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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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研究所の混乱

 俺達が駆けつけた時、研究所は混沌とした状況となっていた。


「く、来るな……!」

「助けてくれ!」


 そんな声が聞こえてくる中、俺達は建物の中へ。そこには狼、猿、蛇……様々な形状をした魔物がいた。


「一体何が……!?」


 シアナが驚愕の声を発したが、今は答えている暇もなさそうだ。


「クロエ、シアナ、魔物の強さはそれほどでもなさそうだ。分かれて対処するぞ」

「ええ」

「わかりました」


 二人が承諾したのと同時、俺は走る。手近にいた魔物を倒しながら、室内を進む。

 魔物があちこちに発生しており、どこから湧いて出たのかと思う状態。俺は魔物を倒しながら魔物の発生原因を探ろうと動く。


「とはいえ……無茶苦茶だな」


 ひとまず処理しないとまずいか……決断し近くにいた魔物を片っ端から倒し始める。

 強さは並といった程度で、俺なら瞬殺できる。これならクロエやシアナも余裕だろう。


 ただ被害の拡大を最小限に抑えるには、とにかく時間との勝負……そう考えていた矢先、煙が視界に入った。


「……まさか」


 慌てて現場へ。どうやら資料の保管庫らしく、書棚が並んでいるのだが……そこが、業火に焼かれている。魔物が火をつけたのか……!? ひとまずこの部屋以外が延焼していないのが幸いだが――


