上をいくかもしれない。俺だって彼女の実力の底を見たわけではないし、全力で戦うような機会もなかったから未知数という評価ができる。


 そんな彼女をイダットやキラフはどう思っているのか……見た目からしてもおそらく彼女を脅威と見なしているわけではないだろう。もし事情を知っていれば――魔王の妹であることを認識しているなら、最大限の警戒をするはず。

 となれば、リーデスの作戦は……考える間に魔族二人がイダットへ肉薄する!


 魔法が生じているにも関わらずの突撃。だが鋭さはまったく衰えず、これまでとはひと味違うと確信できる。

 しかしイダットはあくまで余裕の表情であり、


「無駄だ――!!」


 切り払う。すると刀身から魔力が溢れた。それは間違いなく神魔の力を伴ったもの。

 魔族はそれを受けた。ダメージはしっかりとあったようで、小さく呻きながら両者とも後退する。


 これにより、イダットは笑った――哄笑と言って差し支えないくらいに。


「はははは! この力を脅威とするのも無理はないな!」


 ――油断、させているんだろうな。魔族達は負傷覚悟でイダットの警戒を緩ませる。魔族など恐るるに足らない……そういう認識をさせる。

 おそらくここまで作戦は成功している……が、イダットはすぐさま剣を構え直し、


「とはいえ、だ。魔族全てを滅ぼすまではこのままいくぞ、キラフ」

「わかっている」


 さすがに勇者ともあれば、油断はしないか……と、そこでリーデスは魔族を退かせた。


「ふむ、こっちが消耗しただけか」

「威勢は最初だけだったな」

「傍から見たらそうなってしまうね。けどまあ、まだまだこれからだよ」


 ――そこから、リーデスは魔族を用いて波状攻撃を繰り返す。時折シアナが魔法などによって援護もするのだが、神魔の力は攻撃魔法すらも平然と弾くため、焼け石に水といった状態だった。


 時に数体同時に――あるいは死角から攻撃を行うが、そこはキラフの魔法が的確に援護しイダットに付け入る隙を与えない。ならばキラフに狙いを定め……というのも難しい。どうやら彼のいる後方にはまだまだ魔法が仕込まれているようで、下手に攻め入れば多数の魔法をその身に受ける可能性があった。


 よって、リーデスとしては完全に手詰まり……残る手は光る柱の魔力が途切れることを待つのみだが、一向に減っている気がしない。イダット達としても長期戦に対する策は講じているはずで、下手すると魔族が滅ぶ方が先なんて可能性もある。

 ならば静観の構えをとる……にしても今度はイダット達が前に出ればいいだけの話。地の利は彼らにある以上、やりようだってあるだろう。


「魔族というのは、人間にとってみれば恐ろしく、また強大な存在だ」


 そう彼は口を開く。


「だが神魔の力を手にしたらどうだ……魔族という存在がひどくちっぽけに思えてきたぞ」

「僕らがあえて加減しているって可能性は?」


 そんなリーデスの、冗談のような質問が飛ぶ。


「遊んでいるなんて可能性もあるだろう?」

「そう思うなら本気を出せばいい」


 剣を構え直すイダット……どれだけ力を発揮しようとも神魔の力は絶対だ。結界は意味を成さないし、イダットも攻撃を弾き飛ばす。

 色々と手はあるはずだが、リーデスはここからどうする……と、そこでクロエから質問が来た。


「そろそろかしら?」

「……そろそろ?」

「私達の出番が、ってことよ……場が煮詰まってきているし」


 戦局的に、魔族達は徐々に疲弊している。イダット達が攻勢に出ても良さそうなものだが、まだそこまでには至らないという雰囲気。

 だが、クロエの言うとおり、場が煮詰まっている……もしリーデスが策を成すなら、こういう状況で、か?


「ま、状況が状況だけど……僕らのやることはシンプルだ」


 リーデスが指示を出す。それにシアナを除く魔族達は従い……イダットが迎え撃つ。

 今度は五体の魔族全員が同時攻撃。だがこれも魔法の集中砲火により防がれていた。圧倒的な発光が生じ、最初の時は魔族が弾き飛ばされるほどだったが――


「――クロエ」

「ええ、そうね」


 そうか、と思った。リーデスは攻めあぐねていたわけではない。おそらく敵の行動パターンを把握し、どの攻撃が策を実行するに適しているのかを判断したかったのだ。

 確信し、俺も足に力を入れる――同時、イダットの真正面で白くまばゆい光が炸裂する!


「例え魔族が一斉に来ても同じことだ!」


 勇者の叫び――視界は効かなくなったが、イダットとしては気配で魔族達の居所を把握していることだろう。

 だが、俺は次にどうなるか予想できる……光が消え始めた時、ギィンと金属音が鳴った。


 何が起こったのかはすぐに理解でき、光が消え視界の先にイダット達が映る。

 彼は剣をかざし差し向けられた拳を防いでいた。その相手は、リーデス。


「残念だったな。そのくらいは読んでいる。光に紛れ仕掛けたようだが、その程度で俺の目を欺くことは――」


 口が止まる。なぜなのかはすぐにわかった。


 魔族達はリーデスから一歩引いた地点で降り注ぐ魔法を回避している。一方リーデスはイダットとせめぎ合う形で、光を体に受けているが身じろぎ一つしない。ダメージはあまりないらしい。


 そしてイダットが言葉を止めた理由、それは――シアナの姿が消えていたからだった。


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