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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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231/428

見せたいもの

 部屋をノックするとクロエからあっさりと返答が来て、再度部屋に入る。

 椅子に座りどこか呆然とするクロエは、俺を見て、


「まだ話し足りなかった?」

「そうだな」


 対面に座る。その様子を見ていた彼女は、


「自分でも気が抜けているのがなんとなくわかるわ……そういえばセディ、魔王から何か聞いてる?」

「現在色々調査中だってさ。もう少し時間が掛かるかもしれないな」

「そう」

「もしかすると勇者ラダン一派と戦うことになるかもしれない。その場合、クロエはどうする?」


 問い掛けに、最初彼女は反応しなかった。だが少しして、


「……少なくとも、人に被害をもたらす存在よね?」

「大陸西部の戦争について、暗躍しているよ」

「ならば戦うわ。人間は全て善なんて言う気もないし、私が勇者になったのは人々を守るためだから」


 クロエはそう言うと、小さく息をついた。


「……魔王を倒せば人間が救われる、なんて最初は思っていた。けれど現実はよっぽど複雑で……予想とはあまりに違うものだった」


 ――そんな風に話す彼女に対し、俺は一つ思いついた。


「なあ、クロエ」

「ん、どうしたの?」

「クロエ自身は、これからも剣を握り人のために戦う……それは、変わらないか?」


 こちらの言及にクロエは当然とばかりに頷く。


「そうね。どういう結論になったとしても、きっとそこだけは変わらないと思う」

「なら、一つ提案があるんだ」

「提案?」

「クロエはまだ魔王、ひいては魔族がどういう存在なのかよくわかっていない。もちろん魔王の意に反し悪逆非道なことをしている魔族だっているが、魔族全てがそういうわけじゃない」

「言いたいことはわかるわ。なら、どうするの?」

「少し、待ってくれないかな。もしかすると城から出ることになるかもしれないけど」


 俺の言及にクロエは押し黙った。けれど拒否しているようには見えない。


「もう少ししたら、再度話をしよう。それでいいか?」

「なんだか、ずいぶんと忙しないわね」

「俺もそう思うよ」


 言い残して俺は外へ。エーレの所へ再び行こうとした時、ファールンを発見した。


「あ、ファールン」

「……セディ様? いかがしましたか?」


 彼女の両手には書類の束が。


「いや、エーレの所へ行こうとしたんだけど」

「おそらく会ってはくれないと思いますよ」

「え、どうして?」

「執務室にこもりましたから。ああなると仕事の区切りがつくまで部屋から出てこないんです」


 そこまで語るとファールンは抱える資料を持ち直す。


「夕刻までは部屋に誰も入れるなという指示でしたし……」

「そっか。けどそうなるとクロエにはすぐに答えを出せないな」

「クロエ様が、どうしましたか?」

「いや、実は――」


 ファールンに用件を伝える。すると、


「なるほど、それは良い案だと思います」

「それを実行するにはエーレに許可をとってからと思ったんだけど」

「シアナ様と一度お話をしてみては? それなら問題も出ないと思います」


 それが無難か……というわけで、俺はファールンと分かれシアナの所へ向かうことにした。






 それからシアナへ俺のやりたいことを伝え……結局日をまたぐことになり、翌日。


「クロエ、準備はいいか?」

「大丈夫だけど……何をするの?」

「まあまあ、それは行く間に説明するよ」


 この場にいるのは俺とクロエとシアナだけ。エーレはまだ仕事で、俺のやろうとしていることを伝えると「いいだろう」とあっさり許可した。

 なおシアナは観察役。そして今俺達がいるのは転移魔法陣のある部屋。


「それじゃあシアナ、頼むよ」

「はい、お任せください」


 一礼して彼女は魔法を行使する。魔法陣が光り輝き、クロエが驚く間に視界が真っ白に染まり――次に見えたのは、森の中であった。


「え……ここは……?」


 キョロキョロとクロエが周囲を見回す。

 一方、俺もまた同じように辺りを確認。木漏れ日が存在するため森の中でも視界は確保できている。さらに言えば少し先に森の出口らしき光も見えた。


「一応言っておきますが、ここはまだ魔界です」

「……こんな森もあるのね」

「荒廃した大地ばかりではないと、まずは理解できたはずです」


 シアナが言いながら、森の出口を手で示した。


「セディ様がお考えになったことについて、私の口から話をさせていただきます。まずクロエ様は、私達魔族のことをそれほど多くは知らない」

「人間に仇なす存在としか認識していないわね。わかろうとも思わなかったわ」

「クロエ様がどういう決断をされるのであっても、まずは私達魔族がどういう存在なのかをより詳しく知る……セディ様はそう考えました」

「そうは言っても、人間を苦しめる魔族もまた、この世界にはいる」


 俺が口を挟む。そこでクロエは俺と視線を合わせた。


「けど、そればかりじゃないって話を昨日したわけだが……結局のところ、人を苦しめる存在は人間、魔族、天使関係ない」

「天使も?」

「実際俺は、この管理のことを学び始めた際、天使とも戦った」


 クロエは黙する。シアナもまた彼女の言葉を待つ構え。


 やがて、


「……魔族ばかりを悪と見なすのは間違っていると言いたいわけ寝」

「そうだ。大いなる真実を知った以上は、向き合わなければいけない……クロエにとっては不本意かもしれないけど――」

「いえ、私としてもわかるわ。魔王を筆頭に人間達のことを思う存在がいるように、魔族にだっていい人がいるって話でしょ? それを実際私に見せて……答えを出すきっかけとなればってことか」


 理解し、クロエは頷く。


「ここまでお膳立てしてもらったのだから、どういうものを見せてくれるのか、気になるわね」

「では、参りましょうか」


 シアナが言う。彼女が先導する形で、俺とクロエも歩き出す。


「そういえばセディ様、クロエ様にお見せする場所は私達に一任するといったことでしたね。だからこの場所を指定したのですが……」

「俺がこういう場所で、と指図するのもおかしいだろ? それに、シアナやエーレの方が、クロエに是非見せたい場所をセッティングできると思ったし」

「よい信頼関係ね」


 クロエが呟いた。一瞬皮肉かなと思ったが、表情からは本心で言ったように見える。


「魔王は同胞と言ったけれど、私からしたら同じ目的を持って突き進む仲間のように思えるわ」

「私はそう感じていますよ」

「俺は最初弟子のつもりだったんだけど……」

「魔王に打ち勝ったのに弟子にしてくれなんて、おかしな話よね」


 クロエのコメントは至極まっとうなもの……でも、あの時はそれが一番だと思ったんだ。

 やがて森の出口へ近づく。一体どういう景色が待っているのか、俺としても少しばかり気になるくらいだ。


「シアナ、ここは魔王城から遠いのか?」

「それなりに距離はあります。けれど魔界の辺境、などというわけではありません。この魔界において、それなりによく見る風景です」


 魔界の日常ってことだな。俺は頷き、隣のクロエを見た。


 期待、とまではいかないがシアナが見せる世界がどういうものなのか、多少は興味が湧いている様子……その時、とうとう森の出口にさしかかる。


 そして俺達は、光の下で目前に広がる光景を眺めた――


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