「消火している暇はないか……避難してください!」


 近くにいた研究員に呼び掛けながら剣を振って魔物を倒す。どうしてこんなことになっているのか――俺の頭に勇者イダットがチラついた。

 まさか彼がやったこと? けれどシアナの報告ではまだ宿場町に留まっているはず。


 こんなことをやる理由が見当たらないけど……胸中で困惑する間に俺は一際魔力が大きい場所を見つける。


「もしかして……」


 即座に駆ける。そこは広々とした実験場。その中央に、巨大な魔法陣が存在していた。

 そこから、散発的に魔物が生み出されている。おそらく魔法陣そのものに魔物を生成する仕掛けが施されている。


「とにかくこいつを破壊しないと……!」


 こちらに群がろうとしている魔物を蹴散らし、剣を床へ向かって薙ぐ。魔法陣はある程度発動の基点となっている地面を破壊すれば消え去るはず。

 ただこの魔法陣は結構強固なのか、一度斬っても弱まる気配すらない。なおかつ魔物がこちらへ接近してくる。これは面倒だ。


 だがやるしかない……剣に魔力を集め、豪快に一閃。地面に切っ先が触れた瞬間、白い刃が真正面を一時覆った。

 それは盛大に床や壁を傷つける……やり過ぎかと思ったが、魔物の出現を防ぐためだ。仕方ないと思ってもらおう。


 俺の攻撃は――功を奏した。魔法陣が急速にしぼみ始め、ついに魔物の出現が途切れる。

 あとは残る敵を倒すだけ。もっともここ以外に魔法陣があるかもしれないので、油断はできないが。


 広間にいた魔物を素早く倒すと、廊下に残っていた敵も処理する。多少時間を要したが、これでひとまず周囲は片付いた。

 なら次は……思案しているとこちらに近づいてくるシアナの姿が。


「セディ様、ご無事ですか!」

「ああ、問題ない。そっちは?」

「平気です。クロエさんも敵を大方片付けたと。魔物が少なくなったので、魔力集積点がある広間へ行こうと私はこっちへ来たのですが」


 彼女は周囲を見回す。


「必要なかったようですね」

「俺の剣で魔物が発生していた魔法陣は壊すことができた。魔物の出現地点はこの一箇所だけなのか?」

「研究所内を確認すると、もう一箇所……そちらはクロエさんが対応しています」


 ふむ、周囲に敵がいない以上、そちらへ行くべきだな。


「よしわかった。なら彼女の援護を……」


 俺達はクロエの下へ行こうと歩み出す。ところがその時、ズズズ、と音が聞こえてきた。


「あっ、終わったようですね」


 クロエが魔法陣を壊したのか、シアナが呟いた。


「火事になっている場所も、魔物を倒したことで研究員の方々が対処しているようですし……これでひとまず解決ですか。しかし、犯人は誰でしょうね」

「単純に考えたらイダットだろ。けれど方法も動機もわからないな。シアナ、彼はまだ宿にいるんだろ?」

「はい、それは間違いありません、こちらの魔法が気付かれ解除されたのなら私にもわかるようになっていますし……」


 とすると、俺達がやったことに大しての報復って可能性は低そうだ。


「元々研究所をこうやって襲撃するつもりでいた……ってことか?」

「かもしれません。動機は不明ですが……いえ、研究成果などを視察したことから考慮すれば、研究内容に対し懸念を抱いたため、なんて可能性もあります」


 ――ここで俺は、一つ思いついた。


「シアナ、資料室が燃やされていたわけだが……もしかすると、この魔物の襲撃は研究成果を奪うために行われた可能性もあるぞ」

「それなら皇帝と話をすればいいだけなのでは? その方がさらに研究を発展できるでしょうし」

「研究内容を見て回り、成果は十分だと判断した。そして皇帝に神魔の力をこれ以上持たせたくはなかった……そんなところかもしれない」

「なるほど、元々勇者イダットは神魔の力を渡す気ではなかったと」


 研究できる相手がいたためそれを提供し、十分だと判断したところで研究成果を奪った……動機としては一応筋が通る。


「だが勇者イダットは宿場町にいるんだろ?」

「今動き出しました。追いますか?」


 まるで襲撃を確認したから動いたみたいだな……俺は一考し、


「そのまま魔法で追跡継続だ。何をやっているのかわからないけど、せめて本拠地くらいは捕捉したい」

「わかりました」


 彼女が返事をした時、クロエを視界に捉えた。


「終わったわよ。魔物も全て倒せたようね」

「はい……ですが、研究資料などが燃やされてしまいました」

「その点については相当ぬかりないわよ、襲撃した人物……ま、勇者イダットなんでしょうけど」


 肩をすくめ、クロエは話を続ける。


「建物内で資料が保管されている部屋は、その全てが無茶苦茶になっているようね」

「研究成果とかも?」

「ええ、その辺りもくまなく。魔物達は最初研究員を襲わず、そうした資料などから破壊し始めたって研究員の人も言っていたわよ」


 狙いはやっぱり研究成果か……俺は口元に手を当て、


「なあシアナ。魔法陣をいつ形成したのかとか疑問はあるけど、少なくともこれは勇者イダットがやったわけではないよな?」

「この研究施設を訪れた彼が最初から偽物だったのならば、その限りではありませんが……皇帝が特に疑うことなく話をしていたわけですし、偽物という可能性は低いでしょうね」

「なら十中八九イダットの協力者だと思うんだが……そいつが彼の指示を受け研究所を襲ったってことか」

「おそらくは。この数日でそうした人物が密かに入り込み、準備をした。あるいは――最初からイダットの協力者が研究所で働いていた」

「その可能性はないでしょ」


 と、クロエが口を開いた。


「そうだったら研究所の情報が逐一イダットに流れていたはずよ。私の故郷で起きた事件を知っていそうな雰囲気だったのに、私がここにいる……違和感があるはずで、イダットだって警戒するでしょう?」

「そんな素振りはなかったもんな……その辺りのことをまずは調べよう。こんな真似をしでかしたんだ。イダットの協力者は役目を果たしたとばかりに、研究所から引き上げるはず」

「もし人がいなくなっていたら、そいつがイダットの協力者ってことね」


 クロエの言葉に俺は頷く。

 色々疑問に浮かぶことはあるが、焦らずここはじっくりと調べるべき……そう考えながら、俺達は状況を確認すべく研究所内を歩き始めた。


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