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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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勇者の表明

 広間の柱から生じた光が矢となって拡散し、俺達を襲う――即座に魔族は対応し、結界を形成し防ぎにかかった。

 だが、その結界を易々と貫通する光。同時、魔族に光が突き刺さる……!


「くっ……!」


 呻く魔族。だがやられるようなことにはならない。

 というより、魔力は柱から一挙に出ているわけではない……加減したのか。


「通用するようだな」


 イダットが呟くのを耳にする。また同時に魔族は回避に転じ、後続から迫る光をかわしてみせた。


「とはいえ、この程度では決定打にならないか――」


 呟く間に魔族からの攻撃。同じような光弾であったがそれをイダットは剣で消し飛ばす。

 柱はまだ輝いている。どうやら一気に放出するのではなく、断続的に光を発するつもりらしい。やり方としては正解だろう。


 光で牽制し、魔族に傷を負わせ各個撃破していく……イダットの作戦としてはそんなところだろうか。

 そうした中で俺がやるべきことは……シアナが一瞬こちらを見た。


 作戦開始というわけか……そこでクロエが発言する。


「セディ、私がアシストするわよ。こっちに来なさい」


 手招きして移動開始。柱によってイダット達が視界から消える。


「死角から攻撃するってことか」

「そうね。二段構えといきましょう。まず私が飛び出してイダットを攻撃する。通用するかどうかわからないけど、さっきの戦いぶりを見る限り魔法で傷は負わないにしても衝撃を受けたら吹き飛びそうな感じだからね。私が引きつけて体勢を崩したところで、あなたが攻撃する」

「神魔の力で、か」


 もっとも、チャンスは一度だけか……やり方は他にあるけれど、長期戦になれば下手すると魔族に犠牲者が出るかもしれない。さすがにそれは避けたいので、一気に決着までもっていきたいところだ。


「勇者を切り札とするか……!」


 その時、イダットが声を上げた。


「あの二人がこの力に抗えるのか?」

「さあ、どうだろうね」


 リーデスが答える。イダットの姿は見えないが、笑い声――嘲笑めいたものは聞こえた。


「よほど勇者を信用しているようだな」

「あの二人とは色々あってね。その経緯を知れば、あなたも勇者とはしくれとして納得もいくんじゃないかな」

「それほどの功績を残した、と」


 途端、苦笑が聞こえてきた。


「魔王や神を満足させる功績か……あの二人は、何をしたんだ?」

「さすがにそんな話をするつもりはないな。でもまあ一つ言えるのは、彼らは選択した」

「選択だと?」

「そう、選択……勇者ラダンを倒すという選択を」


 俺とクロエは見つからないように動く。たぶんイダットやキラフも俺達のことは探しているだろうけど、魔族達が魔力を拡散し、気配を追えないようにしている。

 少しして俺達はイダットがいる横手に到達。ただまだ彼から距離はある。


「様子をみましょう」


 小声でクロエが話す。俺は小さく頷き、剣を強く握りしめる。


「……つくづく思うのだけれど」


 と、ここでクロエが話し始めた。


「あなたって魔王を倒し、管理の世界に身を投じ……思い切りがよさそうなのに、戦いではずいぶんと消極的よね」

「そう、かな」

「というより、犠牲者を出したくない……魔族であっても無理はさせないって感じなのかしら」


 図星だった。頭ではこうして短期決戦を遂行する策が有効的なのはわかっている。けれど魔族達が無理をして、その結果倒れたら……例えエーレが滅んだ魔族を蘇らせるとしても、あまり気持ちのいいものではない。


「……優柔不断に見えるのは認めるよ」


 半ば苦笑しながら語り出す。


「それで色々面倒事を背負ったりもしたけどさ……」

「そう。言っておくけど、変えろと言うつもりはないわ。むしろ魔王はあなたのそういうところを見込んだのではないかしら」


 俺は彼女と目を合わせる……どういうことだ?


「魔族が傷ついても心を痛めるという事実は、つまり魔王側に歩み寄っているということでしょう?」

「そりゃあ、まあ……管理の世界で共に働くってことは仲間なわけだし」

「普通、価値観がひっくり返ってそんな風になれるとは思えないのよ……私が魔王に従うようになったのは、セディがいたからね」


 俺が……? 眉根を寄せていると、彼女は笑った。


「つまり、セディには勇者として確かな風格があるってことよ。あなたの自身導き出した答えには説得力があって、また惹かれるからついていこうとする」

「……それって、つまり――」

「決めたわ。私はあなたの相棒になる」


 あっさりとした口調に、俺は面食らった。ここが戦場でなければ、驚き声を上げていたことだろう。


「シアナさんでもいいだろうけど、彼女がいない時とか、あるいは勇者ラダンとの戦いで人間が必要なら、私がその役目を背負うわ」

「急にどうして……?」

「一番はあなたの行く末を見たくなったから、ね。この大いなる真実というものの中で、どう立ち向かっていくのか。それを見たくなったし、また勇者ラダンとどう戦うのか興味を持った」


 そこまで言うと、クロエは小さく……どこか悲しげに、笑った。


「ニコラだってきっと同じことを言ったわ。少しばかり慎重な勇者セディと相性がいいだろうって」

「……そっちはもう少し、猪突猛進な面を直した方がいいな」

「そうね」


 表情を戻し彼女は応じる――そしてクロエは柱の陰から勇者イダットを窺う。


「さて、膠着状態に陥ったわね」


 彼女の言うとおり、双方の攻撃が止まっていた。キラフはイダットの後方でいつでも魔法を発動できる体勢を整えている。そしてイダット自身は魔族と相対し、待ち構えている。

 一方の魔族達は迂闊に仕掛けない。先ほどの攻防のためか、魔族の中には傷ついている者もいた。時間が経てばそうした傷も癒えるとは思うが、さすがにそこまでイダットは待ってくれないだろう。


「あの勇者二人が柱の物陰で見ているのはわかっている」


 そうイダットは話し始める。


「忌々しいそっちの魔法のせいで居所はわからないが……ここから死角のある地点までは距離がある。どうしたって奇襲にはならないぞ?」

「そんな必要はないんだよ」


 リーデスは語る。その隣にいるシアナも、不敵な笑みを浮かべていた。


「ほう、必要はない?」

「そうだ……この状況に持ち込んだ時点で、僕らの勝ちだ」


 リーデスの気配が変わる。即座にイダットは剣を構え、キラフもどんなことがあっても対応できるように魔力を高めた。


「無駄だよ、どんなことをしてもこうなった以上、君達の負けだ」

「……ずいぶんな自信だな」

「油断しているとでも思ったかい? 別にそういうわけじゃない……例え二人がどのような攻撃を仕掛けてこようとも、どんな策を講じようとも、もうこの戦局はひっくり返せない」


 安い挑発――などと返答することはおそらく簡単だっただろう。だがイダットはリーデスの言葉を聞いて、何かを察した。


「つまり、こういうことか――策を看破していようとも無意味。魔族の力で、無理矢理成功させると」

「そういうことさ」

「ならば、やってみるがいい」

「ああ、遠慮なく」


 リーデスは語る――同時、魔族達は一斉に動き始めた。


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