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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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森の砦

 城内では特に何をするということもなく、心を落ち着かせて待つことにして……夜、いよいよ出発となった。

 転移魔法陣のある部屋へ向かうと、エーレが既に待っていた。少ししてシアナやリーデス、さらにファールンとクロエがやってくる。


「他の者達は既に戦場へ辿り着いている。合図と共に結界を構築できる」


 エーレの言葉でいよいよだと俺は気を再度引き締める。


「私は魔王城で不測の事態に備える。シアナ、隔離結界内でも連絡をとれる手段を構築してあるため、何かあれば即座に連絡を頼むぞ」

「はい、お任せを」


 ――そうして俺達は転移する。到着した先は暗闇に包まれた森の中。足下にある魔法陣がほんの少しだけ輝いて、唯一の光源となっている。

 とはいえ、視界はまったく効かない……と、シアナが明かりを生み出した。


「こちらです」

「明かりは大丈夫なのかしら?」


 クロエの疑問。それにシアナは「問題ありません」と返す。


「森はかなり深いですからね。勇者イダットの居所に加え、魔法により周囲に魔物などがいないかを確認しています。敵には気付かれていませんよ」

「その辺りは調査済みってことね。わかったわ」


 シアナを先頭にして森の中を進む。しばしガサガサとしげみをかき分ける音だけが周囲に響き……少しして、彼女が立ち止まった。


「あれですね」


 明かりを茂みの中に隠しながら彼女が言う。俺が前に出ると、真正面に砦が見えた。

 月明かりに照らされたその砦は……崖に沿うように建てられている。というより、崖そのものをくりぬいて作ったのではないかと想像できる。


 周囲は漆黒で森に囲まれていることは理解できる。うん、この渓谷に人が入らないのだとしたら、こんな場所に砦があるとは予想もつかないだろうな。


「明かりが見えるわね」


 クロエが呟く。彼女の言うとおり、砦にある窓のいくつかから明かりが漏れ出している。


「シアナさん、確認だけれどあの砦にいるのは勇者イダットと霊術師キラフだけなのよね?」

「あとは不死者の類いだけ……の、はずです。仮に人がいるにしても、魔力調査で引っ掛からなかったくらいなので、大した戦力ではないでしょう」

「人間がいるにしても、力を持っているのは二人だけってことか」

「そういうことです」

「魔族はどこに布陣しているんだ?」


 こちらの疑問。シアナは周囲を一瞥し、


「ここからは見えませんね。砦を囲うようにいますし、結界構築を行う魔族と顔を合わせることはないかもしれません」

「――では、私は行きます」


 ファールンが告げる。結界構築の指揮を任されている彼女は、ここで分かれるようだ。


「はい。ファールン、気をつけて」

「シアナ様も……皆様、ご武運を」


 そう言い残しファールンは去る。彼女のことだし、問題はないだろう。

 さて、俺達は……少し目を凝らすとどうやら目の前は崖になっている。どうやって下りるのか。


「シアナ、道はあるのか?」

「右手に崖に沿うように坂があります。おそらく砦に入るために作られたものでしょう」


 そっか、砦に入るために道だっているもんな。


「そこを使ってまずは近づきます……相手の意表を突いてできるだけ浮き足だった状態で仕掛けます」


 言いながらシアナは坂を下り始める。俺とクロエはそれに追随し、最後尾にリーデスが続く。

 ガサガサと草を踏む音以外、周囲から物音はしない。暗がりなので例え城にいるイダットが外を眺めていても気付かれるようなことにはならないだろう。


 少しずつ確実に俺達は進んでいく。道なりに進んでいくと、どんどん下へ下へ向かっていく。


「今のうちに戦闘が始まった時のことを確認しておこうかしら」


 ふいにクロエが告げた。


「セディが主役なのは間違いないでしょう? 私達は彼の援護をすればいいのかしら」

「敵は事態を把握した直後、魔物を用いて入口などを固めるはずだ」


 語り出したのはリーデス。


「そこでまず僕や他の魔族が攻撃をしてみる。神魔の力を相当所持しているのならば、魔物にだってそれを施しているだろう。僕らの攻撃が通用しなければ、セディが前に出て僕らは援護に回る」

「もし俺以外の攻撃が普通に通用するなら、全員で魔物を殲滅しながらイダット達を捕まえる、か」


 こっちの言葉にリーデスは「その通り」と応じる。


「普通なら勇者と霊術師……瞬殺できそうだけどね」

「リーデス、油断はするなよ」

「わかってるよ」

「……勇者イダット自身、どの程度の実力なのかはわかっているの?」


 クロエが問い掛ける。それに答えたのは、シアナだった。


「功績もありますし、色々とこちらも情報は持っています。結論から言えば、確かに強いですが、セディ様やクロエ様ほどではないかと」

「人間相手に勇者をやっていた、というところがポイントだな」


 俺の言葉。クロエも同意するように頷いた。


「そうね、言ってみれば私達のような人間相手に特化した技量を持っているってこと……神魔の力を持っているとしたら、セディしか相手にできないかもしれないけど、大丈夫?」

「どうにかするしかないさ。ま、シアナやリーデスもいるから手立てはいくらでもあるよ」


 返答した直後、とうとう坂を下りきった。砦がずいぶんと近くなり、俺達はそちらへなおも歩んでいく。


「シアナさん、合図を出したらすぐに隔離するのかしら?」

「はい、その手はずになっています」


 そこで立ち止まる。砦の入口……そこが見える位置まで接近することに成功した。

 問題の入口にはゴーレムらしき人間ほどの体格を持った土人形が二体。こんな辺鄙な場所で侵入者も何もあったものではないが……魔物よけだろうか?


「見張りがいるわね。結界で隔離して異変を察知したなら、いち早く動くかしら」

「おそらくは……では、始めましょうか。皆さん、心の準備はよろしいですか?」


 シアナの確認に対し俺とクロエは相次いで頷く。ただ、その前にもう一つ質問を。


「シアナ、他の魔族は?」

「結界を張る魔族の護衛です。隔離が完了したらこちらへ来る段取りとなっています。彼らが到着してから、侵入します」

「了解した……やってくれ」

「はい」


 言葉と共にシアナは地面に手を当てた。大地を介し連絡するのか。

 次の瞬間、パチリと彼女の手から音がする。いよいよだと思った矢先、周囲から淡く魔力を感じ取った。


「始まったわね」


 クロエが空を見上げる。俺も釣られて空を見ると、星空の手前に、魔力の層が現れるのをしっかりと感じ取った。

 シアナはなおも地面を手に当てたまま。問題はないのかと事の推移を見守っていると、


「……できました。隔離成功です」


 彼女が言った時、砦の入口にいたゴーレムが反応した。周囲を見回し、異常がないかを確かめるような動作をする。


「目とかあるのかしら」

「さあな。ああいうゴーレムは魔力を知覚して反応するタイプだろうし、それをどこかで感知する機能が頭とかに備わっているんだろ」


 そこで、後方に気配。振り向けば、そこに魔族が五体ほど、いつのまにか立っていた。


「シアナ様、こちらは完了しました」

「そのようね……突撃します。セディ様、クロエ様」

「ああ」

「わかったわ」


 剣を抜く。それと同時――攻撃を開始した。


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