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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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作戦内容

 そして翌日――皇帝に見送られて俺達は転移により一度魔王城に帰還。今回の戦いに参加する魔族達は既に現場へと向かっており、俺達は後から行く手はずとなっている。


「今回の戦い、相手は人間とはいえ神魔の力を所持する厄介な存在だ」


 そうエーレは言う……この場にいるのは俺とクロエ、さらにシアナ。

 参加する魔族には、ファールンやリーデスも参加するとのこと。ただしファールンは後方支援。そしてリーデスはシアナと共に前線で戦う。


「魔族側の統制は私達がやるから心配しなくていい。セディ達は自らの力を用い、存分に暴れてくれ」

「どこまでやれるかわからないけど、頑張るわ」


 クロエが返答。烈気、とまではいかないがそれでも戦いを前にして雰囲気が変わっている。

 それを見たエーレは「頼む」と応じた。問題ないと考えているようだな。


「作戦だが、まずファールンが魔族を指揮し砦を囲うように隔離結界を張る。相手が身動きとれなくなった後で、料理を開始する」


 料理……魔王がそういう風に語るとずいぶんと怖い。


「そこから突入班の出番だ。どういった戦力なのか不明であるため細心の注意を払い、勇者イダット達を倒してくれ」

「一応確認だけど、様子を見るって選択肢はないの?」


 クロエの質問。それにエーレは考え、


「研究所を襲撃したことで、何かしら神魔の力に対して研究が進んだかもしれん。ただしそれを実戦投入するには時間も掛かるだろう。数日待っても問題はないかもしれないが……できるだけ早いほうがいいのは確かだ」

「それもそうか」

「他にも主犯者であるイダットは砦を訪れるだけで、そこで潜伏するつもりはないかもしれん。そうなると砦からすぐに立ち去るだろう。それよりも先に準備を済ませ、突撃すべきだ」


 砦から離れる可能性も否定できないからな。俺は「わかった」と応じると、エーレはさらに話を進める。


「今回参加する魔族は当然ながら大いなる真実を把握し、私の指示を受ける者達だ。セディやクロエのことも言い含めてあるため、問題にはならないはず。何かあれば私かシアナに言ってくれ」

「彼らは私のことを見定めようとしているんじゃないの?」


 直接的なクロエの問い。するとエーレは肩をすくめた。


「そういう見方をする魔族はゼロではない……が、私の指示によるものだ。少なくともあなた自身に何か起こるということはないから、安心してくれ」

「そう。ま、この戦いに関わらなければ別にいいわ。それで現在はどこまで準備が進んでいるの?」

「結界を構築する魔族達が徐々に渓谷へと近づいている。勇者イダットの位置は確認済みなので、このままいけば問題なく砦を隔離できる」

「神魔の力を活用した魔物がいたとして」


 俺が発言。エーレ達は視線を集める。


「もし勇者ラダンと同等ならば、俺以外の攻撃が通用しないだろうな」

「私はそれほど強固な力を所持しているとは思えない。勇者ラダンは他者に神魔の力を分け与えたが、側近であるルドウには無理矢理神と魔族の力を押し込めた……つまり彼すらそれほど強引なやり方をしなければ、ラダン以外の他者は神魔の力を扱えない……仮に使えるとしても、完全な力とはほど遠いもの」

「神魔の力そのものを保有しているラダンでさえそれなのだから、勇者イダット達はそこまで力を扱えているわけではないってことか」


 俺の言葉にエーレは「そうだ」と答えた。


「皇帝が研究していた技術を強奪……したかどうかは不明だが、ここではそう解釈させてもらう。そうしたことを行っても、おそらく勇者ラダンの水準には達していないと予想する。これはそれほど特殊な力だからな」

「人間にはそうそう扱えないってことか?」

「少し違うな。前例のない力であるため、研究にはそれこそ膨大な時間が必要となる、といったところか」


 膨大な、ね。俺は「わかった」と答えつつ、イダット達が神魔の力に関する技術をかなり得ている可能性を踏まえておく。


「イダットとキラフについては、捕らえるってことでいいのか?」

「ああ。私達が多少彼らについて調べ……その後は皇帝に任せよう」

 魔法か何かで情報を得るってことかな。正直この点についてはイダット達に同情すら感じてしまう。


 キラフはともかくイダットは人間相手とはいえ勇者として活動してきた。そこに来て魔族が多数襲来するのだ。恐怖以外の何者でもないだろう。


「魔族が結界を構築する以上、イダット達はどういうことなのか理解できるはずだ」


 そうエーレは語る。


「さらにセディ達が現れれば……セディやクロエが大いなる真実の関係者であることも理解できるはず。そこでどういった行動をとるのか……一番の懸念はそこだろうな」

「逃げ出すとかならまだマシってことか」

「ああ。神魔の力を所持していることから、強行突破などという可能性も否定はできない。そうなったら少々面倒なことになるが」


 エーレとしては当然被害はゼロにしたいところだろう。魔族が集い、さらに勇者二人にシアナという魔王の妹まで出張るのだから勝利については絶対的。けれど、神魔の力を活用されれば被害が出ることも予想される。


 ここで――俺はクロエの故郷で遭遇した事件について思い出す。結末は、クロエの親友でありパートナーであったニコラの死去。エーレはきっと、その悲劇を繰り返すまいとしている。

 それはおそらくクロエに対し間接的に説明することにもつながる……すなわち、魔王は犠牲を望んでいないということを。


「……勇者達が現在どういうことをしているのかまではわからないため、不確定要素が出るのは仕方がない」


 仕切り直すように、エーレは語り出す。


「よって砦へ突入して以後は臨機応変に対処することになる」

「その辺りは、問題なしよ」


 と、クロエが語り出す。


「魔族との戦いでは、いつ何時でもそんな感じだからね。心構えについては問題ないわ」

「そうだな。俺も同意見だ」


 クロエに続くように俺が言う。


「エーレ、俺もクロエも勇者としては経験を積んでいるから、その辺りは心配しなくていいさ。結界の維持に注力してくれれば」

「わかった……シアナやリーデスが帯同するから、上手く使ってくれ」

「よろしくお願いします」


 シアナが告げる。正直戦力としては申し分ない――というか、俺達が必要なのかというレベルだ。

 正直、勇者イダット達に対しオーバースペックとも言えるかもしれない……が、こっちとしては絶対に失敗は許されない。イダットには申し訳ないが、盤石の布陣で挑ませてもらおう。


「局所戦とはいえ、重要性はかなり高い。勇者ラダンとの戦い……それを制するために、まずはこの戦いも完全勝利で終わらせよう」


 エーレは笑みを伴い語った――そこで全員が頷く。


「戦闘開始は夜だ。それまで城内で過ごしていてくれ」


 最後にそうエーレが指示をする。こうして話し合いは終わり、解散となった。


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