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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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勇者の協力者

 狭い部屋の中で、最初に口火を切ったのは皇帝。


「警備員などに調査範囲を広げた結果、買収された人間を見つけた。内容はまさしく、シアナさんの言った通り」

「その人物が監視魔法などを解除することで、イダットの仲間を招き入れたと」


 俺の言葉に皇帝は頷き、


「そして、潜入した人物についてだが……ここが問題だ。その人物の名に憶えがあったんだ。勇者ラダンの一派……マークされていた存在は四つあったはず」

「……まさか」


 俺の呟きに皇帝は「そうだ」と反応。


「イダットに関わる人物は、四つの勢力ののうちの一人。霊術師だ」


 手を組んでいた、ということか。


「名はキラフ=ジェノン。資料の中では特に目立った行動をとっていないって話だったが、どうやら密かに手を組んでいたらしい」

「面倒なことになりましたね」


 シアナは頬をかきながら言う。


「けれど、これはある意味好機でもあります。勢力四つのうち、二つに対処できるわけですから」

「その霊術師って、不死者を生み出す人物だったはずだが……」


 不死者とは、言ってみれば人工的な魔物。名前に不死と名は付いているが、不死身というわけではない。まあ魔力を維持できれば外部から破壊されなければずっと動き続けることができるわけだから、不死と捉えることだってできるけど。


「彼は不死者に神魔の力を用いている……って解釈でいいんだよな?」

「そう考えて間違いない」


 皇帝が頷く。


「ただ魔王エーレが調べても、表立って活動をしているわけではないため具体的にどんな不死者を生んでいるか詳細はほとんどわからないらしい」


 未知の相手――しかも不死者に神魔の力を施しているとすれば、どうなっているか想像もできないな。


「さて、警備員を買収し研究所を襲ったことは確定であるため、私達も動くことはできる。問題はどうするかだが」

「現在、イダットはまだ移動中です」


 シアナが話し出す。


「よって、彼がどこに赴くかで方針が変わります。もしキラフのいる場所へ向かうのだとしたら、共謀したとして直接出向けば話は終わりでしょう。ですが彼自身の本拠や、別に何か行動を起こそうとしているのなら、改めて対処法を考えなければなりません」

「現状、手元にある証拠だけではキラフに狙いを定めることは可能だが、イダットについては共謀した証拠はない」


 皇帝は語ると、視線をやや落とし、


「魔王エーレからもらった資料に、キラフの本拠地については書かれていた。よってキラフに狙いを定め、今回の事件は彼の仕業として捕まえ、彼から証言を引き出すというやり方もある」

「ま、それが無難でしょうね」


 次に告げたのはクロエ。


「ただし、そのキラフの本拠地が資料通りあればの話だけど」

「その辺りはお姉様も調査しているはずですから、すぐに確かめることができますよ」


 シアナは言うと、手を軽く振った。

 それにより、彼女の正面の空間が歪む。一行が見守る中、やがてエーレが姿を現す。


『定時報告ではないな?』

「はい、現状について説明します」


 シアナは語る――その結果、エーレはこちらが何を言いたいのか理解したようだった。


『キラフについては居所も確かめており、その場所にいるというのは断定できる』

「場所はどこになりますか?」

『帝国の国境付近……いや、いくつもの国境が接触するレジア渓谷だ』

「あそこか、心底面倒だな」


 皇帝は告げると、やれやれといった様子で息を吐く。


「人の手がほとんど入っていない大渓谷だ。国境線はその渓谷の外で線引きされ、あの場所は半ばどこにも属さない中立地帯となっている」

「そんな場所に、居を構えるのか」

『居も単なる屋敷ではないぞ』


 俺の発言に、エーレが口を挟む。


『森の中に溶け込むようにして作られた、砦だ』

「砦……?」

『少し調べてみたのだが、どうも過去大戦で利用されていた建物らしい。人がまともに寄りつかない場所だったからこそ、そうした場所に拠点を構えれば有効なのではないか、と当時の人間は考えたのかもしれない』

「その結果は?」

『あまり効果はなかったようだな……まあ大戦といっても長らく膠着状態に陥っていた時期の話だ。攻めあぐねていた結果、そうした手法を一度やってみて、有用かどうかを確かめたかった、という話なのだろう』


 なんだか複雑な経緯のある砦だな……まあ話の本筋とは関係ないし、どうでもいいか。


『その場所にイダットが行けば、確定だな』

「方角的にはそちらですね」


 シアナが告げる。となると、これはもう確定でいいのではないだろうか。


「皇帝、仕掛ける準備とかはできるのか?」

「……できるが、さすがに準備をして向かうとなると敵に気付かれる可能性はあるだろうな」

「ならば、私達が先行しましょう」


 クロエが提案。その顔には不敵な笑み。


「場合によっては、私達だけで攻めてもいいし。勇者二人に魔王の妹。それだけで十分ではないかしら」

『皇帝、そちらは都の防衛で手が一杯だろう』


 と、エーレが突然話し始める。


『勇者イダット達のことは、こちらに任せてもらえないだろうか? 勇者クロエもやる気のようだし』

「構わないが……いいのか?」

『むしろ今回は魔族ばかりで動く方が効率がいいかもしれん』


 その言葉に皇帝は身震いした……魔族に強襲される情景を想像したのかもしれない。そうなったらどういうことになるのか、元勇者である彼も痛いほどわかっているはず。


『よし、そうと決まればこちらも準備に入ろう』

「エーレ、俺達はどうすればいい?」

『セディ達はしばし都で待機だ。まだ敵が何かしら仕掛けてくれ可能性も否定できないからな』


 述べたエーレは腕を組み、


『勇者イダットは皇帝が研究所襲撃について調べることは想定しているはず。結果として自分に嫌疑が掛かるかもしれないことだって考慮しているに違いない。しかし渓谷の奥に引っ込めば、少なくとも捕まるようなことはない……そう考えているだろう』

「ま、協力者が色々と動いているようだし、イダット自身ではなくその協力者について調べようとする、って考えには至るだろうな」


 俺の言葉。エーレは即座に頷き、


『研究所襲撃の真意はまだ不明瞭だが、国を相手にする以上ある程度勝算……というより、自分が捕まらない対策くらいはしているだろう。イダットの行動から考えて、彼は油断している雰囲気もある。この状況でこっちはしっかりと準備を整え、速やかに彼らを捕まえる』

「その間、こちらは都の守りを固めればいいと」


 皇帝の発言。エーレは『そうだ』と返事をした。


『少しの間は警戒すべきだろう。ともあれ攻めについてはこちらに任せてくれ』

「魔王に言われると、なんとも心強いな……お言葉に甘えさせてもらおう」


 皇帝は承諾すると身を翻す。


「私はもう少し警備員などを洗うことにする。よろしく頼む」


 退出する皇帝。攻めの詳細については、もう聞く必要もないってことか。


『では、反撃開始といこうか』


 エーレが言う。その瞳には、穏やかながら威厳も大いに含んでいる。


『これはかなりの好機だ。勇者ラダンの一派を一網打尽にできるからな』

「頑張るしかないな」

『期待しているぞ』


 俺の言葉にエーレは応じる。こちらは頷き返し――話し合いは終了した。


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