表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

242/428

作戦準備

 数日後、勇者イダットが渓谷へ入ったとシアナから報告を受けた。


 なおかつ皇帝から「他に買収された人間はいなかった」とも連絡が。とはいえこちらはどれだけ調べても断定的なことは言えない。ただクロエが城に滞在していることから考えると、買収された人間がいたとするならイダットに伝えていてもおかしくない。けれどイダットからは彼女のことについて言及がないし、態度にも表れていない。よって買収といっても研究所に入り込むといった目的だけで、情報収集は含まれていないと考えていいはず。


 つまり相手からこれ以上情報をとられることはない……着々と準備を進めることができる。


「ひとまず、警備レベルを当面上げて対処する」


 皇帝はそう俺達へ言った。政府機関が狙われた以上当然の話で、しばらくこの状態は維持されるだろう。


「よって、こちらのことについては心配しなくていい。勇者セディ、頼むぞ」


 ――というわけで、俺達は勇者イダットと霊術師キラフを打倒するための準備に入る。といっても俺やクロエはもっぱら城内で剣を振って腕を鈍らせないようにするくらいで、シアナが動き回っているのだけれど。

 やることは魔族の招集らしいが……ふむ、エーレと共に活動を始めてから知り合った魔族はそう多くない。もしかするとこの管理の枠組みで活動する魔族と会えるかもしれないな。


 そうした中で俺は宮廷内を歩く……魔王城に帰っても良かったのだが、一応襲撃があってもいいように相変わらず滞在しているのだが、宮廷内の人も俺達のことに慣れてきたためか、出会うと結構親しげに挨拶をしてくるようになった。

 俺は訓練場を訪れる。時刻は昼前だが、いつもクロエが剣を振っている。今日もまたこれまでと同じく、一人で黙々と剣を振っていた。


「クロエ、そろそろ昼食の時間だぞ」


 声を掛けると彼女は「ええ」と応じ、剣を止めた。


「……シアナさんから連絡はあった?」

「魔族がもう少しして集まるみたいだから……出発は、数日後ってことになりそうだ」


 俺の言葉に「そう」と応じたクロエは、一度息をついた。


「なんだか奇妙ね。魔王と顔を合わせ、さらに魔族と協力して勇者を討つ……」

「俺達は完全に敵役だな」

「ええ、まさにそうね」


 笑みを浮かべる……が、それは決して明るいものではなかった。

 理由はなんとなく理解できる。俺は少し思考してから……口を開いた。


「やっぱり、納得はいってないか?」

「……皇帝は謝罪したけれど、心境的に納得できない部分もあるわよ。けど、それは魔王と出会い、セディから話を聞き……ある程度理解はしたつもり。私がこんな風になっているのは、ふとした時に考えてしまうのよ」


 クロエは肩を落とし、


「この場所にニコラがいたら……って」

「クロエ……」

「ごめん、わかってるわよ……でもまあ、少しくらい感傷に浸ってもいいでしょ」


 ――この帝都を訪れてから彼女はまさに激動だった。皇帝と出会い魔王とも遭遇し、さらに今勇者を倒そうとしている。

 魔王城である程度気持ちの整理はつけたはずだけど……俺がフォローするべきかな。


「同じ勇者として、何かあれば相談にも乗るさ」


 言及に彼女は「期待してる」と返し、伸びをした。


「さて、それじゃあ食事としましょうか」

「ああ」


 片付けを行い、俺達は共に昼食をとるべく食堂へ。ちなみにシアナは色々な場所をかけずり回っているようで、結局昼食の席に姿を現さなかった。


「俺達は、どういう役回りになるんだろうな」


 雑談のつもりで今回の戦いについて話を振ってみると、クロエは大げさに肩をすくめた。


「私の方は、見定めるような感じになるんじゃないかしら」

「見定める?」

「魔王は私のことをある程度信頼に置いてくれている雰囲気だけど、他の魔族はそうもいかないでしょう?」


 ……まあ、一理あるな。


「今回招集される魔族がどこから引っ張られてくるのか知らないけど、彼らからすれば私はまだまだ部外者でしょう?」

「ああ、そうだな。俺だってエーレと一緒に動くことを決めてから日が浅いし」

「そういうことならセディの方も、評価するってことにならないかしら」


 ……確かに、そうだな。


「そう言われるとなんだか緊張してきた……」

「今まで気付かなかったのは逆にすごいわね」


 やれやれといった表情。返す言葉もない。


「ところで、どのくらいの魔族が参加するのかしらね?」

「さあ……」


 と、俺はここで一つ想像をした。魔族……彼らが徒党を組んでイダット達の城を包囲するような状況。


 考えただけでゾッとなる……そもそも魔族は単独行動が基本であり、人間達はそこを付け入る隙として戦っている――なぜ単独行動かというと、元々魔族は個体数が少ないことが一点。その状況下で神達に対抗するため大陸を征服すべく各地で活動する必要があり、どうしても単独行動にならざるを得ない……こんな理由だった。


 そんな彼らが一箇所に固まって行動するのだ。人間からしたら戦々恐々である。


「絵面としては怖いわよね」


 同じことを思ったらしいクロエが口を開いた。


「勇者イダット達には同情するわ……ま、どういう経緯であれ研究所を襲撃して色んな人に迷惑を掛けたのだから、代償は払ってもらわないとね」

「そうだな……」


 と、食堂の入口にシアナの姿が。こっちが手を振ると彼女は速やかに近づいてくる。


「セディ様、クロエ様、魔族の招集が完了し、現在準備を始めています。本日中に完了しますので、明日攻撃を開始します」


 早速か……俺達が頷くとシアナは微笑み、


「転移魔法などが存在する可能性を考慮し、周辺を隔離する魔法に加え、さらに魔族を動員することで出現する魔物などに対処します。しかし問題が一つ。神魔の力……それを活用されればこちらも危険な目に遭う可能性も」


 イダットがどの程度神魔の力を完成させているのか……その辺りで変わってくるわけだが、こればかりは戦ってみないとわからないため、難しいところだな。


「よって戦いの主軸はセディ様に」

「俺か……ま、いいよ。シアナはどうするんだ?」

「私とクロエ様も同行します。さらに魔族も参加します」

「どのくらい今回の戦いに加わるんだ?」

「十名ほど。ただし隔離結界などを張る面々を除くと、攻撃に出るのは五名ほどでしょうか」


 全部で十名。無茶苦茶怖いな。敵に回したくない。


「そういうわけですから、準備は済ませてくださいね。私は皇帝にお話を通しておきます」


 彼女は食堂を去る。残された俺達はしばし沈黙し、


「いよいよか」

「この戦いで勝負がつくことを祈っているわ」


 クロエが言う……確かにここで逃げられては元も子もないし、俺達が何をやっているのかバレる。絶対に失敗はできない。


「クロエにも働いてもらうから、覚悟しといてくれよ」

「ええ、もちろんよ。セディも頑張りなさい」


 こちらは頷く――さて、久々に大きな戦いだ。俺は心の内で気合いを入れ、自らを奮い立たせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