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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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仕込み

 魔族が多数いるこの状況下で勇者イダットはどう動くのか……こちらが注目した矢先、彼が選択したのは前進だった。

 この状況下で突撃……!? さすがに無策ではないだろう。魔族も警戒し仕掛けようとはしていない。


 イダットは――それでもなお前に出る。狙いは一番近い魔族。

 すると魔族も反応。腕をかざしまずは火球を撃ち相手の出方を窺った。


 それにイダットは剣で対抗。斬撃を放つと魔法と接触し――突如パアン、と弾けて消えた。

 剣に何か仕掛けが……? 疑問に思う間にイダットが魔族へ剣を繰り出す。それを魔族は回避。しかし彼はなおも追いすがる。


 当然そうなれば左右から他の魔族が……だがそこへキラフが動く。腕をかざすと――突然、広間にある彼近くの柱が光り始めた。

 これは……城に仕込みをしていることは予想できたが、どういった効果なのか。


 それに対する魔族達の反応は、退却だった。イダットに攻められていた魔族を始め、左右に展開していた面々も即座に足を後方に。あっという間に距離を置き、イダットは小さく肩をすくめた。


「用心深いな」

「シアナ様」


 イダットと相対していた魔族が口を開く。


「あの剣……というより勇者イダットは、神魔の力を所持しています」

「先ほど魔法が消えたことからも、理解できますね」


 そうシアナは呟くと、イダットを見据えた。


「あなたの能力は、そうですね……神魔の力を応用した技術でしょうか。国の研究所を襲ったのは、その技術を完成、もしくは洗練するためだったのでは?」

「さあ、どうだかな」


 再度肩をすくめる。飄々としておりこちらに感情を悟らせまいとしているのだが……。


「残念ですが、心理戦は通用しませんよ」


 シアナは光っている柱に視線を移し、


「……なるほど、そういうことですか」


 何を理解した……? 疑問に思った矢先、彼女は発言した。


「勇者イダット、あなたの能力は『魔力を打ち消す』ものですね?」


 その言葉にイダットの肩がわずかに揺れた。


「神魔の力は魔族や天使に通用する技術だけではなく、そうした応用も効く……いえ、元々あなたはそうした方向性でこの力を扱おうと考えた。なぜなら、単純に力を強化しても勇者ラダンには勝てないから」

「……だったとしたら、どうなんだ?」

「私達にとっても類を見ない力……それがこうして応用ができると実証されたことに加え、少なくともあなた方がこれだけの技術を持っていることを証明しました」


 彼女の声音は、ひどく硬質で魔族としての雰囲気を前面に出している。


「そして光る柱……これもまた神魔の力を応用したもの。同様の特性を所持しており、砦の魔力を用いて私達に防ぐことのできない魔法をもたらす……そういう手法でしょう」


 イダットとキラフは沈黙した。ただその様子から正解なのだとわかる。


「本来ならば今すぐに放ってもおかしくない……ですが、それは無理。広範囲魔法であることは間違いないでしょうけれど、大規模な魔法である以上、一度発射すれば新たに使うために時間が掛かる……仕損じるわけにはいかない」

「……この短時間で、それだけ見抜くとは何者だ?」

「単なる魔族ですよ」


 平然と答えるシアナに疑いの眼差しを向けるイダット。

 それを見ながら考える……どうやらイダットは切り札を持っているらしい。だがそれは一度使えば後がなくなるもので、それでできれば勝負をつけたい。


 柱の方は魔法が発動すると変化があるためこちらにも「何かやろうとしている」ことはバレてしまうわけだが、イダットが上手くその辺りをやろうとしたのか。あるいは彼自身囮になり、一網打尽にする……そんな手を考えていたかもしれない。

 だがシアナがその全てを看破した……いや、まだ他に手段があるかもしれない。


「……セディ様、クロエ様」


 シアナが小さく――俺やクロエに聞こえる程度の声音で、発言した。


「リーデス達が引きつけます。私が突破口を開き、お二人で勇者イダットを戦闘不能にしてください」


 ――魔族達が囮になる、か。リスクの高い勝負だとは思うが、ここは多少無理をしてでも、といったところか。


「逃げるおつもりなら、全力で止めますよ」


 そこでまたもシアナが宣言する。


「むしろそうやってくれた方が行動も読みやすいですし、自らこの地の利を生かした所を脱するのでしたら、非常にやりやすい」

「……ま、確かにそうだな」


 イダットは呟く。ひとまず逃げという選択肢は潰したか。


「キラフ、状態を維持しろ」

「……わかった」

「手を読んだつもりのようだが、あいにくこちらは全てを出したわけではない。それにこちらの手を理解したつもりでも、どうやってお前達を滅ぼすか……その明確な手段まではわからないだろう? それで十分だ」


 それは真実なのか、あるいはハッタリなのか……奥の手があるのかどうかは気になるところだが、魔族達は攻勢をかけるべく一歩前に出た。


「どのような手があろうとも……ここで退くわけにはいきませんね」


 シアナの発言。するとイダットは笑い、


「それはこの世界の仕組みを守るためか?」

「その通りです」

「ずいぶんと真面目な魔族達だ……さて、どうするか――」


 彼がこぼした次の瞬間、魔族達が一斉に動いた。それに対しイダットは、笑みを浮かべたまま剣を構えた。

 明らかに誘っている。魔族達はここでまたも立ち止まった。


 光る柱とあえて待ち構えるイダット……それらを警戒する魔族。神魔の力がどれほど厄介なのかがわかる場面でもある。

 そうした中で俺は……シアナの言葉に従い魔族達が引きつける間に仕掛けるわけだが、果たして上手くいくのか。もし失敗したら、相手はどう動くのか。


「ま、なるようにしかなわないわよ」


 そこでクロエが声を上げた。


「セディ、不安になるのはわかるけど魔族をもう少し信用してもいいんじゃないかしら?」

「顔に出ていたか?」

「ええ、はっきりと」


 思わず苦笑する……そうだな。


 その時、とうとう均衡が破られ魔族側が仕掛けた。リーデスが先陣を切り、まずは挨拶代わりの魔法を放つ。

 雷撃だったのだが、イダットは剣を盾にして防いだ。弾けた音が響き、イダットは何事もなかったように反撃に転じる。


 斬撃を魔族達はヒラリとかわしたが……魔法が通用しないだけではないだろう。シアナの言うとおり魔力を打ち消す力を持っているとしたら、魔力をまとう攻撃も防がれてしまうかもしれない。

 イダットはなおも執拗に剣を振る。けれど魔族には当たらない……彼自身も牽制的な意味合いで仕掛けているのか、絶対に当てるという気概を持っていない雰囲気。


 この間にも広間に存在する光輝く柱から魔力が溢れてくる。どのような魔法かわからないが、確実に準備は済み放つタイミングを窺っている。


 ――この戦い、彼らの攻撃を受けとめられるかが焦点となるだろう。多勢に無勢という状況でイダットは平然としている。それは切り札に自信を持っているのも一つの要因だと思う。

 果たして――やがて牽制するイダットに変化が。また同時に光の柱の輝きが増した。


 来る……そう確信した俺は体に自然と力が入る。クロエもまた――そしてシアナが俺達の前に立った。

 どのような結末を迎えるのか……刹那、魔法が放たれ魔族達も反応し始めた。


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