会談
まず男性の方は、茶髪で陽気な笑みを浮かべる青年。こちらを見て手を振っているが、クロエの方は反応がない。初対面ってことか?
「勇者二人とは初めましてだな。俺の名はラハ=グラウド。数は少ないが北部のエジェルン山脈で竜の王をやらせてもらっている」
――まさかの、竜の王。これにはクロエもびっくりした様子。
「他にも西部には種族はいるが、ひとまず緊急で集められたのがこれだけだ。ま、代表的な種族は集うことができたので、よしとしよう」
エーレが言う……その間、クロエは最後の来訪者に注目する。
それは――女神アミリースだ。
「お久しぶり、といってもあなたの方は憶えているかどうかわからないけれど」
「当然、憶えているわ……私の武器をくれた、女神様」
半ば呆然となりながら、クロエは呟いた。なるほど、武器を直接提供されたのか。
「そして勇者クロエ。この場にいるということは、大いなる真実の枠組みの中で戦ってもらう……それでいいのよね?」
クロエはそれを聞き、黙ってエーレを見た。
「……正直、話には聞いていてもこうして目の当たりにすると驚くばかりね」
「彼女は――女神アミリースは私の友人であり、魔界側と深い関わりのある存在だ」
「友人、ね」
「引っ掛かるか?」
「まあ多少は……けれど、これこそ世界のあり方ってことよね?」
「その通りだ。常識とはかけ離れた真実である故に驚くかもしれないが、慣れてもらうしかないな」
そう告げたエーレは、俺達を一瞥し、
「では、話し合いといこうか」
……面子が面子なので、ものすごく重い話となりそうだった。
玉座の間から移動し、会議室へ、円卓に各々座ると、エーレが口火を切った。
「この場にいる面々には、勇者ラダンについては伝えてあるな。現段階で最終目的はラダンの目的を阻止すること。それに必要なのは純粋な人間二人」
「それについてはほとんど決まっているのではないかしら?」
アミリースが言う……俺とクロエってことだな。そこでエーレへ一つ質問。
「俺達に、その資格があると思うか?」
「セディは問題なし。クロエの方は発展途上だな」
「……なんというか、私で本決まりという風になってるけど、大丈夫なの?」
「そういう気概で今回の任務に当たってくれ」
エーレが告げる。プレッシャーのかかる話だが、クロエ自身臆した風には見えない。
あるいは、あまりに話が大きくなってピンと来てないか……俺も正直そんな感じだからな。
そんな心境を抱きながら、俺はエーレの話を聞く。
「さて、大陸西部はご周知の通り様々な場所で戦争が起こっている……それがさらに拡大し、大規模になってもおかしくない場所もある」
「それについて魔王や女神が介入することはあるのか?」
さらに質問。エーレは肩をすくめる。
「ものによるな。基本私達は管理とは異なる性質のものならば、人間達に任せるというスタンスをとっている。というのも仮にこちらで無理に介入してみろ。それを契機にこちら側に干渉……果ては大いなる真実の管理について反逆しようとするかもしれない」
「ああ、確かに……」
「西側諸国に対し、人間同士との戦いには関わらないということは表明している。まあだからこそ大陸東部と比べ私達が上手く干渉できない面もあり……そこをラダンにも利用されている面もあるだろう」
「勇者ラダンの一派についてはどこまで調べがついているんだい?」
口を開いたのは竜の王、ラハ。
「こちらは、別件で手に入れた資料などと共に調査中だが……不死者を生み出す霊術師については判明している」
ああ、ヴァルターの資料にあった点だな。
「ラダンと手を組み力を手にした勢力は四つ……霊術師と、あとは傭兵団。この傭兵団についてもある程度調べがつき、会う段取りも整えられる。ただ彼らはあくまで人間同士の戦いに力を用いている。まずは彼らについて調べる必要がある」
「そこで勇者さんの出番ってことかい?」
「どうするかについては、後日検討ということになる」
「他の勢力については?」
次に疑問を投げかけたのはエルフの長であるジェデル。
「見つけ出して倒す、で終わりですか?」
「霊術師についてはそれで終わり……と言いたいところだが、傭兵団もそうだが国が嫌疑を掛けてどうこうするというような証拠がない。言い方は悪いが、彼らが所持している力を滅するためには、彼らを捕まえられるような状況を仕立て上げなければならないわけだ」
……汚い仕事ってことだ。ただこれはどうなんだろうな。
「勇者クロエに聞こう。これについてはどう思う?」
「……霊術師が何をしているのかはわからないけれど、傭兵団は単に仕事として戦場を駆け回っているだけでしょう? それを罪もなく捕まえるというのは、少々無茶があるのではないかしら」
「そうだな……これについては、いずれ探りを入れる必要がある。そもそも勇者ラダンと接したから悪、と断定するのは早計だ」
場合によっては説得も……うーん、正直微妙なところだけど。
「神魔の力とやらを所持している可能性は高いのだろう?」
ドワーフの王、ブロウが疑問を寄せる。それにエーレは肩をすくめた。
「それもまた、調べなければわからない……まだまだ資料を精査している段階だからな。別件で手に入れた資料についても完全に調べ終わっていないし」
「時間はどれだけ必要なのだ?」
「それほど時間も掛からない……とは思う。その間にセディやクロエには、一仕事してもらいたい」
「一仕事?」
「主立った勢力はさっき言った通り四つ……そのうちの二つは先ほどあげた者達。残る二勢力についてだが、片方が霊術師と同じような立ち位置で、調べる必要があるのだが、もう片方が厄介だ。簡単に言うと、皇帝に神魔の力を教え込んだ存在。名はセディにも以前話したな」
「イダット=ガルマンってやつか」
「そうだ」
「一番面倒そうだな」
「まったくだ。その人物だけが唯一、神魔の力を他者に提供している……どんな目的なのかは知らないが……彼については優先して対処しなければならないと思う。様々な国で力を教える……まるで戦乱を拡大させようという意図が感じられないか?」
――もしそうなら心底厄介だ。
「皇帝もその人物と接触できるかもしれない……と言っていたため、まずはここから攻める」
「捕まえるにしても理由がいるだろ?」
「何も最初から倒すとは言っていない……その人物の動向を探ってほしいのだ。当該の存在にも味方や、果てはどういった面々に神魔の力を教え込んだのか……その辺りを調べたい」
かなり大変そうだな……しかし、勇者二人が顔を出すという事態に、相手も警戒しそうだが。
「折衝については皇帝に任せることにして、まずはそこから頼む」
「わかった」
ひとまず方針は決まり……といっても俺達だけだが。
そこからエーレはエルフ、竜、ドワーフの王達と話を始める。戦線が拡大した場合や、あるいは今回の戦いについて彼らがどこまで介入するのかなど。
正直そこについて俺やクロエが口を挟む機会はなかった……が、非常に重い案件であることは理解できた。そういうことを自覚させるために、こうして同席させたのかもしれない。
「――よし、これで一通り話し合ったな」
「残るは私達ね」
アミリースが語る。神側がどう応じるのか。
「基本は私を中心とした面々で対応するわ。以前天使が裏切った背景もあるから、迂闊に天使に頼めないのよね」
「誰に頼むのかは任せよう。場合によっては女神側のアプローチも必要になってくるだろう。それまでに準備は整えておいてくれ」
「了解したわ」
承諾――こうして重い話し合いは終了した。




